第六十四話 オレ、この夏が終わる前に告白するんだ
温泉旅館というだけあって風呂は広い。
家族連れや友人同士で来た大学生らしき人達も見える。
「お前、通りすがる女性を誘惑すんのやめろよ」
「オレに言うな! したくてしてるわけじゃない!」
「下手に誘惑すると死ぬぞ。同じ部屋なんだから」
髪を洗いながら皮肉をぶつけたが雅樹はいつもの調子で否定してくる。
VIP通路から出てきた俺と雅樹を見てまず最初に声をかけられたのは雅樹。というか俺は一度も声をかけられていない。
「だいたいなんで龍輝じゃなくてオレなんだ」
「VIP通路から出てきたイケメンほど優良物件はないからな」
容姿は完璧、VIPということはそれなりに金を持っている。半そでから見える腕は適度な筋肉。そして根暗っぽさはなく爽やか。
狙わない女がいないわけがない。
「イケメンに生まれた代償だ」
「イケメンだろうと大金持ちだろうと愛せるのは一人だけだろ」
頭にタオルを乗せながら雅樹はため息をついた。
「そんな不器用だったかお前」
「女子に声をかけられる数は確かに多いけどさ。オレも龍輝と変わらない年齢=彼女いない歴だからよ。器用になるわけないんだよ」
お揃いだなと爽やかに笑う雅樹の心情は分からない。
小中高全ての過程で三十人以上の同年代女子から声をかけられるのに一度たりとも首を縦には降らなかった。
本人曰く、「幼馴染にくっついて来た女は信用できない」とのこと。それでも中には柚子や海原に負けないくらいの美少女がいたけどな。
「柚子は待ってると思うぞ。さばさばしてるように見えて結構乙女だから」
「知ってる~」
顔をとろけさせ湯船のふちに背を預けリラックス状態の雅樹が答えた。
「今回参加したのも柚子と関係をどうにかしないとなって思ってな~。具体案はさっぱりだけど」
「ただで温泉に入れるからそれに釣られて来たのかと思った。少なくとも俺からの連絡はそれを意識して送ったし」
「んまあ、それもあるけど。......夏祭り、ちょっと柚子と話すわ。だから海原さんは心配ないとしてもアメリアとか鈴音さん任せた」
そういうことなら引き受けよう。
今まで女子から言われた「仲良しだけど友達にはならないで」という注文より遥かに楽だ。
「まかされた」
「んじゃ次お前ー」
既に顔が赤くなった雅樹が真剣な目で俺の方を向いた。
「オレは今回の夏祭りである程度の整理はつけるつもり。んでお前は?」
「俺は......」
雅樹の問いに詰まってしまった。
最初では上辺だけの付き合いでいいと思っていたのにいつからか俺は海原に心を許していた。
それはもう認めてしまおう。見て見ぬふりは疲れるだけだ。
「ああ、好きかどうか分からないとか言ったら金玉ぶっつすからな」
「っ! い、いやそんなことは言わないけど」
服という防具を装備してないからノーガード状態なんだ。やめてくれ。
「んじゃ改めて聞こうか」
「正直、海原自体が押せ押せだからどう動いたもんか」
「はぁ?」
横から間の抜けた声がして向くと雅樹が頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「そんなおかしなこと言ったか?」
「おかしいもなにも。動く必要なんてないだろうが。そのまま抱きしめて「好きだ」とでも言えば万事解決。大団円だろ」
「そうなる気がしない。なんか......難しいんだ」
「なんだそれ」
違和感とまではいかないけどなんか心にもやがかかるというか引っかかる部分がある。
「オレは龍輝が動く必要はないと思うけどな。下手に動いて嫌われたら嫌だろ?」
「まあ。だけど待ってるだけっていうのも......」
男としてどうなのかと思ってしまう。
俺が考えていると雅樹の腕が肩に乗っかってきた。
「頑張れ。今まで龍輝に辛い思いさせた分オレを使っていいからさ!」
爽やかに笑う雅樹を見て思った。
そりゃ世の女性が声をかけるわけだ。カッコよすぎるから俺の横に来ないで。
自分がゴミにしか見えないから。
「ああ。幼馴染だから遠慮はしないぞ」
「おお! どんとこい!」
雅樹は夏祭りである程度整理すると言っていた。
俺はいつにするか。




