第六十三話 温泉へ
いつも誤字報告をしてくださる方々ありがとうございます。
中々感謝を伝える場がないのでこの場を借りさせていただきます。
とても助かっています。
これでも一応投稿前と投稿直後にチェックをしております。内容が分かってるから気づかないミスというやつです。
車の最後部座席に押し込められ逃げることも出来ないまま俺は車に揺られている。
出発して十分もしないうちに見慣れた景色は見慣れない景色へと変貌を遂げ、自力で帰ることは不可能に思える。
家から親公認の誘拐をされ二時間。森の中に静かに佇む温泉旅館へとやってきた。
「結構人はいるみたいだな! 温泉とか久しぶりでテンションあがるぜ!」
雅樹が車から飛び出し下の駐車場を見て言った。
久しぶりに関しては俺も全く一緒。なんなら行ったことないかもしれない。近所にないし。
「こっちの駐車場はガラガラなのにな」
見える車は俺達が乗って来た車を除けば二台のみ。
雅樹に手招きをされて下を覗くと確かに数えるのも面倒なくらいには車があった。
それにそもそも入る道が違うようだ。
「あれでしょ。VIP専用とか?」
「というかそれしかないと思いますけど。アメさんのことだし」
親の財力と権力を自分のものかのように使うからな。
まあ、親の力をどう使うかは人それぞれだし悪さをしていないのなら俺からなにか言うことはない。
「うぅ......酔った......うぷっ!」
「キャリアと脂肪を引き換えに体力を失ったみたいですねぇ。要望があればいつでも削ぎ落してあげますよ? 麻酔なしで」
「ほんとその大きさが憎い」
薄着の裏からちらちらと見える肌色をカッターをカチカチと出しながら見る海原と柚子。
そんなちんけな刃じゃ切れないだろうに。
「父さんがチェーンソーとかその辺の工具持ってるはずだから今はやめとけ。カッターじゃ削ぎ落すのに時間がかかる」
「止める場所間違ってるから! 殺害予告をされてることに誰か突っ込んで!」
「あくまで任意だから」
俺達がいつも通り会話していると浴衣を着た女将さんらしき人が数人の仲居さんを連れて出てきた。
「お迎えも出来ず申し訳ありません。この度は当旅館をご利用いただきまことにありがとうございます。ご予約のアメリア・ライア様でお間違いありませんか」
「そうデス!」
アメが元気よく答えると女将さんの表情が引き締まった気がした。
ま、相手はこの旅館を潰せるほどの財力と権力を持った怪物だ。慎重にならない方がおかしいというものだろう。
「お部屋の準備が出来ております。どうぞこちらへ」
「皆サン! 行きまショウ!」
手ぶらのアメが女将さんの後に続き俺達もついていった。
赤い綺麗な絨毯が敷かれた広い廊下を歩いた先に赤生地に綺麗に装飾が施されたふすまが見えた。
装飾が綺麗すぎてというより光りすぎて素手で触っていいのか疑問に思う。
「こちらが皆様のお部屋となります。専属の仲居をつけますのでご入用の際はお呼びください」
ふすまが開かれると中は旅館と言えばという内装。畳に茶色い長机を囲むように椅子が部屋の中央にあり、窓の外には広めの風呂がある。
たしかに外の豪華さに比べればだいぶ質素だろう。
「中は普通だな」
「お客様の中には豪華すぎて落ち着かないというお声もいただきますので」
雅樹のちょっとした言葉にもしっかりと返答をしてくれる。
部屋の説明をあらかたし終わると女将さんは丁寧にお辞儀をして出て行った。
残されたのは俺達六人。
「先輩! さっそく露天風呂行きましょう!」
海原がキラキラした目で部屋の奥にある貸し切り露天風呂を指した。
「俺達は一般の方の風呂使うから」
「どうして!? 女の子とキャッキャウフフでお風呂に入れるのに! もったいないです!」
「俺の頭はそこまで楽観的じゃない」
ラノベとか漫画の世界なら入ってイチャコラを見せて欲しいが生憎ここは現実。
つまり、俺の心臓がもたない。
「遠慮は必要ないですよ。先輩に見られて初めて価値が付加されるんですから」
「そんなことないだろ。むしろ誰にも見られてないから価値が高いんだ」
秘宝が隠れているから秘宝と言われるのであって、毎日目にしていたら価値が薄れてしまう。
そして海原と同じ考えを持つ人も当然いる。
「なら時間帯とかで入らない? 折角貸し切りで泳げるんだし。アタシも龍輝に裸見られるのは恥ずかしいし」
まっとうなこと言ってそうで言ってない柚子さん。
目的は分かるけどね? もっと上手い立ち回りは出来ないのか。それかあれか、雅樹と入ることを想像するのに手一杯で頭が回ってないのか。
「お姉さんはお酒とか飲みたいから一般の方を使うよ~。あと入ったら引きちぎられそうだから」
「優しくしますよ」
「実行してる時点で優しさの欠片もない。」
「あっても邪魔なだけなのに」
「柚子先輩。殺しましょう」
「そうね。禁忌を犯した者には神罰を」
アメが俺と雅樹を盾にし標的は鈴音さん一人に向いた。
「龍輝くん! 雅樹くん! 止めて! 死んじゃう! この人達目が本気だから!」
「ちょっと見ないうちに姉妹みたいに仲いいな!」
「伊達に毎日顔合わせてないからな。これを毎日のようにやられるんだ。結構疲れるぞ」
「人が助けを求めてるの! 助けてって!」
広い部屋の中をどたばたと走りながら殺人鬼からの手を身軽に避ける鈴音さん。
楽しそうだし止める必要はないと思うけど。
ちょっと目が血走ってたり涙と汗でぐちゃぐちゃだったりするけど。
「仲がいいようでなにより」
「達観しないでっ! ぎゃあああ!」
死んだな。
俺と雅樹が呆れ気味に見ていると後ろに隠れていたアメが俺の服を引っ張った。
「龍。明後日にこの近くで夏祭りあるデスヨ」
「それを俺だけに伝えてどうする」
「エスコート。男なら当然デス!」
いつもなら疲れることが分かり切った行事なんて足が重くなるだけなのに今回は妙に心が踊った。




