第六十話 両側から教祖に宗教勧誘される恐怖
「んで、アメはなんで俺達に何も言わずに権力を振りかざしたんだ?」
ほとんど人が来なくなった昇降口で何気ない質問のように聞いた。
小畑先生は役に立たないから直接本人に聞く。
「? なんの事デスカ?」
「その顔やめろ」
目を真ん丸にして罪から逃れられると思うな。
お前がそんな純粋じゃないことは俺は知ってんだよ。
「学校というのが羨ましくて......ゴメンナサイ」
「また冬になれば学校だっていけるんじゃないんですか?」
アメは寒い気温に対してアレルギーを示す特異体質。アメの出身は夏でも涼しいくらいの国。
一年通して同じ学校にいたことがないと本人の口から出会ってすぐに聞かされた。
「アメも普通だったら学校にいけてたのかもしれまセン」
アメはそういうと諦めているような笑顔を作った。
いつも見せる天真爛漫な可愛らしいものではなく、諦めと悲しみから来る笑顔。
だがそんな笑顔を見せられたところで夏でも冬でも普通に過ごせる俺にアメの辛さは分からない。それなのにアメの声を聞いていると辛さがじわじわと伝わってくる。
同じ学校にいられないのなら友達なんて出来ないし、もしかしたらズル休みだという声の方が多いかもしれない。
「あと中学生女子という食べごろの乙女を見たかったデス」
アメの言葉の後、時間が止まったかのような静寂が数分に渡り続いた。
誰しもある一定のテンションのまま衝撃的なことを言われたら解釈に時間がかかるだろう。
海原の頭はフル回転でかみ砕いで解釈しようとしているだろう。無駄なのに。
一番効率がいいのは、最初からなにも考えないことだ。思考放棄とも言う。
「なんか、崖から突き落とされた気分です」
時間が止まっていないと証明されたのは海原の一言からだった。
「俺も最初は同じこと思った。悲しいこというテンションでセクハラしてくるからな」
「だって! アメは今十七歳! もう中学校には入れないのデスヨ! だったら向こうから来るタイミングで迎えるしかナイ!」
悲しい笑顔から一変、だらしなく頬を緩ませて恍惚とした表情を作ったアメ。
感情のジェットコースターすぎてついていくのは最初の方に諦めた。
「龍もどうデスカ? 一緒に幼女を愛して見ませんカ?」
「幼女教には入らない。入ったら刑務所にも入らなきゃならない」
そんなバットエンドルートまっしぐらなのは嫌だ。
「先輩を変な宗教に誘うのはやめてください」
俺を愛教とかいう胡散臭さしかない教団に誘ったのはどこの誰だろうか。
あと俺を挟んで言い合いしないで。
「うーん。残念デス。もし幼女教に入信すれば、幼女体型であるハニーにラブになると思ったの二」
「そんなとんとん拍子に行ってたまるか」
俺がアメにジト目を向けると反対側から手を握られた。
振り返ると「その手があったか!」と目を輝かせる海原の姿が。将来詐欺とかに遭いそうで怖い。
「俺は生涯無宗教を誓ってんだ。悪いな」
「先輩は愛を信じないと?」
「龍は幼女を愛さないと?」
「え、なにこれ怖い」
両側から教祖に宗教勧誘される恐怖を味わったことあるのは地球上で俺一人だと思う。
かたや愛を信じればなんでも叶うとアンパンマンみたいなことを言う宗教、かたや幼女を愛せば幸せになれるとかほざく変態集団。もはや宗教ですらない。
「愛だとか幼女だとかどうでもいい。俺は一人しか愛さないし、相手が幼女とは限らない」
「え、わたし以外にいるんですか? 候補の人の名前教えて貰ってもいいですか? 参考までに」
だったら光を戻して。あと迫ってこないでいないから。
「残念ながら候補すらいないな。ま、候補に出来るほど深くかかわった人間がいないってのも確かだけど」
「ならわたししかいないじゃないですか~」
俺の肩をバシバシと叩く海原。それを見てアメは頬を膨らませた。
「ハニーは渡しませんヨ!」
そこで俺じゃなくて海原を取るあたり争いがなくていい。そこで俺を取り合うとするなら死体が出来上がってしまう。
犯人は白い髪を持った死神だ。




