表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/200

第四十六話 夏休み前のタダ働き

定期考査というのは辿り着くまでに血がにじむ思いをするのに対し、終わるのは案外すぐだったりするなんともエネルギー効率が悪いイベントなのだ。

 もっとも、全てのエネルギーを勉強に割けばの話ではあるが。


「武内柚子さん。あなたは今回の定期考査で三〇点もの点数を落としましたがなにか弁明は」


 珍しくというか、当たり前に柚子は三〇点ダウン。雅樹は通常運行。

 俺と海原は七〇~六〇辺り。この差はどこで出たんだろうねー。


「アタシはちゃんと勉強したし。ただ勉強した箇所からの出題がすくなかっただけだし」

「まあまあ。柚子が点数下がって平均点も下がる。赤点の奴がいなかったんだからいいじゃねぇか」

「そういう雅樹は相変わらず赤点ギリギリだなぁ。成績優秀者の柚子がついていながらその体たらく。なんの勉強をしてたのか聞かせて貰おうか」


 雅樹はいつも通りだが柚子まで点数が三〇点も落ちるのは流石におかしい。

 ま、二人で勉強って時点で嫌な予感はしなかったけどな。


「先輩達、ずるいですよー。わたしなんてイチャイチャしたくても先輩、ガード硬くて相手してくれないんですよ」

「俺だって勉強しないと雅樹レベルなんだよ。いいのか? 夏休みの前半が補習で潰れても。夏休みは忙しいからな。民宿は」


 新規の宿泊者やあの馬鹿が帰ってくる可能性があるんだ。

 そのため長期間家を空けるわけにはいかない。


「雅樹、二学期から頑張るよ!」

「そうだな! 二学期から頑張るか!」


 柚子まで雅樹レベルに落ちなくていいんだぞ。二学期になったら余計意識して勉強どころじゃなくなるっていうのに。

 ま、それで恋路が進展するなら俺は一向に構わないが。怒られるのは本人達だし。


 定期考査が終われば夏休みまで秒読みで、学校全体が夏休みムードになる。

 だが俺達はその前に仕事をしなければならない。

 お天道様が容赦なく焼き殺そうとしてくる日曜日。グラサンに麦わら帽子を被った小畑先生の指示の元、俺達はプール掃除をしていた。


「せんぱーい。わたしもブラシやりたいですぅー」

「この日差しの中、日向に居て平気なわけないだろうが。放水で我慢しろ」

「アルビノさえなければ......先輩とドタバタハプニングでエッチな展開に出来たのに......」


 不満そうに目を細める海原。

 そもそもアルビノを俺が褒めたからじゃなかったっけか? 事の発端というかきっかけは。


「なに言ってんだよ。そんな綺麗な髪、要らないとかいうな。唯一無二だろうが」

「でも先輩と一緒に居られないのならいらないです」


 とはいってもこんな快晴の日に海原を日向に出すわけにはいかない。本当なら薄く張った水面からの照り返しも考慮して家で留守番というのが一番いいんだが、それを大人しく聞くほど海原は大人しくない。


「ちょっとちょっと~こんなに暑いのに更に熱くなっちゃって~どったの~?」

「絡み方がうざい。俺はこっち側やるから雅樹と柚子はあっちやってくれ」

「ほいほ~い」


 柚子は器用に滑りながら雅樹の元へと戻っていった。


「海原、雅樹と柚子に放水を頼む」

「え、いいんですか? ジャージとはいえ下着のはずですけど」

「いいんだ。熱中症で倒れたら困るだろう?」

「それもそうですね」


 もっともらしい言い訳をよく思いついた。えらいぞ俺。

 海原がホースの口を絞れば水の飛距離は格段に上がる。上がった水圧はそのままアツアツバカップルのもとへと届けられる。


「冷たい!」

「つめてぇ!」


 弧を描くようにして注がれる水は雅樹達を一瞬でずぶ濡れにした。


「なにすんだ!」

「下着までびしょびしょなんですけど!?」

「ちょっとうざかったから冷水のプレゼントだ。夏も近いし熱中症対策は必要だろう?」

「海老ちゃん。龍輝の上裸見たかったらその水かければ?」

「先に言っておくと、かけられても脱がないぞ」

「はい。なら脱ぐっていうまで浴びせますね?」


 畜生。なんで柚子の方が海原の扱い上手いんだよ。

 幼馴染仲良く三人ずぶ濡れ。ジャージが肌にくっつくいて気持ち悪い。

 少しでも風が吹けば涼しいかと思ったがそんなことはなかった。

 濡れた服が太陽によって温められ熱を持つ。定期的に冷水を浴びないと本当に熱中症になるぞこれ。


「熱中症になるのが先か、掃除し終わるのが先か。見物だな」


 白いジャージを羽織って腕を組みながら不敵に笑って手伝う気が微塵も感じられない体育教諭。


「高見の見物してないで手伝ってくれませんかね。本来なら業者がやるようなことでしょう」

「その書類関係は毎回面倒なんだ。業者に頼まない分学校の金が浮くしな。浮いた金がどうなるのかは知らないがね」


 なんかやる気でないな。どうせお偉いさんの懐に入るか俺達の代で使われずに眠るか望んでいない形で使われるかの三択だが実質一択のようなもの。


「お金の話は大人たちに任せて、ほらやるよ! 夕方までに終わんなかったら明日もだよ」

「うげぇ。龍輝、やるぞ。この炎天下を二日連続は無理だ」

「俄然やる気出てきたわ」


 ブラシで底の苔を落としていく。ヌメヌメとした苔を落とすとスベスベに変わっていった。

 炎天下、無償で昼間っからなにしてんだ俺。いつもならエアコンがかかった部屋でゲームしてるか宿泊客の相手をしてるかなのに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ