第四十話 「これがわたしの本気です。嘘偽りない」
家の中に入るとソファに座る三人の姿が。
俺の母さんと、海原の両親。俺の父さんの姿が見当たらなかった。
「あら、おかえり」
「ただいま」
「龍輝達も同席してくれる?」
やはり連れ戻す気はないように見える。
意思が固まってるなら子供の意見なんて聞くだけ時間の無駄だろう。母さんが言葉の殴り合いで負けるとは思わないしもし母さんで勝てないようなら俺も勝てない。
俺が開いてるソファに座ると海原も隣に座ってきた。自分の親に近い位置だというのになぜ俺にくっつくように座るのか。
「話の続きと行きましょう」
海原パパがそう言って話が進み始めた。
「まず意見の確認ですが、僕達は娘を引き取りたいと思っています」
おや、連れ戻す気だったのか。ならなんでこんな手間のかかることをしてるのか。
「私共は一向に構いませんよ? ただご自宅はここから遠いですが通わせられるのですか? 折角お友達も出来て海老名さんの髪色にも理解が生まれたのにそれを親の都合で白紙にしてしまうのは勿体ないです。私共はいつまで預かっても負担にはなりません。それが家業なので」
母さんの意見はごもっとも。だがその意見をすんなり受け入れるなら今頃大団円だろう。
「自宅からでも通えないことはないので大丈夫です。朝は早くなりますが学校に行きたいのならばそれくらいはやって当然。自分がやりたいと思うなら障害にはならないでしょう」
だが精神的、身体的な負担にはなる。自分の娘のことなのにその辺考えないのか。
流石の無視さに母さんも絶句。こめかみを押さえて首を横に振った。
そもそも子供の意見を聞く気がないならなぜ俺達は同席させられたんだろうか。意見を言える空気じゃないし聞いてるだけ苦痛だ。決まりきった話合いなんて。
「龍輝はどう思う?」
「え?」
机を見つめていた俺に母さんが急に話を振った。
海原の両親の顔を見ても喋るなという雰囲気はない。むしろ「はよ話せ」という威圧すら感じる。
「俺は別にどっちでも......いってぇな! 爪立てるなよ!」
「守るって言ってくれたじゃないですか!」
近くに置いていた手に鋭い爪が刺さった。
今その黒歴史を持ち出さないで。軽く恥ずかしくて死にたくなるから。
「あのな。あれは海原がこの家にいる間の話であって、帰る帰らないの話なら別だ。俺はどっちでもいい」
「それって『居てもいい』ってことですよね! ね!?」
「そうとも取れるな」
去年の俺に今の俺のセリフを聞いて欲しい。絶対にニセモノと言われる自信しかない。
人が泊ってる状況が苦痛だったあの頃と比べれば、成長したなー俺。
俺がしみじみと自身の成長をかみしめていると海原が立ち上がり熱弁を始めた。
「パパ、ママ。わたしは見ての通り今がすっごい幸せなの! 前に話してた先輩がこの人! アルビノに理解があって変な気遣いがない人! いい人なの! ずっと一緒にいたいの! わたしは先輩のことが大好き! だから傍に居たい!」
「今が幸せでも後々どうなるか分からないだろう?」
「どうなるか分からないから今の幸せを手放したくないの! わたしは帰らない! 帰るなら先輩も連れて行く!」
「待て待て。これ以上朝早いのは無理だぞ。それに人の家に泊れるかよ」
人が泊るように改修した俺の家と違って海原の家は普通の家だ。仮に人が泊れるほどの広さがあるとしても敵の本拠地に乗り込むようなものだ。俺の貞操が危険で危ない。
ゆっくりくつろぐことはできないだろう。
「我がまま言うようになんてーもぅ」
お父さん。オネェが出てきてますよ?
「絶対に帰らない!」
「そんなこと言わないでぇ。帰ろ? 学校に行けば会えるし、パパ心配だしぃ」
なるほど。別人格というのも納得が出来る。娘に断固拒否された海原パパは弱々しくオネェのような口調になっていた。
いつの時代も、父親は娘に弱いんだな。
「いいだろう」
俺達の押し問答をぶった切ったのは海原のお母さんだった。
凛とした声に綺麗な青髪。ただ元ヤンなのか口調が少し荒い。
「満足するまでここに居ればいい。迷惑じゃないというなら構わないよな?」
「ええ。いくらでも」
「いいんですか? なにしでかすか分からないですよ? 娘さんは」
俺が聞くと眉間にシワを寄せて鋭い眼光で睨まれた。
「ただし絶対に海老名には手を出すな」
「えー先輩になら手を出されてもわたしはいいのに」
「結婚して死ぬまで支えるなんて時代錯誤もいいところの覚悟があるなら許す。ただし約束破ったら......分かってんだろうな」
この人柚子がガチギレした時より怖いわ。圧が凄いんだ。
指詰めとか沈めるとか普通に言いそうだしやりそう。
「破ったら沈めな。海に」
言いそうじゃなくて言われたわ。
「大丈夫です。この家には女子高生や中学生、OLも泊ったりしますが手を出したことは一度もないですから」
「勿論裸を見ることも許されないからな」
おっと? 俺死ぬ? あ、でもバスタオル巻いてたからセーフか。あ、いやでものぼせて運ぶ時にバスタオル取れて生まれたままの海原を見たよな。上も下もバッチリと。
でもまあ、海原を黙らせておけば平気か。
「勿論デスヨ。任セテ下サイ」
俺が震えた声で喋ると海原がこっそりと手を握ってきた。
海原? 手、握ってていいからなにも言うな? 特にこの前の雨に濡れた話とかな。
「守ると言ったのならば徹底的に守れ。海老名から泣いて電話があった日には時間帯に限らず連れ帰る」
なるほど。いい母親だ。口調や性格は俺の母さんとは違うけどそれは全て海原のためだ。
「子供が心配だから」という親なら誰しもが持つ一般的な考え。母さんも俺が家出をして人の家に長期間泊るというのなら同じことをして同じことを言うだろう。
「スーパーマンじゃないんですけど......やれというならやります。それが俺の仕事なので」
海原が残るなら残るで俺の仕事が継続されるだけ。これまでと一切何も変わらない。
海原の両親の車が見えなくなった。
そして横にいる後輩は勝ち誇ったような顔をして胸を張っていた。
「愛の力ですね!」
「お前......言ってること俺とあんまし変わらないからな」
「へ? わたしはありのままの事実を言っただけですけど......あ、ときめいちゃいました?」
やめろ顔に触れようとするな。顔が熱くなってるのがバレる。
海原の顔を見ると勝ち誇ったような顔をしていた。
「これがわたしの本気です。嘘偽りない」




