第三十九話 実の父親になんてことを
球技大会が無事終了し、これまた無事に雅樹のファンが増えた去年と変わらないイベント。
俺としても特に面白味もなく準々決勝敗退というなんとも微妙な結果となった。
「ねぇ、なんで? なんで雅樹の周りの女が増えんの?」
これも去年と変わらない。
柚子に胸倉を掴まれ酷く焦った顔で迫られるの怖いからやめて欲しい。
「雅樹に言え、あいつが目立つから。理由は単純だろ」
「その代わり先輩は目立たずに適当にやり過ごしてましたよねー。応援しようと思ったのに!」
残念だったな海原。俺はそんなイベントにガチになるような熱血さは持ち合わせてないんだ。
熱血さがご所望なら運動部の部長辺りに擦り寄ればすぐに手に入るだろうさ。海原の可愛さがあればな。
「用がない生徒はとっとと帰れよー」
小畑先生が怠そうに注意喚起をしに来た。体育担当は疲れるだろうなこういう運動系のイベントは。
「雅樹は?」
さっきまで一緒だった雅樹が突如として消えていた。
ま、理由はだいたいわかるけど。
「さぁ? どっかで告白されてんだろ? 毎年のことだ」
「ちょっと探して殺してくる」
誰をと聞く前に柚子はダッシュで教室から出て行った。
ここまでテンプレ。そして俺が一人で自転車こいで家まで帰って鈴音さんにからかわれるが......今年は二人になるな。
「俺達も帰るか」
柚子の言葉は聞かなかったことにしよう。翌日のニュースで柚子の名前が載らないことを祈る。
「今日は疲れました~」
「バレーってそんなに疲れるか?」
「そりゃ疲れますよ! ブロックしたりジャンプしたり! ボール弾くのだって腕の部分痛いんですよ!」
あーまあ、例えバレーしても取れるボールしか取らないから俺は疲れないのか。ただ浮かせるだけだからな。そこまで疲れない。
今日だってコートの端で取れるボールだけ取ってたしな。
「球技大会が終わったら次なんですか?」
「定期考査じゃないか? それが終われば夏休みまで秒読みだ」
「じゃあ勉強しないとですね! 先輩、勉強はどうですか?」
「出来る方ではないな。かといって悪くもない。六十あたりをウロウロしてるな。どの教科も」
勉強に関して言えば柚子が俺達三人の中で一番いい。逆に悪いのが雅樹だ。赤点スレスレが基本で五十点以上は自力じゃ取れないくらいには頭が悪い。
「去年はどうしてたんですか?」
「適当にテスト範囲を自分なりにノートにまとめただけ。特に勉強会なんてものは開かなかったな。雅樹が重症すぎて柚子がつきっきりだったし」
「......それ勉強出来てるんですか?」
まあ、結果だけいえば赤点回避してたから勉強できてたんだろうけどその内訳を聞いたら勉強じゃないだろうな。
年頃の男女が誰も邪魔しない空間で二人キリ。なにも起こらないはずがない。
「じゃあ、今年は先輩はわたしと勉強しましょうねー」
「一人でした方が集中出来ていいぞ」
「あ、集中とかいいんで。イチャイチャしましょう?」
純粋に問おう。勉強とは。
勉強という学生らしい会話をしながら帰ると家の前に一台の車が止まっていた。
ナンバープレートから見て結構遠くから来たようだ。
特別珍しいことじゃない。去年も母さんか父さんの知り合いで食材を大量に持ち込んだおっちゃんがいるんだ。今回もその類だろう。
「先輩......」
後ろに乗った海原が小さな声で俺のブレザーを掴んだ。
「......なにした」
「なんかした体で話さないでくださいよ!」
「お前がそういう顔するときは大体問題ごとなんだよ! 怒らないから言ってごらん?」
「その言い方は怒ってるじゃないですか!」
「事と次第による」
「ほーら! ただパパとママに様子が気になるなら見に来いと......言っちゃいました? てへ!」
腹立つな......じゃなくてなんてことしてくれてんだよ。
いやまあ、娘が家出して先輩宅に居候になるほどの行動力の親だ。海原以上に行動力があってもおかしくはない。
「海老名」
玄関前でぎゃあぎゃあと言い合っていると家の中からスーツ姿の男性が出てきた。名前呼びということは海原パパだろう。
サッと俺の後ろの隠れる海原、そして睨まれる俺。なにもしてないのに。
俺の後ろから顔だけ出して男性を睨む海原。
声を出しちゃいけないような微妙な空気が流れ俺は自転車から取り敢えず降りることにした。
「海老名。元気か」
眉間に皺を寄せ、俺を睨んでいた男性が優しく笑った。
「うん。元気」
それに合わせて海原は答えた。
「それはよかった。パパとママは中で待ってるよ」
海原のお父さんはお辞儀をして中へと戻っていった。
「誰?」
ふいに後ろの後輩がそんなことを言った。
「いやお前のお父さんだろうが」
「顔はそうだけど性格が違う。別人格。え、怖い」
大人は誰しも外向きの顔ってのを持ってんだよ。人の家の前だし俺がいたから外向きの顔をしたんだろうよ。
「顔がそうなら平気だな」
「いやいや! わたしを攫いに来た変質者かもしれませんよ!」
実の父親になんてことを。
娘が来いというから来たら変質者扱いされるお父さん可哀そう。
「くだらないこと言ってないで入るぞ。てかそもそもお前が撒いた種だろうが」
「それはそうですけど......戻ってこいと言われたら先輩守ってくれますか?」
胸辺りで指をいじいじする海原は夕日も相まって可愛く見える。だがそれは不可能だ。
学校の先輩と保護者では持つ権力が強い。なんなら俺に権力はない。
「守る必要はないと思うがな」
「連れ戻す気はないと?」
「さあな。それはこれからだ」
だが連れ戻すならもっと簡単な手はあるはずだ。
例えば、小畑先生も同席させて親だけの話し合いとか海原の意見が介入しない場でやれば保護者の権利で一方的に話を進められる。
「大事にされてんなー」
「はい? なにか言いました?」
「別に」
大事にされてるのに変質者かもとか本当にお父さん可哀そう。




