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第三十一話 授業中の逢引はいけないことらしい

身体測定が終われば学校の雰囲気は球技大会へとシフトする。

 天気は晴れ、気温は二十五度。

 体育の授業が完全球技となり時間割も変則的になる。この時期のいいところは生徒が体育に精を出すところだ。

 なぜか。


「館林~!」「カッコイイ~!」「キャー!」

「お前ら! 館林は絶対に止めろ!」「四人でいけ四人で!」「ゴールはおれに任せろ!」


 こんな風に男女が一緒になるからだ。

 男子はいいところを見せようと、女子は運動できる男子を見つけようと必死になる。

 それを俺はサッカーコートの一番ボールが来ない場所で眺めていた。


「サボってないでいきなさいよ。雅樹に追いつけんの龍輝ぐらいでしょ」


 コート端でサボっていると柚子が注意しに来た。


「暑いのに更に熱くなれと? 無理だろ。俺は基本インドアなんだ」

「雅樹だって変わらないけどあんな頑張ってるじゃん」

「あれは頑張らせられてるんだ」

「ん?」


 キャーキャー言われるから注目が集まる、注目が集まれば当然ボールは行くしマークもされる。

 全て雅樹がイケメンだからだ。俺にはそれがない。


「じゃあ、こっち見る?」

「ん?」


 こっそり抜け出して来たのはグラウンドの後ろ。校舎東側、テニスコート。

 学年によって色分けがされないこの浜辺高校じゃジャージ姿じゃ分かりずらいというのが前々から出る生徒からの不満だがこの学年だけは別だ。

 周囲の黒や茶の中で白は良く目立つ。


「海原......参加しないのか?」

「さあね。それはご自分で。アタシ、戻るから」


 わざわざこれ言いに来たのか。ありがたいけども。


「先生には......「腹壊しましたー」とでも言っておくから。ごゆっくり」


 ちょっとした坂を上った柚子の姿が消え、俺はテニスコートに視線を戻した。

 その瞬間、目の前が真っ白になった。

 視線を下に下げると赤い目が嬉しそうに細くなった。


「先輩。来てくれたんですね!」

「あんまりデカい声を出すな。バレる」


 こっちもテニスコートの端でバレないだろうけど海原の髪色がな......少しだけ話したら戻るか。


「海原はテニスに参加しないのか?」


 海原は皆がジャージの中、一人だけ制服だった。暑いというのに袖を完全に伸ばして手で影を作っていた。逆光でもないのに。


「ああ、えっと......」

「生理か?」

「違います!」


 割とマジで怒られてしまった。


「ちょっと体調が悪くて休んでるんです」

「......そうは見えないが? ......本当は?」


 俺がにこやかに笑いながら問いかけると海原は視線をそらした。

 海原が嘘をついている時の癖だ。嫌というほど傍にいれば癖の一つや二つ分かる。その先の「なにを隠しているか」はまだ知らないことが多すぎるが。


「そ、その前に! 今年、海に行く約束をしてください!」

「海? なんで」


 海原の事だから行きたいって騒ぐだろうなとは思ってたがまさかここで約束させられようとは思わなかった。


「ほ、ほら! わたしっていつ帰還命令が来るか分からないじゃないですか! だから最後の思い出に出来るように先輩の口から言質を取っておこうかと.....」


 なるほど。海原らしいと言えばそうだが違和感がある。海原ならもっと自然な形で俺が気付かないうちに言質を取るだろう。だが今回は見え見えの誘いをしてきた。それほどまでに海に行きたいか。他に理由があるか。

 だが俺は気付いてしまった。海原が海に行けないことに。


「海原お前、手、赤いぞ」


 目元に日陰を作っていた海原の手がぽつぽつと赤みを帯びてきて日陰がなくなると目を細めまともに目が開けられないようだった。

 俺はジャージを脱ぐと金網の上から海原に手渡した。


「かぶれ。少しはマシになるだろ」

「あ、ありがとうございます......もしかして先輩知ってました?」


 気まずそうに海原が首を傾げ聞いてくる。知ってた。俺は過去に調べていた。海原の、アルビノについて。


「紫外線に弱いんだっけか? 詳しい症状までは覚えてないが」

「はい。なのでこうした外での運動、水泳、スノースポーツは出来ません......勿論海も......」


 観念したのか海原はうつむきながら言った。こんな外に出すだけで危険な娘を親はよく許可したな。自分達の手が届かない遠方の宿泊を。


「そんなことか」

「そんなことって言いますけど!」

「海じゃなくても屋内プールで雨の日に行けばいい。晴れの時よりはマシだろうよ」

「......て、天才だ!」

「視野が狭いんだ。行くにしても、日焼けはしっかりな。念のため」

「はい!」


 一瞬曇った海原の顔は頭上のお天道様より輝いて見えた。最期にそれが見えただけでもいい。


「やーまーだーくん」

「わりぃ、俺死んだ」


 お返しににこやかに答えると半そでの首根っこを掴まれた。


「どーも小畑先生。どうしてここに?」

「それはこっちのセリフだ。私の授業をサボるとはいい度胸だ。愛しの後輩に会いたいのは分かるが今は授業中だ。分かるな?」


 言葉も顔も優しいけどこの人ぶち切れ一歩手前だ。


「高校時代にこういう経験が出来なかったからってやっかみはよしましょ?」

「ふっはははは! ......殺す」

「じゃあな海原。ジャージは後で返してくれー」


 ずるずると引きずられ俺はグランドに戻ってきた。

 休憩中なのかコート上には誰もおらず俺はサッカーゴール前に放り出された。


「私のシュートを止められたら許してやる! 死ぬ気で止めろ!」

「まさか図星でした? 謝るんで許してください」

「言っただろう。殺すと」


 あの人生徒相手に目がマジだぁ。本気で殺すって言われてるのが肌で分かる。目の前のサッカーボールが凶器にしか見えない。顔面に受けたらそのまま首が引きちぎれて神経ぶら下げながら一緒にゴールされそう。


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