35 14日目
門でいつも通りおすすめの宿を聞き、宿を取ると、これまたいつも通り冒険者ギルドに向かった。
「流石冒険者の町と呼ばれるだけあって活気があふれているわね~」
「そうだな」
「っていうことは、絡まれやすいってことだよね?」
「僕、あれは嫌なんだけどなぁ」
「仕方ないわよ。いつものことと割り切るしかないわ」
「そんな~」
そんなことを話しているうちにギルドに到着した。中に入った瞬間冒険者たちの視線が──主にエリザベートとマリアに集中した。
「今回はオーガの分は頭割りはやめましょうか」
「うん、わかった」
「ああ」
「出来高ということだね?」
そしてそのままカウンターの列に並んだ。
5分ほどで順番が来た。
「お待たせいたしました。ご用件は何でしょうか?」
「素材の買取をお願いしたいのだけれど⋯⋯ちょっと量が多いのよ。どこか広い場所はあるかしら?」
「それでは倉庫の方にご案内しますね。付いて来て下さい」
4人は受付嬢にギルドの裏手の倉庫に案内された。
「それではここに並べて頂けますか?」
促され、4人は黙々とランクの低いもの──シルバーウルフから順に並べていった。
最初は興味深そうに見ていた受付嬢も、シルバーウルフが10匹を越えた辺りで表情がなくなり、20匹を越えた辺りで顔色が変わり始めた。30匹を越えたところでエリザベートが
「シルバーウルフはこれで全部ね」
と言ったのでホッとしたような顔をした。
しかしそのまま4人が同じくCランクのブラックウルフの素材を並べだすと顔面蒼白になった。
「あの、後どのぐらいあるのでしょうか?」
「まだ1割も出していないわよ?」
それを聞くと、更に顔を青くさせた。
「しょ、少々お待ち下さい。今ギルドマスターを呼んで来ますので」
そう言い置いてどこかに小走りに駆けていった。
「どうしたんだろう?」
「さぁ。それよりも早く並べちゃおう」
受付嬢が戻ってきたのは全体の約半分──Cランクのブラックウルフ、アッシュウルフ。Bランクのウォーターウルフ、ファイアーウルフを並べ終えたことだった。
ギルマスは30代ぐらいの妖艶な女性だった。
「こ、これは。お主らがこれを倒したのか?」
「はい。まだ後倍ほどありますが」
そう言うと4人は作業に戻った。
ギルマスは何か考えているようだった。
「これでパーティー分は全部です」
「気になる言い方だな」
「個人で倒したものが別にありますので」
「そうか⋯⋯。少し待っておれ。査定にしばらく時間がかかる。その間に個人分の査定でもして貰えば良いだろう」
ギルド職員5人がかりで査定をしているが、終わるまでかなりの時間を要するのは見て取れた。
4人はお言葉に甘えて個人分──オーガの買取をしてもらうことにした。
ギルドに戻ると並んでいる冒険者の数がかなり増えていた。
「これだと時間がかかりそうだね」
「仕方ないさ。この時間だと皆依頼を終えて戻ってくるんだろうな」
溜息を吐きながら列に並ぶ。すると──。
「おい! 文句があるなら帰れ! ここは子供の来るようなところじゃないんだよ! 冒険者登録なら昼間に来やがれ」
20代後半ぐらいの青年に怒鳴りつけられた。
「(えっと、これは親切で言ってるのかなぁ?口は悪いけど)」
「(そうじゃないかしら。口は悪いけど)」
マリアとエリザベートは小さな声で囁きあった。
「おいそこ! 何こそこそと話してんだ!」
「な、何でもないです! それに文句なんて言ってません。普段使っているギルドより人が多いから驚いただけです」
「普段使っているギルド? お前らここの住人じゃないのか?」
青年は不思議そうな顔をした。
「はい。今は護衛依頼の途中です」
「護衛依頼? ということはお前らEランク以上のパーティーなのか?」
「はい、全員Eランクです。最近上がったばかりですけど」
マリアは胸を張って答えた。
「ワハハハハ、Eランク? 確かに護衛依頼は受けられるが、その依頼主もよくその程度のランクの奴らに依頼できたな」
「普通そんな奴に頼まないって」
「笑いすぎておなかが痛いぜ」
いつの間にか接近していた冒険者3人組が笑い転げていた。
「おい、嬢ちゃん」
「私ですか?」
「お前に冒険者の過酷さを教えてやるよ。表に出な!」
「嫌です」
「あっ? なんだと?」
「嫌だと言ったんです」
次の瞬間3人は一斉にマリアに飛びかかってきた。
「今回は大丈夫だと思ったのにな」
マリアは溜息を吐きながら放たれた蹴りとパンチを躱し、腕を掴むと他の二人のうちの片方に向かって投げた。
「えいっ!」
そしてそのまま残った一人の後ろに回り込むと首筋に手刀を振り下ろした。
「正当防衛です」
マリアは3人を見下ろしながらそう呟いた。




