1点3000円
五反田のとあるマンションの一室。59㎡程度の2DKに名刺専用のオンデマンド印刷機と、PowerMac数台とWindows2000Server機を無理やり詰め込み、翌週自殺することになる政治家の名刺から一流企業のWebサイトの作製、各種印刷物の版下作成からミスった社員さんのための訂正シール貼りまで、いちおう出版業界のアレコレを一通りこなしていた某印刷会社のサテライトオフィス。
大学の学費やら貧乏劇団で音響するための資金稼ぎやらのため、筆者は1年程このオフィスに寝泊まりしていました。ホントにみかん箱の上にPowerBook5300Cを載せて、ささくれだった畳の上に正座し、ホ○ダの新車の宣伝サイトやソニードラ○ブの新商品紹介ページを、ビルダーとか使わずにタグ打ちでこなしてみたり、GIFの色数限界まで落として表示の軽さに血道を上げたりする日々。
オフィスの中心には社員さん自作のサーバーが7/24で稼働してまして、出来上がった素材は全部そこに放り込むという流れ。当時としては大容量の2GBのHDDは、もう空き容量が3.5FDD程度しかないというコトで、マスター納品したら全部消去しちゃうからねウチは……的な感じでした。
筆者の立場は“バイト”。そもそもどういう経緯でここに勤めることになったのか、今となっては忘却の彼方ですが、時給でなかったことは確かです。何せ“1点3000円”ですから。
ホームページ1ページ3000円。ベジェ曲線使いまくって引いた社屋までの略地図一個3000円。適当に撮られた顔写真に自動で補正かけてIDカード風味に仕立てるフォトショのアクション作成1回3000円。まぁ、とにかく3000円でした。PSとかAIとかQuark先生とか事前知識なしに実地で勉強しながら使い倒した結果、おかげさまで月収は○0万円を軽く超えてました。
そんなある日の丑三つ時。社員さん余裕で全員フル稼働のオフィスの片隅で室長氏が何やら真剣な面持ちで迫ってきました。
「オレ高卒なんだけど今や月収三桁なんだ、お前もそれくらい余裕だから大学ヤメろよ」
……いや、コレただの外貨稼ぎなんで、っていうかこんなブラック会社死んでも死にます。
「本社に戻れば仮眠室とかきちんとあるから大丈夫だぜ」
……もうね、そういった社畜的発想がいずれこの国を滅ぼすと、なぜ40代後半のアナタがお分かりにならないのでしょうか?
「じゃぁ、お前の夢ってなんだよ?」
……公の劇場で公務員することです。
「ふーん、そっか。じゃぁ、まぁ頑張れよ……」
夢を叶えてよりしばらく経ちますが、たまに思い出すあのインキ臭いオフィスのコト。当時の社員さんたちはもうすぐ定年。今どこでナニをなさっているのか知る由もありませんが、願わくばステキ余生を送られていることを望んでやみません。




