夢への一歩……のはず
「本日はどのようなご用件でしょうか? Aランク冒険者、ファルスム様」
「クランを開設したくて来ました」
「では、クラン開設の目的をお聞かせください」
……え?
も、目的?
そういうのも言わないとダメなのか?
そうか、そりゃそうだよな。
冷静に考えたら、クラン開設の特権がある以上、そりゃまともな目的が無いと許可なんて降りるわけないよな。
「……」
どう、しようかな。
俺は15歳で冒険者になったあの瞬間からずっと、クラン開設の特権で楽して生きていきたいってことだけを考えて、たった5年でAランク冒険者まで上り詰めたような男だぞ?
ギルド側が許可を出してくれるような理由なんて、あるわけがない。
とはいえ、ここでそれを素直に認める訳にはいかない。
何せ、俺の夢が掛かってるんだからな。
特権を使って楽をして生きていきたいという夢が。
だから、ここは適当なことを言う一択。
「最高ランクであるSSランク冒険者になる為です」
俺はたった5年でAランク冒険者に上り詰めた男。しかもソロでだ。
内心はともかくとして、傍から見たら向上心の塊みたいな男に映ってる……はず。
依頼だって少しでも早くAランク冒険者になりたい一心でめちゃくちゃいっぱい真面目にこなしてきたしな。
たとえSSランク冒険者なんてものが世界に一人も存在しない、ただ存在するだけの称号だったんだとしても、そんな俺なら本気で目指してると思われたっておかしくは無いはずだ。
「ッ、分かりました。承諾の有無は後日伝えさせて頂くのですが、こちらに開設する予定のクラン名やメンバーの条件の記入をお願い致します」
信用されたってことでいいのか?
まぁ、相手は一介の受付嬢。どっちでもいいか。
そう思いつつ、渡された紙にクラン名とメンバーの条件を書き、俺は受付嬢に返した。
クラン開設の目的を聞かれたことにはビックリしたけど、クランの名前やメンバーの条件は最初から決めてたからな。
直ぐに書き終わったさ。
「クラン名はエリュシオン、メンバーの条件は……えっ? あ、あの、これ、本当にこれでいいん、ですか?」
「えぇ、最高ランクになる為ですから」
「な、なるほど」
咄嗟の嘘のつもりだったが、この絶対に人が来ないメンバーの条件を考えれば、悪くない嘘だったのかもな。
なんか、この受付嬢の方も素で納得しちゃってるし。
ま、納得されるされない関係なく、俺としてはメンバーなんて来られても困るだけだから、この条件から変えるつもりなんてないんだけどな。
というのも、まぁギルド側としては当然のことなんだが、特権の為だけにクランを開設することへの対策として、クランを開設したら月一で達成しないといけないノルマがギルドの方から直接そのクランへと課されるんだよ。クランメンバーの人数やランクを加味してな。
つまり、俺の目的が特権を使ったぐーたらスローライフな以上、人が来るわけのないめちゃくちゃな条件にするのは当然のことなんだよ。
だからこそ、俺は誰に何を言われようともこの条件から変えるつもりは無かった。
「で、では、最後に、希望するクランハウスの場所はありますか?」
そんな俺の固い意思が伝わったのか、受付嬢は話を先に進めてくれた。
多分、俺の提出した条件が探せば見つかりそうな絶妙なラインだったことも幸を成した要因だと思う。
まぁもっとも、仮にそんな人が本当に見つかろうが、俺のクランなんかに入ろうと思うわけがないんだがな。
あの条件に当てはまる人物なんて、十中八九俺よりランクが上だと思うし。
どこの世界に自分よりも実力が低い人間の下に付きたい物好きがいるんだって話だ。
「どこでも大丈夫です」
内心で笑みを浮かべつつも、それを表に出すような真似はせず、俺はそう言った。
特権さえ貰えれば、最悪使わなくたっていいしな。
メンバーなんて来ないし、今借りてる宿屋にずっといる選択肢だって俺にはあるんだから。
「分かりました。では、結果が分かり次第、直ぐにお伝えさせていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
そう言って、他の冒険者の視線を感じる中、俺はギルドを後にした。
これから始まる、特権を使った楽しいスローライフを夢見ながら。
─────────────────
そして3日後。
クラン開設承諾の手紙と共に、俺のクランハウスとなった場所の住所が書かれた紙が今住んでる宿屋に送られてきた。
手紙を読んだ俺は思わずガッツポーズをしてしまい、それをまだ10歳くらいの看板娘の子に見られて恥を掻いてしまったのだけは誤算だったが、そんなことはどうでもいい……ということにする!
だって俺は、夢を叶えることに成功したんだから!
今日から特権を使って贅沢しながらぐーたらと生きていけるんだから!
ノルマは存在するけど、俺一人なら簡単に終わらせられるしな!
……あ、一応、クランハウスの場所を見に行ってみるか。
良い場所だったら、そっちに一人で住んだっていいし。
「あっ! ファルスム様! 大変ですよ!」
そう思い、俺に与えられたクランハウスの住所が書かれた紙を見ながら、宿の外に出たところで、ちょうど3日前に俺の担当をしてくれた受付嬢が何やら慌てた様子で現れた。
大変って……やめてくれよ。クランが開設出来たその日に揉め事なんて俺はごめんだぞ。……いや、その日じゃなくても、ごめんだけど。
「あ、現れたんですよ!」
「何がでしょうか?」
「早速エリュシオンに入りたいという方がです!」
そりゃ大変……でもなんでもなくないか?
いや、一応俺は高ランクの冒険者だし、その力にあやかろうとする奴が現れるのは当然だろう。
それこそ、公開されているはずのメンバー条件に全く当てはまっていない奴であろうとな。
そういうのはギルド側で勝手に断ってくれるって話のはずだが? という意図を込め、わざわざここまでやってきた受付嬢に視線を向ける。
「あ、い、いえ、正直私もビックリしているのですが……現れたんですよ。ファルスム様のお出しになった条件に当てはまる方が!」
……そりゃ大変だ。
いや、本当に大変だ。
…………え? 冗談だよな?
そんなやつ、いるわけなくないか?
いや、仮にいたとして、俺のクランに来るはず──
「今、お時間大丈夫でしょうか? ギルドにてお待ちになると話を聞いて貰えず、今現在もギルドにてファルスム様をお待ちになっているのですが……」
「……分かりました。今すぐ行きましょう」
「あ、ありがとうございます!」
本当に助かったと言わんばかりの表情で礼を言ってくる受付嬢。
いや、どんなやつが待ち構えてるんだよ。
……あの条件に当てはまる奴とか、本当に存在するのかよ。
……取り敢えず、ギルドに着くまでにどうやって不採用にするかを考えないとな。
あとがき。
少しでも続きが気になると思っていただけたのなら、モチベーションの為にも、星やハートの評価を頂けると幸いです。




