手作り弁当 サトウ
吾輩は猫である。名前は「マダナイ」。
今は絶賛お昼の日光浴中である。東京とはいえ、府中まで来ると高い建物はないし、やたらコインパーキングが多い。しかも坂の途中にあるので日当たりはバツグン!...と、この前主が客に自慢していた。主はな、いっつも右耳にイヤホンなるものをつけている。あれで耳が聞こえなくならないのか不思議に思うが、特に弊害はないらしい。
...少し喋りすぎたか。ああ、眠気の波がぁぁ...
猫は、静かに眠りについた。
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私は大城。店長だ。今日もいつものごとく、大量に客が来ている。が、この店はお昼はワンオペなので、もう地獄のような忙しさ。チキショウ!松井のやつ!なんで昼も来ないんだ!今日は土曜日だろう!
そう思っていたときだった。
「店長!だし巻き卵追加で!」
「あ、はーい」
「ああごめん店長!僕もだし巻き卵追加していい?」
「わかりましたぁ」
立て続けにだし巻き卵が2本...このクソ忙しいときに!めんどくさいんだよあれ!
「店長!海老天追加!」
「ハァイ!」
「店長!天かす売ってくれない?」
「店長!日替わりってまだある?」
「あ、俺も日替わり欲しいなぁ」
「店長!カレーとそぼろ丼二人前とカキフライとあとだし巻き卵!」
「ちょ、ちょっとまっ...」
「店長!チキン南蛮ください!」
「ねぇ店長!マダナイ君寝てる!ごっつかわえぇ!ねぇ、ほら!」
「店長!」
「店長!」
「店長!」
「「「「店長!」」」」
流れ込んでくる注文。受け止めながらだし巻き卵に取り掛かる。
「あ、ごめーん店長。だし巻き卵はやっぱいいわ。」
えーーーーーー
「俺もなしで!今日は妻が作ってくれるらしいから。」
ええーーーーーー
「おれもやっぱりキャンセル!」
えええぇぇぇーーーーーーー
「時間ないからもういいや」
俺が...俺が一体何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
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16時34分、俺が出勤すると、すべての客を捌き切った店長が白い灰となっていた。
「大丈夫ですか店長」
「大した棒読みじゃないか松井君。4分遅刻だぞ」
「まぁいいじゃないですか。あと、忙しかったのはわかりますけど、更衣室で寝ないでって前から言ってますよね。」
「だってぇ。ここしか寝転べる場所ないんだもん。別のとこで寝ろって言うんならどこで寝れるか言ってみてよ。」
「えぇぇ...厨房の床とか?」
「ふざけるな!おま!ふざけるな!そんなとこで寝れるかい!全身油まみれになるわ!」
「いいじゃないですか。それに店長ならどうなっても僕に弊害はありませんから。」
「いやいやいやいや!おま!なぁ!おま!俺が全身油まみれになってみろ!「わ、あそこの店長なんかきたなーい」「ちょっと来るのやめようよ」ってなって売上落ちて倒産してお前に給料払えなくなってこっちは夜逃げでって、あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「はいはいわかりましたわかりました。とりあえずどいてください。」
発狂しながら床を転げ回ってる店長を蹴り飛ばし、着替えを始めた。
「それにですね。俺別なとこでもバイトできるんで。きてもらってるだけでもありがたいと思ったらどうです?」
「しんらつぅーーー。上司と部下の関係しんらつぅぅーーー。え、こんなんだっけ?上おれだよね!?ってちょっと待って、俺もしかしてお前に舐められてる?」
「さぁ、はっきりとは言えませんが舐めているのは確かですね。」
「はっきり言っとるやんけぇぇぇぇ!めちゃくちゃはっきり言っとるやんけぇぇぇぇぇぇぇ!なんで!?なんで俺こんなに舐められてんの!?俺なんか悪い事した!?」
「とりあえず仕事しますよ。ちゃんとシャツのよれ直してください。」
まったく。この店長の下で働くのは本当に大変だ。子供っぽいし、すぐギャーギャー騒ぐし、そのくせよくミスをする。まぁ、払ってくれる金は結構わりがいいから、意外と自分についてわかっているのかもしれない。
「そういえば、結局この店の名前って、何に由来しているんです?1年働いても少しもわかりませんけど。」
「ええーーーーーー...、言わなきゃだめ?めんどくさいん...」
「言ってください」
「でも今仕事中...」
「言ってください」
「や、でm」
「言 っ て く だ さ い」
持ち前の身長で威圧感を高めてみたら、ようやく口を割った。
「話すと長くなるが...あれは私がまだ生まれてない頃だった...」
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北海道の幌別に、阿部熊という男がいた。彼は人だった。
ある日彼は、サラ金に金を借りたまま、返すのを忘れてしまった。さすがはサラ金。どんどん膨れる。1000円しか借りていなかったのが、あっという間に二千万にまでなった。
返さずにいると、家にヤクザがやってきた。
「一ヶ月以内に二千万!耳揃えて払ってもらいまっせぇ!」
阿部熊は戦慄した。手元には3万4000円しか残っていなかったからである。
阿部熊は逃げた。青函トンネルを徒歩で通過し、日本海沿いを歩いて新潟港まできた。そこからはフェリーで2時間半。彼は遠い遠い佐渡という地に降り立った。彼は名前を変えた。経歴も、友人も、家族も、愛する人すらも捨てた。彼は田んぼ付きの空き家を買った。
作物も育ち、バイトで稼ぎも溜まってきた時期に、訪問があった。
「久しいですなぁ、阿部熊さん!!」
ヤクザたちだった。彼らはピストルを持っていた。阿部熊は逃げた。佐渡金山の廃坑に逃げ込んだ。3時間は逃げただろうか、行き止まりにたどり着いた。彼は命乞いをした。
金はちゃんと払う いくらでも払う だから命だけはたすけてくれ
坑道内に銃声が鳴り響いた。
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「これが阿部熊の物語だぁぁぁぁぁ!!泣けるだろう!泣けるだろう!これぞ男ってもんだぁぁぁ!!!ああ、泣ける!2時間かけて語ったかいがあった!!」
「ちょぉぉぉいまてぇぇぇい!!さっきから黙って聞いてやってたらよ、誰だよ阿部熊って!!何なんだよ!」
「阿部熊 友成1962年9月31日生まれ。」
「そんなん聞いてねぇぇよ!!ってか9月31日ってなんだよ!!9月は30日までだよ!!」
「いや、まぁ、あの、その、いいじゃん。あ、そうだそうだ、思い出した!60年に一度ある日付なんだよ!」
「まだ1歳かよ!」
「うんそうだよ」
「気持ち悪いわ!60のおっさんが1歳って気持ち悪いわ!人生一年じゃねぇか!」
「彼は、生まれながらにして永遠の若さを手に入れたのだよ。」
「もうわけわからん!この話のオチは!?」
店長は頭を捻りながら言った。
「阿部熊が復活して幸せに暮らした...かな?」
「結局店名について何も語ってないじゃないかぁぁぁ!!」
「ちょっ!落ち着けって!ほ、包丁持たないで!頼むから!」
「で、店名の由来は?」
「...それは200年前のことだった...沖縄の石垣島に住んでいる城之内という者が...」
「もう聞き飽きたわぁぁぁぁ!!!」
松井ぃ!腰を落として身を引いて、渾っ身の右ストレートォ!!ハイッタァ!決まったぁ!一発ノックアウトだぁ!!
これはだいぶ昔にべつの小説投稿サイトで連載作品として投稿した同名作品の第一話でした。




