第01話 プロローグ
現代には、死ねないから生きている、そういう人間が存在する。
社会から忘れさられ、一刻一刻を無意味に過ごす。
「あぁ…つらい…消えてなくなりたい。」
中途半端に切られた髭、男が鏡と相対しながらそう溢す。一見、無責任なようにも思えるが、これは誰にでも起こりうる現象だと思う。
「お疲れ様でした!!今日もご指導ありがとうございました!!」
その男、大原翔太は高校を卒業して地元の中小企業に就職する。ハキハキと挨拶と帰り支度する姿は、とても将来社会不適合者になるとは思えない。そう、どこにでもいるような18歳の少年だった。
「えっ、ちょいちょいちょい。先輩が仕事してるんだから新人が先に帰っちゃダメだよ〜。まぁでも今日はもう帰ってもいいよ。お疲れさん。」
「ありがとうございます!!お疲れ様でした!!」
誰よりも早く出社し、定時には帰宅する。ちょっとずつ勉強をして先輩たちの背中を追う日々だった。もちろん、忙しいときは23時過ぎに帰り、翌朝5時に起きて出社することもある。軽口をたたけるぐらい、会社の先輩との仲も良かった。どこにでもある日々を過ごしていた。
そんなある日、出勤する翔太がハンドルを握りながらルームミラーを確認する。赤信号で停車していた翔太は、やけにスピードが出ている車が後ろから迫っていることに気がついた。
「えっ、ヤバくね?このままじゃぶつかる!?」
前には横断歩道を渡る少年。
「やばいやばいやばい…どしよどしよどしよ」
ハンドルを切って衝撃を逃がす暇もなく、後ろからの衝撃で車が前に押し出される。痛っ…と感じつつ、瞬時に先程の少年が頭をよぎる。
「っ!!」
少年の姿は見たらない。
と思っているうちに後ろからぶつかってきた車の持ち主がコンコンと窓をたたく。
「ごめんねー、どうしよっかー?」
(なにがどうしよっかーだよ、アンタが起こした事故だろうが…)
「ひとまず安全な場所に移動して警察呼びましょうか…ははは」
一旦車から出て再度確認するが、先程の少年の姿も、車前方が何かにぶつかってへこんだ形跡もない。きっと見間違えか、ビックリして逃げていったんだろうと自分を納得させる。そんなこんなで警察を呼び、事情聴取を終え、病院に行ったりと色々と忙しく1日が終わってしまった。
結局、車はおじゃんになってしまった。
痛めた腰を抑えつつ、ひとり帰り道を歩く。
「あぁー、頑張らなきゃいけないのに…早く治して頑張ろ…ぉー」
自分を励ます思いでそう溢すのであった。
それから月日は過ぎていったが仕事が万全にできる状態ではなかったので、気がついたら退職願を提出していた。今思えば、この選択が間違っていたのかも知れない。
「勿体ないねぇ…まぁまだ若いから大丈夫。頑張ってね。また戻ってきてもいいからさ!」
自分には勿体ないぐらい、懐が深い会社だった。
ありがとうございました、と言い、翔太は会社を後にした。
程なくして、身内の紹介で都内の企業に就職することになった。身内と言ってもゴホッ、あまり大きな声で言えないのだが母の不倫相手だ。彼は会社役員で、母がお願いしてなんとか僕を捻じ込んでくれたのだ。感謝している母とは裏腹に、翔太は複雑だった。
父には内緒で付き合っている母、今っぽく言うとセカンドパートナーだろうか。真面目に家庭に尽くしてきた父に申し訳なく、ただ父を傷つけたくない、そんな葛藤がありながら再就職は成った。
でも会社の先輩方には変な形で入社したことを散々根掘り葉掘り聞かれた。正直、これの返答には困った。北村さんとはどんな関係なのか。君のような人がどうやって就職できたのか。と、大卒の先輩たちに何度囲まれただろう。ここで言う北村さんとは母の不倫相手だ。
北村さんは僕を入社させると、自身は距離を置き、指導係の先輩を配置してくれた。ところが厄介な先輩に当たってしまったのだ。
入社二週間目のこと、
「ほんと、大原くんさー、給料泥棒だよねー。早く成績出してくれないとぉ、ねぇ?わかる?わかってないよねー、全くこれだから若者は。面倒くせぇ」
小太りのその先輩は他の人の前では良い人を演じていた。ここでは簡単に小太り先輩と呼ぼう。会社役員である北村さんには揉み手しながらいつもニコニコと話をしている。一方で、ある時間になると翔太を会議室に呼び出し、毎日のようにネチネチと給料泥棒だの、君のような人がいれる会社ではないだの、そんなことをひたすら言うのである。北村さんの息がかかった人物が縁故就職をして、本心では気に食わなかったのかも知れない。そう翔太は感じていた。
そんな毎日を過ごす傍で、帰宅後手の空いた時間には父の介護をしていた。
「お疲れさん、今日はどうだった?」
横になった父が労いの言葉をかけてくれる。
軽く返事をしつつ、会社でおきたことを胸にしまい父に話しかける。
「ご飯の準備するから待ってて」
「ありがとうな」
ささっと支度をして、夕飯を作り、夜中も時々介助をしたり、自身が布団に入るまではあっという間だった。
「お前はきっと幸せになれるよ。」
優しくしわがれた父の言葉が胸を突き刺さる。
「ありがとう」と返事をしつつ、自責の念で顔が歪むのを父には隠した。自分はなんて最低な人間なんだろう、父を裏切り、何食わぬ顔で接している。なんて醜い人間なんだと。そう感じながら過ごす日々に、心が枯れるのはそう遠くなかった。
北村さんの紹介で入社したところも4ヶ月で辞めてしまった。母には反対されたが、もうどうしようもなかった。僕の心が弱かったのだ。
心療内科での診断はうつ病。
それを北村さんに報告すると退職届を持ってくるように言われた。あぁー、ようやくあの先輩に毎日嫌味を言われることもない、北村さんと顔を合わせることもない、それだけで肩の力が少し抜けた。
最後の出社をした日は頑張って顔に笑みを貼り付けながら挨拶回りをした。そして、その日も小太り先輩から会議室に招集がかかった。なぜこの人はいつも誰もいない会議室を選ぶんだろう、薄々答えが分かっていることを、これも最後かと思えば安心してしまっていたのだ。
半年にも満たない期間しか働いていない僕に、表面上でも労いの言葉をかけてくれる先輩たちとは違い、小太り先輩だけは違った。
「あぁ〜勿体ないねぇ。大原くんには期待していたんだけどなぁ。で、なんでうつ病になっちゃったの?!もしかして北村さんのせい?」
挙句に、君がうつ病なら僕もうつ病だよー、とニヤけ顔を向ける。翔太は拳を握りしめる力もなく、ただ謝り世話になったお礼を告げた。
会社からの帰り道、晴れやかな空とは裏腹に翔太の心は沈んでいた。東京から郊外にかけて走る電車は、昼前ということもあって空いていた。通勤ラッシュの満員電車に押し込められているときとは違い、今回はただひとり、窓の外を眺めていた。
ご覧いただきありがとうございます。
どんな内容にしようか迷いながら書いているので、ちょっと矛盾しているところは素人が描いたストーリーだと納得していただけると助かります。それと、こうした方がいいとかアドバイスがあると助かります。byナリス




