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孤高日本国異世界戦記  作者: 関東連邦
第1章 大陸動乱序章
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第11話 諸行無常

遅れました。2話続けて強化日本を投稿するつったのに平然と嘘をつく人間の鏡です。

第11話 諸行無常


     ニグルンド帝国 暫定政権領

         帝都


日本派貴族軍が帝国の東部地方完全掌握と『ハンザブレック大火災』の事件が起こってから1ヶ月程度の月日が経過した帝都。


この頃にもなるとニグルンド方面隊司令部と指揮下にある各戦闘団本部も設置された帝都は当然ながら、皇帝派・日本派 両陣営の地方でも戦乱による混乱も沈静化へと向かっていた。


戦乱終結の兆しは見られない事に各陣営の首脳部は頭を悩ます中、帝都の居住街区では一般階層の平民達が日常を取り戻しつつあった。


日が昇れば帝都市民はいつもの職場へと赴き、市場ではいつもの様に日用品類が行商人等の手によって運ばれ、需要と供給のバランスを整えていく。


いつもの活気が帝都に舞い戻ってきた。その一方で帝城ニグールでは新たな支配者階層である日本人が苦悩していた。


        

       帝城 ニグール

        長官執務室


外部インフラ開発庁 長官を務める永井義正は豪華な内装の旧宰相執務室の執務机で各所から届いた報告書に目を通していた。


永井長官は各所から届いた報告書に目を通していくと、早急な指示が必要な事項には彼直属の秘書官や現地の官僚を呼んでは細かな指示を出す事が日常となっていた。


ブレイトン皇甥を筆頭とした新政権の上部政治組織と自国本土との連携と方針を決める責務を背負う彼 永井長官こそが、このウィルテラート大陸で最も実質的な影響力を持っていると言っても過言ではない。


そんな永井長官のいる執務室へ秘書官が来客を知らせてきた。


「永井長官。魔道師組合と皇宮魔道会の方々が来られました。」


秘書官は日が昇る前から仕事に没頭する上司の姿を視界に収めると来客の身分を告げる。それに永井長官は読んでいた書類から目を離すと立ち上がって襟を正す。


「来たか。大事な客人だから、第1応接間に通してくれ。私もすぐに行こう。」


連日、永井長官の元には多くの有力者や組織から面会の要望が寄せられており、そんな彼等の対応も仕事の1つであったが、今回の客人は他でもない彼自身が招待していたのである。


魔道師組合と皇宮魔道会。これら2つの組織は共通して名前の通りに魔法に関連する技術を扱っている。


しかしこれら2つの組織の違う点は、前者が主に平民や中間階級の人々が所属するものに対して後者は貴族階級、またはそこ階級の者から推薦を受けた特別な身分の者のみが所属する事を許された組織という点だ。


魔道師組合の場合は一般的に扱われるような低位魔法の開発や改良を行い、時には冒険者組合と連携して魔獣の駆除や人員を提供したりもしていた。


魔道師というのは、この世界において便利な術を持つ汎用性の高い人材という立ち位置にある。戦闘面や治療面では無論のこと、建築を効率良く出来るよう材料の耐久性を高めたり、軽量化といった魔法も開発されている。


更に農業面では土壌改善や植物成長の促進を促すような便利なものもある誠に多種多様な魔法を行使できる人材であり、そんな彼等を育成するのも魔道師組合の役割だ。


そういった一般市民でも触れ合えるような面で支えているのが魔道師組合で、市場で一般的に流通している程度の魔道具も大半は、この魔道師組合が製作・販売をしている。


それに対して皇宮魔道会は皇族や貴族といった支配者階層にのみ高度な魔法を提供するために設置された国家に属する組織である。 


この皇宮魔道会では魔道師組合の取り扱うものよりもより高位の魔法開発と魔道具製作に従事したり、貴重な魔法資料の運用、保管、解析にも取り組んでいた。


その為、魔道師組合と比較すると、より質の高い魔法道具や設備を保有しており、市場に流通している物よりも高位の魔道具を皇宮魔道会が開発していた。


戦乱初期のニグルンド方面隊の一部部隊と交戦した騎士団長の装備もこの皇宮魔道会が開発したものだ。


中には遥か古代の高度な魔法技術の解析に関連する噂もある程であり、場合によっては高位冒険者に装備を提供した事例もある。


そんな魔法があるこの世界において、なくては成らない2つの組織と交流を持とうと永井長官は呼んだのである。


数回にも渡る招待を断られた末の今回の訪問である。万が一の無礼があっては成らないと永井長官は高位貴族にしか宛がられない第1応接間へと彼等を通させる。


一通りの準備を終えた永井長官はその足で彼等の待つ第1応接間へと向かい、既に入室していた両組織の使者と対面を果たした。


豪華な調度品を品良く並べられた広い応接室の中で座っていた2人の男は入室してきた永井長官を見ると立ち上がってお辞儀をした。


「招待した身でありながら諸君等を待たせてしまい申し訳ない。」


「とんでも御座いません。ナガイ長官閣下に招待頂いた悦に浸っていたところです。」

「私も魔道師組合長と同じです。こうして正式な対談の場を設けて頂き感謝します。」


永井長官はそう開口一番に挨拶を述べると2人も礼節に乗っ取った挨拶を交わす。


挨拶を述べた男達、魔道師組合長と皇宮魔道会 臨時主席魔道長の2人を永井長官はまじまじと観察する。


魔道師界隈での礼服を着込んだ2人。魔道師組合長はもとは冒険者として名を挙げた男であり、もう片方の臨時主席魔道長は、西方の皇帝一派と共に帝都を離れた本来の主席魔道長の代理だと永井長官は記憶していた。


挨拶を終えた後はある程度の世間話を交えた会談で幕を開けた。


「……さて、君達も多忙の身であると察する。この辺りで私が再三に渡って登城を要請した理由について話させて貰う。」


ひとしきの何気ない会話をしたところで永井長官は本題に入る。自身の言葉に2人が少しばかり身構えたのを確認してから永井長官は言う。


「君達もある程度は耳にしている通りに、我々日本人はこの辺りには疎い所がある。

 そこで君達、魔道師組織には我々と協力関係を築いていきたい。」


「具体的にはどのように?無論、御命令とあれば我々も全身全霊を持ってご期待に添えるよう尽くす所存でありますが……」


魔道師組合長の返答に永井長官は言う。魔道師組合は冒険者組合と同様、国家権力とは一定の距離を置く素振りがあると彼は本郷陸将から耳にしていた。


「あぁ、誤解しないでくれたまえ。君の考えているような、権限を行使して君達に強制させるつもりは無い。

 あくまでも君達とは円満な形での関係をとりたいんだ。

 そして我々が君達に望んでいるのは、君達が把握している魔法に関連する知識や魔道具といったものの提供だ。

それによる対価は充分に支払う。

……とは言っても、我々が協力の代価として与えられるのは主に資金面での援助や、優遇政策ぐらいだがね。」


永井長官の多分を含んだ言葉に両者は真剣な表情をする。ニホンが豊富な資金力と影響力を背景に北部地方や東部地方の有力貴族を従えたという噂を聞いていた故の反応だ。


「具体的な支払いとしては、相応分の代金を銀、もしくは金貨で支払う。

 別の方法としては君達魔道師組合や皇宮魔道会に属する者達への免税特権や魔道具製作に必要な希少素材を優先的に回すよう手回ししたり出来る。

 場合によっては我が国で作られている珍しい素材の提供も可能だ。おまけで工芸品といった物も提供できるぞ。」


最後はやや冗談口調で対価条件を言った永井長官。これに対して対面に触る2人条件を前に考える。


ニホンと協力関係を結んで財を成した者。領地を拡大した貴族といった話は何度も聞いており、そして実在することも把握していた2人。


協力すれば前皇帝の時よりも待遇は良くなるだろう。大陸に疎い彼等ニホンへの貢献が認められれば自分達も国内の有力者に成れ、組織発展にも繋がる。


利点だらけのように思えたが、2人にはある強い懸念点が残っていた。意を決した主席魔道長が問いかける。聞き方によっては正面のニホン人の気分を害するだろうと覚悟を決めて。


「それらの知識と魔道具は……ダークエルフ等にも渡る認識で良いのでしょうか?」


主席魔道長の質問に魔道師組合長の表情が強張り、ナガイ長官の反応を伺うその顔には冷や汗が流れていた。


ニホン人に提供すれば必然的に協力関係にあるダークエルフにも渡ると2人は予期していた。そしてそれは当たっている。


しかし当のナガイ長官は予期した事か、一切の表情を変える事なく即答した。


「君達の不安も理解している。自分達、人間が築き上げた優位性が崩れるのを恐れているのだろう?」


永井長官の指摘は当たっていた。これに2人は同意する。


ダークエルフは種族的な特性は、人間よりも強力な魔法適性と膨大な魔力を生まれながらにして持っている。単純な戦闘力としては人間やドワーフよりも優れていた。対抗できるのは同じ特性を持つエルフぐらいな程度には種族として恵まれた能力だ。


しかし彼等ダークエルフが人間やその他の種族から追い詰められた要因の1つとして、その特性を使いこなせなかった事が挙げられる。


古代戦争でダークエルフがエルフとの競争に敗れた時、当時のエルフは彼等から魔法の知識を奪ったのだ。


高位の魔法行使者達を殺し、他の種族等にもダークエルフに魔法を教えるのを禁止させ、その習得を妨害させるよう長年に渡って徹底させたのである。


魔法を行使するには、専門の知識者から最短でも数年以上の教育を受け、数え切れない程の訓練を繰り返す事で魔法を使えるように成長するのだ。


更に魔法を覚えるには難解な魔法書が必須であり、高位な魔法を使えるようにするにはその深淵を理解する必要もあった。


つまり長時間の修練を必要としていた。それをエルフ達は妨害することでダークエルフから行使者とその知識を根絶させてきたのである。


それから幾年の月日が経過した現在。彼等ダークエルフの高度な魔法知識の殆どが喪われてしまった。


如何に魔法習得が速く、魔力を持っていようとも、高位の魔法を使える者が居なくては意味がない。


現代の魔法を行使するダークエルフ達の多くが一族が人間達の目を盗んでようやく得た低位の魔法を細々と受け継がれてきたものだ。


魔法適性は現代でもダークエルフが人間よりも優れているが、単純な魔法の技術となると人間の方が圧倒的に優れていた。


例を挙げるとすれば、先日の帝都 貧困裏路地で危うく全滅したけたユムル二等陸曹率いるダークエルフ部隊とオリハルコン級冒険者 『薔薇姫』との対立だろう。


戦力として換算した場合、単純な魔力量はユムル二等陸曹達が圧倒しているが、彼等の全員が低位の魔法しか行使できない。


それに対して薔薇姫の面々は魔力量こそ、彼等に負けているが、高位魔法の行使は可能だ。


そしてこの両者が魔法勝負に出た時、その勝敗はほぼ確定すると言っても良い。薔薇姫の圧勝で終わる。


ユムル二等陸曹達が500の魔力量で2の攻撃魔法を放ったとする。その時、薔薇姫は200の魔力量だが、10の攻撃魔法で対抗するだろう。実に魔法1つで10倍もの差が生じてしまう。


そしてこの場合、卓越した上級魔道師は低位の魔法を結界魔法無しで無効化する時がある。更に優れた魔道師はより少量の魔力で高位魔法が行使可能だ。


これはダークエルフが長年に渡って奪われ続けてきた中で人間達はエルフや独自の力でその知識を積み重ね、改善を続けてきた結果である。


しかし永井長官は何百年にも渡って守られてきたその均等を崩すかも知れない事を言ったのだ。彼等が危機感を持つのも納得である。


「長官閣下もご存知だとお見受けします。ならば……邪悪なダークエルフが先進的な魔法を得た場合の危険性も分かる筈です。

 強力な魔法適性を持った彼等が高位の魔法を得た場合……この世界の均等崩壊を意味しますぞ。」


現状においても、低位の魔法しか行使できないダークエルフだが、単純な魔力の多さで大抵の人間の魔道師よりも総合的な魔法行使は優れている。


人間が勝てているのは貴重な知識と技術を独占している点のみであろう。それをダークエルフが得たとすれば古文書にしか記載されていない古の大戦争が再び起こりうる。


その片棒を担ぐ事は容認出来ない。そう魔道師組合長は言った。これに主席魔道長も同意を示す。


「成る程、君達の考えも最もである。

 しかし、だ……君達がこれ迄守り通してきたその優位性は既に崩れていると私は思うぞ?

 主に我々の存在が正にそれだ。」


永井長官はそう反論すると、この第1応接間の大きな窓へと顔を向ける。2人もそれに釣られて窓に映る外の景色を見た。


窓から見えた外の景色には丁度、帝都上空を戦闘ヘリコプター 『アパッチ』が旋回飛行をして巡回をしている姿が見えた。


空白となった近衛飛竜連隊の代わりとして巡回するニホンの鉄飛竜を見た2人の表情が曇る。


「君達も見ての通りに我々にはああいった物を造る事に自信があってね。

 あまり君達の前で口にするものでは無いのだが、前皇帝の軍隊を蹴散らしたのもあれらのお陰である。

 そして我々は……ダークエルフ達にも同様の物を与えるつもりであるのだよ。」


「なっ……あ、あれらをダークエルフに与えると申しますか!」


思わず魔道師組合長が立ち上がって声を上げる。


「落ち着かぬか!長官閣下に対して無礼であるぞ。」


突然立ち上がった隣の同胞に主席魔道長は彼を制止させる。


「っ!無礼が過ぎました。も、申し訳御座いません……」


「いやなに。気にしないでくれ。それが正しい反応と謂えよう。」


すぐに慌てて姿勢を正して非礼を謝罪するが、永井長官は構わないといった様子で応える。


「ダークエルフは我々に多大な功績を挙げた実績を持っている。それを考えれば彼等には妥当な報奨だ。

 そしてそれは君達にも当て嵌まるのだよ。

 君達の今後の功績によっては、ダークエルフ以上の物を与える事も出来る。

 それに今後ダークエルフがこの大陸を台頭し始めるのは想像に難くない。そうなった以上、彼等が優れた魔法の知識を手にするのはどの道時間の問題だ。」


「それならばいっその事、最初から渡して恩を売れと?」


魔道師組合長の納得いかない反応に永井長官は首を横に振った。


「いいや違う。君達で手綱を握るのだよ。別に我々は君達の持つ知識全てを提供して欲しいとは言っていない。ある程度で構わないのだよ。       その後はダークエルフ以上に君達で魔法を発展させていこうじゃないか。

 その為の支援を我々ニホン政府が確約する。我々は協力してくれる者達には出し惜しむ事はしない。」


永井長官の自信に満ち溢れた言葉に2人は顔を見合わせる。


(反応が悪いな……やはりダークエルフに対してそこまで警戒心を向けるか。)


永井長官は2人の表情を見て手応えの無さを感じ取る。同時にこの要請は通らないと悟った。


だが永井長官に失望の念は無い。無論、協力してくれれば御の字である。だが、強権的姿勢で行えば彼等を敵に回すのは明白だ。


(やはり既存の組織とは別に新たな魔法教育機関を設置するべし……か。)


早々に区切りを着けるべきと永井長官は判断し、口を開いた。


「別に今日この場で返答が欲しい訳ではない。充分に悩んだ後で回答してくれれば良いのだ。それまでは我々も待つとしよう。」


永井長官の言葉でこの日の会談は終わった。





魔法知識者の第一人者との会談を終えた永井長官の元へ、再び秘書官が現れて次の来客を報告する。


「長官。モンドローレー大公がサバスント伯爵と共に面会を希望しております。 」


その報告を聞いた永井長官は心中で溜め息を吐いた。秘書官が告げた大公と貴族の面会希望の理由を想像したからだ。


「……分かった。彼等は私の執務室に通してくれ。それと、本郷君の所からも誰か人を寄越すよう言ってきてくれ。」


「承知しました。」


来客貴族の対応として自衛隊の幹部を要請する永井長官。彼は今から会談しなければ成らない相手を前に憂鬱な気分を抱いた。





帝城の一角に設置された方面隊司令部の部署から来た幹部自衛官を連れた永井長官。


昼前には自身の執務室で待たせていた2人の貴族との会談を開始して既に1時間が経過していたが、現時点の会談で進んだ内容は殆ど皆無に等しかった。


内心、うんざりしていた永井長官は表面上は平時を装い、執務室の中央で次々と言葉を投げ続ける貴族2人を見る。


「ナガイ長官殿。我等、ロイスムール公国は何時でも数千の軍勢を動員する準備を進めており、来る僭称皇帝の討伐には精強なる我が公国軍が先駆軍として活躍することを保証する。」


そう豪華な装飾で着飾った老齢の男 帝国の新政権樹立と同時に属領から独立を果たしたロイスムール公国のモンドローレー大公は自信に満ち溢れた態度で宣言する。その斜め後方で待機するサバスント伯爵は大きく頷いて大公の言葉を肯定した。


因みにサバスント伯爵は先の皇帝派貴族の討伐でロイスムール騎士団を指揮した騎士団長である。


彼等の主張は単純だ。西方へ逃れた前皇帝一派の討伐戦に参加したいという事。そしてその意欲的な理由も非常に明確だ。


前皇帝派との戦争で功績を上げて日本が主導する国際組織内での国家地位を高めたい。そんな出世欲がモンドローレー大公の口から溢れ出るのを永井長官の目には透けて見えていた。


既にロイスムール公国は北部の大貴族 オルデンブル侯爵と共にこの新体制となったウィルテラート大陸内での立ち位置は充分と思えるほどに高いと判断していたが、どうやらモンドローレー大公は更に上へ昇る事を望んでいるようだ。


実際、日本主導の環太平洋経済連合に加盟してきる国々では新たに台頭してきた新興国の存在に混乱が起きており、モンドローレー大公はこれを機に磐石な物にしたいと考えていた。


その中でも彼が欲しているのは日本の進んだ技術の提供だった。オルデンブル侯爵も同様ではあるが、彼は一際それを強く願っていた。


日本側から利点を認められれば連合加盟国での立ち位置はより上位になれる。


特に連合の最上位の扱いを受けているオルフェン=ニル国では製造技術を筆頭に多くの分野において他加盟国とは隔絶された恩恵を受けた最恵国待遇となっていた。その存在感は他の加盟国を圧倒している。


モンドローレー大公はその次席に成ろうとこうしてわざわざ本国の公都から数百ミリル離れた帝都まで赴いて永井長官に直談判しているのである。


永井長官自身も、新たな同盟国の元首がはるばる帝都まで直接面会に来られてしまった為に無下にする事も出来る訳がなく、多忙な中でこうして貴重な時間を割いてまで聞き役に徹している。


「我が公国領に住む民と兵達も皆、あの悪名高き皇帝共を滅殺せんと戦意を日々を昂ぶっている。

 貴国の御力によって悲願の公国独立を叶わせて頂いた恩に報いようとしているこの穢れなき生粋な聖心をどうか汲み取って頂きたい!」


覚悟を込めた永井長官の想定を上回る長丁場の会談となった演説に区切りが見えた時、その隙を逃さずに永井長官は無理やり締めくくった。


「……モンドローレー大公閣下。貴公と貴国の曇りなき熱意は充分に理解しました。

 その大徳を積まんとする意思は、必ずや本国へ伝えましょうぞ。」


「おぉ。ナガイ長官殿の御気遣い、痛み入る。来る決戦の時にはその御恩に全力で報いさせて頂こうぞ!」


「その際は是非ともお願い致します……そうそう。折角帝都まで来られたのですから、観光なさっては如何ですか?

 私の方から案内役の役人を手配するので、どうか楽しんで頂きたい。

 無論、それに関わる費用と滞在用の住居は此方で用意させて貰います。……私からのご好意と受け取って下さい。」


「なんと!ナガイ長官殿からそのように御気遣い頂けるとは、それは実に光栄な話。

 有り難くその話、受けさせて貰おうぞ。」


感激した様子で言うモンドローレー大公の返答。それを聞くと永井長官は意味ありげな笑みを浮かべて退出を促した。




面倒な客人を帰らした永井長官は腰掛けていた椅子背凭れにドカリッと身体を預けると側に控えさせていた幹部自衛官に問う。


「それで?実際のところ、ロイスムール公国の状態はどうなんだ?」


協力要請の根回し等でロイスムール公国領内の実情を把握している事を期待しての質問に、幹部自衛官は応えた。まぁ、基本的な調査はダークエルフの手によるものだが。


「……ロイスムール公国は前皇帝の政策で行政機関の大半を中央から派遣された皇宮貴族やその下に就く帝国人の地方役人によって管理、監督されていました。

 その大半が皇帝派のため現在は西方へ移動。今の公国を管理している役人の多くが急遽、役人を任された地元の地主やら村長なので、国内状態は極めて荒れています。

 数千規模の再動員は高い可能性で大混乱と反乱を誘発します。」


これまで属領として統治していた帝国役人の撤退は公国領内の汚職と格差が問題になっており、モンドローレー大公の言っていた大規模動員は困難な状態だと指摘した。


それに永井長官は想定した通りの回答に溜め息を吐いた。


「やはりか……」


手柄を焦る余り、国内の実情を無視して戦争を後押しするモンドローレー大公の姿を思い返した永井長官は彼への評価を大きく落とす。


ロイスムール公国の人口は30万~50万の中程度の国と評価されている。そんな国が数千もの軍を2度に渡って動員するなどほぼ困難だと考えていた故に、永井長官は彼への対応を決断する。


「このまま大公には観光をさせて満足したら帰国を促せ。帰りには遠来した礼品として贈答品を持たせるのも忘れるな。」


現時点の状況では西方の皇帝派への攻撃はまず無い。一向にその話が出なければ再びモンドローレー大公は直談判に来るだろうがその時は、観光を世話してやったという恩を無下にするかと言って非難するつもりだ。


外交世界において、大なり小なり相手に恩を作られるというのはリスクが伴うもの。モンドローレー大公にはそう学んで貰おうと永井長官は静かに思案して指示を出した。


「それで確か次は何だったかな……」


永井長官はそう呟くと机上に置いていたスケジュール帳を開いて次の予定を確認する。どうやら次は帝都の高位官僚との会議であった。


帝都市場における流通状態の報告確認。帝都と周辺地域の治安活動指示。西方大陸との外交方針の再確認……等々といった打ち合わせが多岐にわたって事細かく記載されていた。


会談の次は会議と把握した永井長官は立ち上がると、同席してくれた幹部自衛官に礼を言って元の職場へ戻させる。彼自身も帝都の治安騎士隊との共同業務に従事する必要があるのだ。


追い立てるように舞い込む日々の業務に従事する永井長官達。彼等に一息つく日がくるのはまだ先の話であった。




一般市民が元の日常を取り戻し、支配者層の日本人が過労勤務に勤しむ中で、帝都中心部に位置する工房街区に視点は移動する。



        帝都 工房街区


工房街区は都市の日用品や雑貨・武具等、形ある物を生産・開発する重要な街区である。


戦時には国からの要請で大量の武器や防具、兵士達が使う物品を保管する箱や樽、それらを運ぶ荷馬車すら製作を手掛けていた工房街区は現在は居住街区と同じく平時の日常へ戻っていた。


工房街区を通る道には周辺地域から納品された原材料を載せた荷馬車が往来し、その納品された材料を荷卸する工房見習いの若き少年・青年達が同じ工房の従弟である職人達の指示の元、必要な場所へと運んでいく。


それら工房を取り仕切る親方は顧客である商人や貴族が寄越した使者と仕事に関する内容を話し合う。そんな帝都を生きる人々が見慣れていた日常が広がっていた。


例え支配者が代わろうとも、その裏に異国の者が関わっていてもこの普段の日常が変わることはない。そう工房街区で働く者達は考えていた。


そんないつもの日常を追う工房の1つで、数人の人集りが真剣な表情をしていた。


その工房は武具を取り扱う鍛冶工房のようだ。耐火性を備えた煉瓦造りで天井は高く、鍛冶工房で最も重要な設備である鍛冶炉の排気用煙突はこの工房街区内に点在する建物の中でも特に背の高い建物として目立っていた。


全体を頑丈な煉瓦で覆われた造りでありながら、換気として大きな窓をくり抜いたお陰か、室内は隅々まで日の光で照らされていた。


『黒鉄の炉』……帝都でも5本の指に入る有名な鍛冶工房だ。主な顧客は上級冒険者や帝国軍である事からもこの工房がどれだけ質の良い武具を製作しているのかが分かる。


上記顧客の他に、数店舗の武具屋と直営の店舗にも納品しており、数多く存在する鍛冶工房の中でも高い信頼度と豊富な資金力を有していた。


建物内には4つの大きな鍛冶炉があり、それぞれに炉に若き青年職人が細い観察口から真剣な眼差しで中で加熱させた金属を注意深く観察する。


その隣では工房では※工房見習いの少年達が燃え上がる炉を絶やすまいと懸命にスコップで薪と木炭をくべていく。その額と身体は高温の熱を前に汗と炭で汚れていた。


ーーーーーー


※工房内での階級は下から順に……

1.工房見習い

一番の下っ端。10歳程度の初心者で主に雑用がメイン。


2.職人見習い

雑用から数年経過して根性を認められた青年が職人の元で鍛冶技術を見習う。


3.職人

長年、修行して成果を認められた青年の一部のみが成れる。



4.熟練職人

職人に認められた青年が何十年も経験している最も現場で鍛冶を行う専門家。工房の主力でありそこに働く者全員が目指すが、成れるのは本当に一部。


5.親方  

工房内の見習いと職人達を纏める存在。 鍛冶技術は当然だが経営能力も求められるのがこの世界の常識。大きな工房であれば大商人の幹部という顔を持つ事もある。


ーーーーーー



やがて炉を観察していた職人が機は熟したと判断して、持っていたトングで高熱の炉から真っ赤に熱された延べ棒を取り出して、真後ろの金床へと置いた。


そこへ金槌を囲むように待機していた他の職人と熟練職人が持っていた金槌で真っ赤に熱された延べ棒を力強く叩いた。


熟練職人が叩くと同時に対面に立つ職人が交互に叩く。金属同士の甲高い音が火花と共に鳴り響いた。


充分に叩いて成形を整えたと判断した熟練職人はトングを使って真横に置いた水桶へと金属を入れる。高温の金属が急冷する音が響く。


他の大型炉でも同様の光景が広がっていた。薪と木炭をくべる音、金属を打ち叩く金属音、水が沸騰する音等々、鍛冶工房に相応しいいつもの情景が映っていた。


一度に全ての大型炉と数十人の工房関係者が働く。大型工房のフル稼働。それはこの高名な『黒鉄の炉』でも久し振りの事であった。


工房天井の5つある全ての煙突から煙が吹き出す。他の区域にある大型鍛冶工房でも同様の現象が起こっており、鍛冶業界は大きな賑やかさに直面していた。


ここから近い鍛冶工房と武具店が集中する工房街区にある通りでは、居住街区の様に多くの人々が往来しており、活気を見せていたが、居住街区とは違う一面があった。


違う一面それは往来する人々の大半が明らかに一般人ではなく、暴力を生業としていそうな風格を出す荒くれ者で溢れていたからだ。


無精髭、日焼けや風雪に晒された肌、無造作に伸ばした髪など、過酷な日々を送る男達に相応しい体格も有している。


その身なりは戦場では無い為、武装こそはしていないものの、戦場で刻まれたであろう傷痕、剣蛸のついた手が彼等の身分を物語っている。


鍛冶工房通りを歩く彼等の多くが、戦うことを生業とする傭兵達であった。彼等は来る稼ぎ時に備えて新たな装備の新調や整備に来ていたのであった。


日本国によるニグルンド帝国の侵攻開始から数ヶ月。いまこの帝都には多くの傭兵達が集結しているのである。


主にブレイトン皇甥等が国粋派に対抗する為の即席軍の頭数として雇用する為に召集令を傭兵組合に発令したのが発端であるが、彼等の中には大陸で最も勢いのある日本国へ取り入ろうとする者もいた。


その最大の理由こそが、傭兵業界でも有名なウルブ・ジェシカが正式に日本の配下に加わったという噂が広がったからだ。


この情報は傭兵界隈ではあっという間に浸透した。数百を束ねる大きな傭兵隊から、個人で活動する者に至るまで話は広まった結果が現在の帝都に繋がっていた。


しかし帝都に集結した傭兵達の誰もがジェシカに続かんとする意気込みで向かったは良いが、その門前で追い出されているのだが。


代わりとしてブレイトン皇甥の新たな政府が受け皿となっているお陰か、雇用主を手にした傭兵達は確実に近付く戦場に備えてこの工房街区に集まったのが経緯である。


通りの武具店で並べられた武具を見て周ったり、店内の研磨器で武器の手入れや整備を依頼する者、傭兵隊に所属する隊員達に向けた装備納品を依頼する隊長達が工房街区へ向かう。


工房街区も当然だが、市場市場も彼等による活気を呼び寄せていた。傭兵達に向けた宿屋・飲食通りにも好景気の活気が訪れていた。


酒場では昼間から傭兵達が入り浸り、各々の席で仲間達とテーブルを囲んで酒と料理を口にしながら景気の良い話に華を咲かせていた。


どの酒場も彼等の騒々しい会話と怒号で埋め着くし、酒場で働く給仕がそれぞれのテーブル席の合間を抜けて注文された料理と酒を給仕していく。


そんな彼等の会話で真っ先に挙がる話題は何といってもニホンだ。彼等は専ら各テーブル席でその話題で大いに盛り上がる。特にそのニホンに関するもので取り上げられたのが唯一、ニホンとの契約を交わす事に成功したジェシカだった。


それは傭兵隊長同士で集まっていたテーブル席でも同じだった。いや、隊長各であるからこそ、その話題は真っ先に挙げるだろう。


「にしてもあの隻眼爺め……一体どうやってニホンとの専属契約を勝ち取ったんだ?」


酒の入ったジョッキを荒々しくテーブルに叩き付けた隊長は不満を露に言う。それを聞いた隣に座っていた別の隊長は腕を組んで思考を巡らせる。


「うーむ……あの老いぼれ爺さんは昔から商機を嗅ぎ付ける事に自信があると聞いてはいたが、まさかこれ程だとは。」


噂以上だったか。腕を組んでいた隊長はそう呟いて苦笑いをした。


「笑ってる場合か?このままじゃ、あの爺の隊との差が開く一方だ!

 噂じゃあ、ニホンからの支払いは前回の帝国軍契約の倍は最低保証されているって話だ!

 今後、あそこのターボ隊は規模を拡大していくのは目に見えている!」


言葉を発していく毎に機嫌を急下降させていく隊長に、同じテーブルを囲んでいた他の隊長達は互いの顔を見合わせた。


確かに彼の言う通りに悠長に待っていてはジェシカの独占で終わるだろう。それは理解していた。


「とは言え……だ。ニホン軍はもう締め切ってるんだ。もうどうしようも出来んさ。」


別の隊長がジョッキに口を付けながら言う。かく言う彼等、各隊長達もジェシカに続こうとニホン軍の司令部がある官庁街区の建物まで足を運んだが、『傭兵契約は帝城の帝国軍と話し合え』と門前払いを受けていた。


「まぁ帝国軍との契約は取れたんだ。何よりじゃねぇか。それも西方の界線での国境警備ときた。実りは少ねぇが確実に報酬は貰える。」


国境警備は敵との遭遇戦は少ないが、基本的に規模は少なく、危険が少ない。だがそれでいて軍からの支払いは安定しているため条件としては悪くなかった。


しかし不満を漏らしていた隊長はそれで納得していない様子だ。


「馬鹿野郎!俺達がそれで小銭を稼いでいる間、あの爺は大金を懐に納めてるだろうが!」


「……おい。いい加減にしろよ。なにもテメェだけが不満を感じてる訳じゃねぇんだ。口の聞き方には気をつけやがれ。」

「あ?んだとごら……」


言葉も態度も悪くなっていく様子を前に他の隊長達からも険悪な空気を露にする。


「……そこで止めろ。ここで争って衛兵や騎士の目に留まったらせっかくの契約が白紙だぞ?」


しかしそこは荒くれ者を束ねる隊長各だ。一発触発手前で互いに1歩引いて座り直した。


ここで争っても無意味だと彼等は理解しており、一先ずの剣を使った喧嘩はお預けとなった。……本当に一先ずではあるが。


やがて互いに落ち着きを取り戻した彼等は再び酒の入ったジョッキを手に持って今後の方針について意見交換をし合う。


「……だが実際のところ、確かにジェシカの独占はどうにかしたいな。

 このままだと今後の功績も奴等が独占する可能性もある。」


既に傭兵達の間でニホン派帝国軍とニホン軍との待遇に大きな差があることが共通認識として知られていた。


特に報酬面においては、近頃の傭兵同士による情報交換でジェシカ率いるターボ隊が大規模な装備更新と人員拡大を行っている情報を得たところから、莫大な報酬を前金として受け取ったと考えていた。


この戦乱が起こる前から、ニホンという謎多き国からの商人の噂は傭兵界隈でも割と有名であった点でも、金払いの面でニホンとの契約取得は是が非でも取りたかったものだ。


「それで?肝心のジェシカの所はいま何をしているのか、誰か聞いているか?」


「噂ではここから西にあるヘルンフートっていう都市に拠点を移すらしい。」


「ヘルンフート……行った事はない街だな。どんな都市だ?」


「確か……穀倉地のある都市の筈だ。前線からは少し距離はあるが軍の砦が近くにある。周囲には大きな川もあるし別の大きな街とも近い。」 


「するってぇと通行税代行も出来る訳か。」


傭兵から寄せられる依頼は、戦争参加の依頼以外にも国境警備や物資輸送に賞金首討伐の他、通行税の徴収の代行も稀に依頼される事があった。


しかし当然ながら通行税代行は、その領地の領主からの信頼が無ければまず依頼されない。それに傭兵に頼らずとも領主なら自前の私兵で賄える。


しかし今のジェシカは他でもないニホンとの契約を結んだ唯一の傭兵だ。その信頼度は群を抜いて高まった。


更にヘルンフートは中央部とは謂えども反ニホン派である皇帝派の西方と近い位置の都市だ。ニホンの支配に嫌悪感を示す通行人は通行税の支払いを渋る者も出てくる。


しかしジェシカのようなニホン直属の傭兵が出向けば彼等は払うしかない。ヘルンフートの領主にとって代行を依頼しない手は無い。例え通行税の一部を傭兵に取られようが財政確保と西方の皇帝派勢力への牽制を鑑みればメリットのほうが大きいと判断できる。


そしてジェシカから見ればニホンとの定期報酬以外にも通行税代行の収入も入れば彼等との差はますます開かれる事は間違いない。


恐らくあのジェシカはそこまで考えている可能性が高い。隊長達はそう確信した。


「あの爺は本当にやり手だな……多分だが、それ以外にも何か考えがあってヘルンフートに向かった筈だぜ。」


「まだ帝都には、奴の手下が残ってる筈だ。そいつ等を買収して話を聞いてみるか?」


「止めとけ。あの爺がそれを想定していないなんて考えられん。それに、下手にニホンの配下に加わったアイツ等と問題を起こしたら、俺達がニホンに睨まれるぞ?」


あの帝国討伐軍をあっという間に殲滅したニホンと敵対したいか?そう制止する隊長の言葉に男は黙った。


「くそ!どうにかニホンの役人と懇意に出来たら大きいんだが……せめてニホン商人との伝でも手に入れば話は変わってくるのに!」


再び不機嫌そうにジョッキをテーブルに叩き付けた隊長。これには他の隊長達も同意するとばかりに頷いた。


それから他に良い手立ては無いかと隊長同士で真剣に話し合っていた時、酒場の外が騒がしくなった。だが人の声等ではなく、別の種類の音で騒がしくなっている。


聞き慣れない獣とは明らかに違う呻き声と小刻みに揺れる振動で酒場にいた彼等のテーブル上に置いた食器も揺れる。


「ニホンの鉄馬車か……」


それだけで外の騒がしい理由を察した誰かが呟いた。その瞬間、あれだけ騒がしくしていた酒場の誰もが外へと視線を向けてその音の正体を目で追いかける。


酒場のすぐ外にある車道を進む数台の鉄馬車。独特な異音と振動を傍らに動く姿はそれなりの日数が経過しても多くの観衆を引き付けていた。


「おい。荷台に誰か乗ってるぞ。帝国人だ。」


どうやら人を乗せているようだ。窓から近い位置に座っていた傭兵の言葉に周囲からは嫉妬や不満の声が漏れる。


「またニホンのお偉方と面会か……」

「羨ましいぜ。今度のは商人か?」

「いや。外套を纏ってたからよく分からんが、なんか結構な人数が乗ってたな。でも貴族では無さそうだ。」


各テーブル越しから会話が広がる。彼等の言っている内容について触れると、ニホンの役人はここ最近になって定期的に帝都の何者かとの会談を行っているようで、先ほど鉄馬車に乗せた帝国人も恐らくはニホンの高官等との面会取り付けに成功したのだろう。


こればかりは傭兵である彼等には出来ない行為だ。一介の傭兵如きではニホンの役人と直に対談の場を設ける事など出来ないのだから。


大抵の場合は帝都の地主や教会関係者、各組合の組合長や大商人といった有力者ばかりしか選ばれない。彼等の不満が出るのも仕方がないだろう。


それらを聞いていた隊長達もそれに触れていく。


「どう見る?」


「情報屋の話だと、前回は商業街区の大商人らしい。どうせ今回も商人共だろ。」


戦争の前準備でニホンのお偉方も忙しいのさ。そう隊長は言うと酒の追加注文をした。


傭兵達が新たな話題で賑わう酒場。そこを通り過ぎていった日本のニグルンド方面隊管轄の輸送車両の車列は目的地である官庁街区へと人と馬車でごった返す道路を進む。


その荷台には多数の外套で顔と身を隠した集団が乗り込んでいたが、その内の一人が外套のフードを外してその顔を露にする。


「ふむ……これが鉄馬車か。意外にも乗り心地は悪くないな。」


彫りの深い顔立ちをした男はそう言うと中腰になって興味深そうに陸上自衛隊 73式大型トラックの荷台からこの車列を見回した。


見回した時に真後ろを追従する高機動車の運転席に座る隊員と目が合うと笑顔で片手を挙げて挨拶をした。


それに対して運転席の隊員は無愛想な態度でハンドルから片手を離して手を水平に下げた。


静かに座れ。男はそう受け取り、笑顔のまま大人しく荷台に座り直した。


「あのニホン人……何と無礼な!先生に対してあのような態度をとるだなんて!」


その一連のやり取りを見ていた若き青年が怒り心頭の様子で声をあげた。どうやら彼はこの男に対する隊員の対応に不満を感じたようだ。


他の荷台に座っていた青年達も追従するように次々と声をあげていく。


「全くだ!面会を取り付けてから何日も放置するのも許せんが、ここのニホン兵達の態度は一体何だ!」

「そうです!先生がどれだけ高名な学者なのかをニホン人は全く理解していませんよ!」


口々に彼等を送迎する自衛隊員の態度に不満が溢れていく若者達。それを統率する男は静かに片手を挙げて制止させる。


全員の視線を集めた男……方面隊による帝都占領初期に戦闘ヘリを遠目から観察していた学者は落ち着いた声で言う。


「君達の怒りは嬉しい限りだが、今日は待ちに待った念願の日である。

 くれぐれもその態度は表に出してはならぬぞ?我々はニホンから学びを得るのだ。

 きっと彼等の知識は今の私達を成長させてくれる貴重な教材に違いない。

 ここは1つ、知恵の女神 メヘナの様に寛容な気持ちを持ちなさい。」


若者達は崇拝の域に達した己の師の言葉を聞いて、渋々ながら落ち着きを取り戻した。他でもない師自身が気にした様子は無いのだ。ならばその弟子である彼等がこれ以上、言及するのは師の面子を潰すことになる。


こうして30人近い弟子達の不満を抑えた男 帝国どころかウィルテラート大陸でも名を馳せた学者 アーサー・レイモンドは念願のニホンとの対面を前に、期待を高まらせていた。




         帝都 官庁街区

    マーズ3番通り 第2戦闘団 本部


各戦闘団本部の設置された官庁街区の1区画でレイモンド一向を乗せた車列は目的地である第2戦闘団本部へと到着した。


戦闘団本部の出入口ゲートまで車列は進むとそこで車は停車する。


すぐにゲートで警備をしていた隊員が車列先頭の隊員と数枚の書類による確認と審査を行う。


やがて隊員同士で1通りのやり取りを終えたゲートの警備隊員はレイモンド達を乗せた73式大型トラックへと近付いて、荷台に座る彼等へ指示を出す。


「今から手荷物検査を行います。速やかに車から降りて1人ずつ検査を受けて下さい。」


警備隊員はそう言い終えるとゲート脇に設置された手荷物検査所を指差した。


しかしその指示を受けたレイモンド達、主に弟子が抗議した。


「何だと!?先生を調べると謂うのか!」

「幾ら何でも無礼過ぎる!この方は皇室から認められた大先生であるぞ!  

 向こうの帝国中央図書館の設立にも功績を残された方への礼儀を尽くさんか!」


次々に声を荒らげて抗議をする弟子達を前に当の本人であるレイモンドは顔を手で覆う。


そして抗議を一身に受けている警備隊員は淡々とした態度で冷静に返す。


「規則です。手荷物検査を受けない方は例外なくお通し出来ません。」


絶対に譲らない態度で断言する警備隊員を前に弟子達の顔が怒りで真っ赤になる。続いて先ほどの隊員の態度にも言及しようかとのタイミングでレイモンドが口を開いた。


「うむうむ。そちらの言葉も道理であるな。私は構わないとも。

 君達も落ち着きなさい。先ほども言ったであろう?私達は学びに来たのである。  

 ならば手荷物検査も喜んで受けようではないか。あっはっはっは。」


レイモンドはそう言うと声高らかに笑い声を上げてゲート脇に設置された手荷物検査所へと向かう。


問答無用で受けると答えた弟子達は困惑するも否応なしに手荷物検査へ向かう師に追い付こうと慌てて向かった。


手荷物検査所は1列に並べられた長テーブルに数人の隊員達が等間隔で配置されており、どうやら来訪者の手荷物をそのテーブル上に広げていく形のようだ。


レイモンドはその意図を察して黙々と懐にしまい込んでいた荷物を置いていく。弟子達も大人しくそれに従った。


「何だって先生がわざわざ……」

「本当に無礼な者共だ……!」

「先生に余計なお手数を……自分が不甲斐ない!」

 

前言撤回。文句を言いながら手荷物検査を受けていく弟子達に、レイモンドは苦笑いをした。


「……これで全てですか?」


「うむ。これで全てである。ニホンの逞しき戦士よ。」


持っていた荷物を全てテーブルに乗せ終えた彼等。対面に位置する隊員からの確認にレイモンドは意気揚々と答えた。


だが、隊員は淡々と広げられた荷物を一つ一つ念入りに確認し始める。それを視界に捉えた弟子の1人が再び何か言おうとするがすかさずレイモンドがそれを制止する。


小物入れといった袋物はひっくり返して中身を確認する程の徹底振りにレイモンド以外の面々が不満を露にするも、手荷物検査は順調に進んだ。


「……こちらは?」


やがてレイモンドの手荷物検査をしていた隊員が最後の荷物である小袋に手を伸ばして中身を確認した時、隊員の質問が飛ぶ。


隊員の手には数茎の野草が握られていた。


「それはルミシ草だ。」


訝しげな表情をする隊員を前にレイモンドは堂々と答えた。


「ルミシ草?」


「うむ。帝都の道中で這えてたから採取したのだ。回復水薬の材料が主流だが、私は煎じ薬としても使っている。ドコウ実と混ぜれば頭痛と目眩によく効くのだぞ。」


レイモンドの回答を聞いた隊員は隣に立つ検査隊員と顔を見合わせて、頷き合うと再び彼の方へと向いた。


「……こちらは預かっておきます。退館時に返却致しますのでご了承下さい。」


「お、」「承知した!是非とも預かってくれ!」


またもや弟子が何かを言おうとする前に同意するレイモンド。それに弟子は暫く悩むが結局口を閉ざすのを見た彼は心の中で拳を握った。


「お待たせしました。こちらへどうぞ……」


手荷物検査を終えた一向は、その足でゲートをくぐり抜けて第2戦闘団本部の敷地に踏み込んだ。


敷地内は広大であり、建物正面には手入れの施された庭園で来訪者である彼等を出迎えた。


(ふむ……どうやら近衛騎士団の拠点を再利用しているようだな。)


レイモンドは建物の構造からこの敷地が遷都によって使われなくなった近衛騎士団のものだと瞬時に見抜いた。


特殊な魔法加工の施された魔煉瓦で建設された5階建の大型建造物であり、敷地全体も4ミリルの高さで外壁を囲った軍事拠点だった。


外壁には監視塔が等間隔で配置されており、その監視塔にはニホン兵が油断なく警戒していた。


第2戦闘団 本部。主力部隊の大半をこの帝都に配置させた帝都防衛組織。その防衛司令部も兼ねた日本の重要拠点に彼等は入ったのだ。


建物内に入ったレイモンド達は全く会話をしてこない隊員の案内で1つの部屋へと到着した。


到着した隊員はノックする。


「1等陸尉、お連れしました。」


隊員の報告からすぐに入室の許可が下りると扉を開けた隊員が言う。


「中へお入り下さい。」

「うむ。ここまでの案内、感謝する。」


レイモンドの感謝の言葉に隊員は小さく頷くだけで終える。その無礼な態度にまた弟子達が食って掛かろうとするが同じ問答の繰り返しになるだけなので辛うじて我慢する。


「失礼する……ほう。これはこれは。」

「なっ!?」 

「何と言う事か!」


入室した一向はその部屋に待機していた人物の姿を見て2つの反応を示す。


1つは感心や興味深いといった反応を、そしてもう1つの大多数が見せた反応は驚愕と怒りであった。


レイモンド達が通された部屋の中央。元は近衛騎士隊長の執務室であろう空間には1人のダークエルフが直立した姿勢で待っていた。


「初めましてレイモンド大師。私は第2戦闘団 所属のロズ・フィレンブ であります。

 階級は1等陸尉……分かりやすく申し上げるならば上級騎士隊長に相当する職位を承っております。

 かの高名な大学者 アーサー・レイモンド大師と御会い出来る光栄を承った事、知恵の女神 メヘナへ感謝申し上げるしましょう。」


そうロズ1等陸尉は大陸式の最上位に位置する敬礼をしてレイモンドを出迎えた。


その優雅な所作を前にして、驚くレイモンド。そして背後で怒り心頭であった弟子達も思わず驚きが勝ったようだ。


どうやら大陸では通例となっていた怒号が飛ぶことは回避出来たようだ。ロズ1等陸尉は聡明な学者一向に無言で感謝した。


「これは実に驚いた。先の動きは非常に美しい……はっはっは!

 実に良いぞ。あれ程精錬された敬礼は騎士達でも出来んだろうな。

 素晴らしいぞ。ロズ1等陸尉とやら。」


上機嫌に笑いながら正しい発音で役職を発するレイモンド。それにロズ1等陸尉も返す。


「お褒めに預かり光栄に存じます。ささ、立ち話も何ですからどうぞお座り下さいませ。」


ロズ1等陸尉はこれまた優雅な所作で目の前にあるソファーへとレイモンドを促した。


「うむ!私も早く君と話したくなったぞ!」


レイモンドの嬉々とした様子でソファーに座るのを確認したロズ1等陸尉も続くように腰かけた。因みに弟子達はレイモンドの背後に立って並ぶ。弟子が師の隣に座ることは許されない。


対面する形で座り合う2人。ロズ1等陸尉は最初の挨拶を済ますと一連のやり取りから、世間話を省略することを選んだ。


「レイモンド大師も回りくどい話はお気に召さないと見ます。

 ここは単刀直入に本題に入っても宜しいでしょうか?」


「うむうむ!実に良い。ますます気に入ったぞ。私としてもその提案は有難い。 

 早速、本題に切り込むとしよう!」


レイモンドは破顔して機嫌をますます上げて本題に入った。ロズ1等陸尉も大陸人としては非常に珍しく、ダークエルフへの嫌悪感を見せない男姿に喜びを感じる。


弟子達は高名な自分達の師への対応をダークエルフに任せたニホンに奮い立つ程の怒りを覚えていたが、師の真逆な反応を前にただ困惑するしか無かった。


「それでは早速ですが、レイモンド大師。

 貴方様の来訪目的をお伺いしても?」


ロズ1等陸尉は最も重大な質問をした。その瞳は一瞬の隙も見せない、軍人の顔であった。彼は目の前に座った学者の真意を探る。


事の発端は3週間前に遡る。帝城の官僚経由から日本の外部インフラ開発庁に向けて、この大陸では非常に有名な学者が日本の高官に会いたいという打診が始まりだった。


名高き学者の出現に現地官僚とダークエルフ達は大いに慌てる様子とは対極的に日本側は困惑の反応が大半であった。


話に聞くとアーサー・レイモンド 他の者からは大師と呼ばれている魔法薬学・錬金術・鉱物・歴史・古代学といった多数の学問で著名な学術書を出版しているとんでもない人物だと判明した。


地球で例を挙げるならアルキメデスやニュートンのような人物に近い……らしい。


少なくとも大陸の知識人を自負する者達では知らない者は居ないとすら謂わしめる程の有名人だ。


この人物の接触は日本政府としても願ってもいない事であったが、タイミングの悪いことにあの『ハンザブレック大火災』の直後であった事もあり、首脳部はその対応に追われていた。


日本政府にしても影響力のある人物の接触は優先度が高いが、『ハンザブレック大火災』が日本の経済・軍事で与える影響力が致命的レベルであったのもあり、彼等への対応が完全に後回しされていた。


そして事態が沈静化に傾くにつれて、彼等へに対するある疑惑が日本首脳部で持ち上がった。


曰く、その人物は信用出来るのか?皇帝派と裏で繋がっていないのかという疑心暗鬼が彼等の脳裏を支配したのだ。


その結果、ダークエルフ主導の徹底的な調査を終えるまで放置される事となったのだ。そして対談日にも厳重な検査を受けてから敷地に入れるという徹底的振りである。

(この調査までダークエルフ任せであることに危機感を募らせる官僚がいたのは愛嬌である。)


閑話休題、ロズ1等陸尉の質問を受けたレイモンドは端的に答える。


「私はニホンの進んだ文明を学び、それを帝国の民に教授したいと思っている。」


レイモンドの真っ直ぐな回答にロズ1等陸尉の瞳が開く。


「成る程……具体的には?」


「ニホンは今後、この大陸単体には及ばず西方大陸、その更に西にある極西大陸、恐らくは他にも存在するであろう他大陸にもその影響を与えるであろう。」


ロズ1等陸尉は無言を貫く。


「私はそんなニホンの技術を学び、この国の発展に尽力したい。

 帝国はこれ迄、様々な技術と知識を他国から吸収して活用してきた歴史を持つ。これは帝国の開祖 デーン大帝から受け継がれてきた流れだ。

 ならば今回も同じだ。優れた力を持つ者から学ぶ。そうすれば帝国の民は今よりもっと豊かな生活を手にする事が出来る筈だ。

 そのためにも私はニホンに多くの学生達を送って、知識を身につけて貰いたい。」


「ほう……学生ですか。帝国貴族学院や魔道学院といった学生達に日本の教育を受けさせたいという認識で宜しいですか?」


帝国貴族の子供達が入学する教育機関を述べたロズ1等陸尉だが、レイモンドの答えは違った。


「いいや違う。私が考えているのは、貴族一族からでは無い。

 私は平民から募り、ニホンに送りたいと思う。」


「っ!先生!」

 

レイモンドの回答にロズ1等陸尉は瞠目した。背後に立つ弟子達も驚いた様子だ。


平民に教育を受けさせる。この考えは大陸、いや、この世界ではかなり異端な考えと謂えよう。


文字や簡単な計算で充分。それすらも平民には必要無いと考える貴族は多く。平民自身も、そんなものは不要だと考える者は多い。


皆、目の前の生活に必死であり、わざわざそれを学んで腹を満たせれるのか?と将来性に疑問を抱くのが普通だ。


だというのにこのレイモンドはそれとは真逆の考えをしていた。


「貴族や一部の富裕層のみが知識を独占する……権益やら何やらの話がある故に一概に非難するべきでは無いが、これから先に起こる大きな変革には彼等平民の力が必要であろう。 

 故に私は平民達を集めた教育機関を創り、そこから優秀な者をニホンに送ってその優れた学術を身につけ、帝国に定着させたい。」


レイモンドの考えを聞いたロズ1等陸尉は心の底から驚き感銘を受けた。大陸において平民達を主導とした教育機関は、教会の司祭達が個人で行う場以外では存在しない。その教会においても簡単な文字と計算しかやっておらず、レイモンド達ののうな学術書を基にした学習の学びを得られる機会は殆どない。


(これはこの大陸の常識に変革が起こるぞ……)


大陸人の優秀な人材の育成。日本政府としても優先事項は低いが、推進している項目である事を把握していたロズ1等陸尉はほくそ笑みた。


その後、ロズ1等陸尉とレイモンドとの対談は問題が出ることなく好調のまま進み、この日の対談は終了した。


互いに上機嫌のまま別れを告げてレイモンドは弟子達を傍らに部屋を退出し、部屋で1人だけとなったロズ1等陸尉は最後の仕事をする。


机の引き出しから1枚の書類を取り出す。その紙は今回の対談者に対する評価表であった。


それに記入するべき項目は多岐に渡るが、今回の相手 アーサー・レイモンドの評価は合格で良いだろう。


ダークエルフに対する偏見なし。今後起こる変革への嫌悪感なし。新たな技術開発に意欲的あり。


ロズ1等陸尉は評価表の内容を書き込んでいくと最後の項目である次評価者である外部インフラ開発庁への面会許可印に自身の印鑑を押した。


これによってレイモンドは外部インフラ開発庁に直接、面会する事が可能となったのを確認するとロズ1等陸尉は小さく頷いた。


「ふふふ。まさかあの大師が我々に協力的なのは驚きだな。」


前皇帝からも直々に召し抱えるよう言われた事もある有名人だ。きっとその影響力は日本に大きな力を発揮するだろう。本来ならもっと早くに対談するべきだ。


「ハンザブレックは今も復興で大忙しだろうな……」


ハンザブレック方面に異動となった同胞を思い出したロズ1等陸尉は心の中で手を合わした。向こうは24時間体制で復興対応に勤しんでいるらしい。 


北も中央も休まる時はまだ無い。ロズ1等陸尉はそう呟くと先ほど記入した書類を上官である戦闘団 団長に提出する為の上階へと向かった。


上手く話が通れば、レイモンドの次の対談者は永井長官になるかも知れない。話に聞けば永井長官は連日のようにその対応をこなしながら長官としての職務もやっているのだとか、全く頭が上がらない限りである。






ダークエルフとの対談を終えたレイモンド一向は手荷物検査所で預かっていた荷物の返却を受けてから再び鉄馬車へと乗り込んで帰路についた。


帝都の官庁街区を通る車道の凹凸で僅かに揺れる荷台の上でレイモンドは満足そうな表情を浮かべながら通りを見回す。


それとは反面、弟子達はニホンの対応にやや不満を抱いているようで隣の弟子仲間と共に口々に文句を言い合っていたが、レイモンドはそれを横耳に、現在進行形で変貌しつつある帝都を目に焼き付けた。


ニホンは帝城を中心とした区域から順に大規模な工事を行っていた。歩道と車道は見た事のない1枚状の灰色の岩板に張り替え、建物も煉瓦とは違う材質の頑丈な造りとより高層に変わっているものがあった。


そして時折、この帝都上空を前に見た羽を回して飛び回る鉄飛竜が姿を見せる。更に一昔前までは有り得なかったダークエルフ達が堂々と帝都の表に現れ、ニホン人と共に仕事を行っている。


レイモンドは学者として数多くの珍しき物を見てきた身だが、その彼をもってしてもニホンは全容を理解するにはまだ時を要すると肌で感じていた。


今後この帝国は帝都を中心にこれ迄にない時代を造り上げていく。彼はそう確信する。


「面白い。いずれダークエルフ達の待遇も変わるだろう。あのロズ1等陸尉のような優秀な者が大陸の学問を率先する日も訪れるやも。」


レイモンドは小さく呟いた。最後の一言は弟子達に聞こえればきっとまた大騒ぎするためにまだ大きくは言えないが、レイモンドは期待をしていた。


「ふふふふ……これから忙しくなるぞ。」


来るニホンと行う仕事を夢見てレイモンドは楽しそうに笑った。彼の底知れぬ知識欲はまだまだ健在のようだ。




官庁街区でレイモンドがこれから訪れる変革の未来に期待を寄せた頃、そこから少し離れた区画、商業街区に視点は移動する。



        帝都 商業街区


一般人が日々の日用品を買い求める市場街区の隣に位置する商業街区、そこは一般人とは違う階層の者に向けた品が集まる場所だ。


商業街区の主な相手は名前の通りに商人や冒険者、魔道師といった人々が仕事に使う道具や素材、商いを目的とした場所だった。


数多くある施設には帝都を活動拠点とした商団の商館や両替所があり、市場と露天通りも街区に設けられた所でハンザブレックに負けない数の商人達が往来する。


この日も帝都が主な活動拠点である商団の商館で1人の商人が他の商人等と同様に仕事をしていた。


ユレイ・シューブル 帝国中央部出身の行商人であり、1ヶ月前にベリバラル平原の街で、日本の地上油田掘削拠点の建設を見物していた青年はいま立ち寄った商館で並べられた品物をみていた。


シューブルのいる商館は主に綿織物を中心に取り扱っている商団であり、彼は目ぼしい織物の仕入をしていた。これを南部地方に程近いコレタという都市に持っていけば高く売れる。あそこは染色が盛んな地域のため出来ればもう少し仕入れておきたいところだ。


「……するとハンザブレックは焼け野原になったのか?」


商館に勤める商団の人間と値段の交渉をして入手した織物を背嚢に積めていた時、隣で同じことをしていた行商人が商館の男との会話が耳に入った。その物騒な内容に思わずシューブルの手を止めて意識を耳に集中させた。


「いや。火事は倉庫区域だけで済んだ。けど、そこに保管かれてたニホンの物資は殆ど焼けて無くなったみたいだぜ。」


「かぁ~勿体ない……にしても放火は本当なのか?」


「あぁ、間違いない。下手人は皇帝派貴族の元騎士達だとよ。その騎士達もニホン兵が皆殺しにしたからもう終わった話さ。」


「ほぉ、そういうことか。道理でそれぐらいの時からニホン兵の巡回が増えてた訳だ。」


行商人の話に商館の男は納得したように頷いた。


「そうなのか?この話は1ヶ月以上前の話なんだがな。」


「あれ、本当か?いや、でも確かに1月ぐらい前から急にニホン兵が官庁街区や城門辺りの警備が厳重になったんだよ。

 最初、官庁街区のニホン軍拠点に納品をしてた連中もメチャクチャ厳しい荷物の検査を受けるようになったのもその辺りだ。」


「変だな……この話は割と急いで持ってきたネタなんだけどな。」


「はっはっは。なに言ってんだ。飛竜がいればあっという間に話は帝都まで届くさ。 

 お前、知らないのか?緊急の報せは飛竜の伝令が使われるんだぞ。

 しかも今回はニホンの鉄飛竜だ。普通の飛竜よりもずっと速いぞ。」


「ほぉ……それは羨ましい話だ。誰よりも早く情報が手に入るなら金儲けなんて楽勝じゃないか。」


「そうさ。だから皇帝は負けたんだ。もう皇帝の時代は終わりだ。これからはニホンの付いた方が儲けられる。」


商館の男が言った言葉に行商人は微妙な表情をした。それに男は不思議そうに問う。


「どうした?」


「いや……けど、アイツ等……ダークエルフ共と一緒だろ?なんて言うかな……縁起悪いじゃないか。

 あの呪われた種族と一緒にいると早死にするって言うし。正直、そこまで関わりたくないな。」


行商人の言葉に男は心の底から同意するように頷いて同調した。


「あぁ~分かる。俺もそこは嫌だな。俺ところの商長達も同じことを言ってた。

 けどニホン人は頑としてダークエルフを拒む者とは取引しないって断言したから渋々、取引を続けてるぜ。

 だから、本音ではニホンに不満を持ってる奴は大勢いるだろうな。」


「やっぱりか……そこさえ無ければニホンは商売相手として完璧なのになぁ。 

 正直に言ってハンザブレックで大損害を受けたって聞いた時はザマァ見ろって思っちまったぐらいだ。」


「はっはっは!俺も同じ事思ったぞ。ダークエルフとつるむ奴なんて、死霊術団とか異端信者ぐらいに怪しいもんな。」


2人の軽快な会話を横から聞いていたシューブルは収穫を得たと脳内で笑みを浮かべて、その場から離れた。



綿織物を取り扱う商館から足早に去るとそのまま通りに出て、別の商館へと赴く道中でシューブルは思考を巡らせる。


彼等の話を聞いた限り、北部にあるニホン派の最大都市 ハンザブレックは皇帝派貴族の大事件に捲き込まれたらしい。


するとここにも皇帝派に属する間者なり、元騎士といった者が多く潜伏している筈だ。何せここは皇帝の居城、皇帝が直接支配していた帝都なのだから。


彼は迷う。そこに何かしらの商機を見いだせないのかをその頭をフルに使って探る。


彼の夢は大金を手にする事。叶うならば自身の組織を立ち上げて思うがままに部下を支配するという大層な夢であった。


現状に満足はしていない。彼は先ほど手にした情報から何か利用できるものは無いかと歩きながら考える。


(ニホン、ニホン……駄目だ。利用するにも奴等の事を何にも知らない。)

 

馬を必要としない鉄馬車。信じられないほどに仕立ての良い服装。轟音を出しながら飛竜よりも速く飛び回る鉄飛竜。


分からない事だらけの自身にシューブルは苛立ちを感じて頭をガリガリて掻いた。


帝都に到着してから幾日の日数をここで時間を潰していたシューブル。その間、酒場や通り等でニホン人同士の会話を盗み聞いたりして彼等の事を理解しようとしたが、大半は全く訳の分からない単語ばかりでその努力は報われなかった。


「はぁ……」


無意識に深い溜め息が漏れた。この戦乱時は平時と比べて成り上がる者が現れやすい。野望を持つ彼にとってはこの上ない好機の筈だというのにそれを活かせれない自身に失望の念が絶えない。ダークエルフは見事に出世しているというのにだ。


(ん?……ダークエルフ……)


彼はそこで一筋の道が見えたような感覚を覚えた。思わずその場で立ち止まる。


ニホン人に協力的な者は多い。しかしダークエルフに協力的な者は少ない。感情面でそれを拒否する者が圧倒的に多いのだ。


しかし彼は正直に言えば、そこまでの嫌悪感は無い。好きに関わろうという感じでも無いが、路地裏で物乞いのように跪くダークエルフにわざわざ近付いて暴行を行う連中の気持ちが分からない程度には中立に近い感情だ。


ニホン人は大陸の協力者を求めてる。ならばダークエルフも同じなのでは?彼等も事ある毎にニホンの威を借りるというのは面倒だと思っていたら?


「俺が真っ先に協力者になれば、他の連中よりも覚えが良くなる……か?」


無論、それが周囲に気付かれれば今度は自分が冷ややかな視線を向けられるだろう。場合によっては突然、背後から背中を刺される危険性もある。


だが、出世するのに危険は付き物だ。寧ろ、あればある程、それを達成した時の利益は大きい。行商人としての経験がそれを証明している。


「よし!それしか道はない……」


シューブルはそう意気込むと、来た道を引き返した。確か、帝都滞在中の情報屋から仕入れた話によるとダークエルフは協力者を探しているようだ。何をするかまでは聞いても不明だと言われた。


普通は怪し過ぎる話だが、いまのシューブルは彼等ダークエルフに付け入れるにはまたとない好機にしか見えなかった。


意を決したシューブルはダークエルフ共を探す。ニホンの威光を手にした彼等は頻繁に帝都の表通りを出歩いているのを何度も目撃していた。


どれだけの距離を歩き回った事か。足が棒になる感覚を覚えた頃、彼は遂に目的のダークエルフを見つけた。


商業街区の大通りから大きく外れた路地、怪しい物品を取り扱う小物店通りの一角で数人のダークエルフ達が屯していた。


やはりあそこのダークエルフ達もニホン兵と同じ装備を着込んでいる。所々の細部は微妙に違うが、それでもニホン兵の仲間なのは確定だ。


シューブルは激しくなる心臓の鼓動を悟られまいと必死に無表情を維持しながらゆっくりとダークエルフ達へと近付いた。


近付いてきた金髪の青年帝国人を見つけたダークエルフ達は不思議そうな表情をするも、その不気味な蒼い光彩をした瞳を向けた。


シューブルの人生を賭けた決断。それは今後の彼の運命を大きく変えたのは間違いなかった。






        帝都 歓楽街区

       ミリード酒場通り


日も暮れ始めた帝都、多くの労働者が本日の仕事を終えて、帰路につくか今日の稼いだ日当を懐に仕事仲間と肩を並べて歓楽街区へ足を運んでいく光景が広がっていた。


鼻の下を伸ばした男達が娼館を物色し、裏通りで妖艶な香りと雰囲気を出した露出の多い女がまだ若い青年に色気を纏わした言葉と動きで呼び掛けるとそのまま腕を引っ張って裏路地の奥へと消えていく。


別の場所では酒場で仕事仲間と共に上司の悪口や最近の景気事情を肴に盛り上がる光景があった。


そんな通りを2人の外套を着込む男達が歩いた。その2人は少し早足で数区画を通り過ぎていき、目的の建物に入る。


そこは宿場らしく、人気のないカウンターを通り過ぎて上階に続く階段へ向かう。2人は3階まで階段を登るとそこの廊下へと向かい、一番奥の部屋へと入った。


「よくぞ戻った。」


部屋へと入った2人を青年と数人の男達が出迎えていた。2人組の片割れが略式の騎士礼をとるともう片方の男を紹介する。


「モルツゥイ様。この男が帝都騎士隊の隊長です。以前にもお話した通りに、彼は私の同郷でして、信頼は出来ます。」


騎士礼をした男を合図に彼も略式の騎士礼をとると名乗る。

 

「モルツゥイ様。お初に御目にかかります。帝都騎士隊 第11騎士中隊 隊長を拝命した レベリ・ウィリミアス であります。

 先代当主 子爵様につきましてはお悔やみ申し上げます……」


「うん。貴君の弔辞 心より感謝する。我が父もきっと亡世の館で同じことを想っているだろう。」


紹介を受けた男から哀悼の言葉を聞いた青年 モルツゥイ子爵家の嫡男 ベネレゼ・ルミイ・モルツゥイは返答する。


帝都に向かうと決心した若き貴族 モルツゥイは 配下騎士の1人が帝都騎士隊に知り合いがいるという事を聞いて今回、面会をしたのだ。


念願の日を待ちわびていたモルツゥイはウィリミアス隊長を近くの椅子に座らせると期待を込めた眼差しで質問した。


「さて……貴君はニホン兵と共にこの帝都の治安を守っているのだな?」


「はっ……その……確かにニホン兵と共に職務遂行をしておりますが、私は奴等と協力関係とは……」


ウィリミアス隊長は遠慮がちに返す。目の前の青年はそのニホン兵に父を殺されものだ。その心境は複雑であろうと心配しての反応だった。


それを察したモルツゥイは苦笑いすると穏やかな声で答えた。


「気にしないでくれ。貴君の職務は理解している。そのような些事で気に止む程、私は狭心ではない。

 堂々として欲しい。」


「はっ、御気遣い、感謝いたします。」

 

「うんうん。話を戻そう……貴君を呼んだのはニホンについて貴君が知ってる範囲で構わないから、教えて欲しい。」


「勿論でございますモルツゥイ様。この帝都騎士隊 ウィリミアス。いまはニホンの支配下ですが、忠誠心はいまも皇帝陛下にあります。」


「貴君の想い、感謝する。

 それで最初の質問だが……ニホン兵はどの程度の兵力が帝国にいるか分かるか?おおまかで良いから知りたい。」


軍事面で最も重要な情報を聞くモルツゥイ。それにウィリミアス隊長は躊躇なく答えた。


「正確な数は不明でありますが、ニホン人と世間話で得た内容から纏めますと……ニホン軍は戦闘団なる組織単位で軍を別けている様子。

 その戦闘団が各目的に応じて帝国に配置されている様です。」


「具体的な数は推定可能か?」


「そこは彼等も明言は割けていましたが……恐らく数万……多くても10万は越えないかと。実質的な戦闘部隊となれば6.7万程度と見積もっています。」


「6.7万……たったその程度の兵で討伐軍を撃滅したと言うのか!」


モルツゥイの背後で待機していた騎士の1人がそう驚く。他の大陸諸国ならば皇帝直属の帝国軍を相手にした場合、最低でも数十万単位での戦力を用意しないと帝国には勝てないというのが大陸での通説であった。


モルツゥイ自身も父や家庭教師からそれに似た教えを受けてきた身から、ウィリミアス隊長の回答に驚く。


「これは確かか?」


「帝都で見かけたニホン軍の数と、私の方でも地方の情報を集めた上での回答です。

 前後はするでしょうが……10万は越えないと確信しています。」


「大陸史上最大の帝国がその程度の軍相手にここまで追い詰められたというのか……」


別の騎士が呟く。他の者達はそれを聞いて言葉を無くした。それだけ彼等にとって大きな衝撃を与えていた。


「ニホン軍の目的は何だ?なぜ彼等は突如としてこの帝国を侵攻した?」


「それは……何とも言えません。どうも占領した領土を欲している訳でもなく、帝都統治も殆ど、元からいた役人任せの様です。皇甥殿下やその他の大臣職の権限が削られている噂も聞きません。

 その辺の事情については私程度では全く判別つきませぬ……」


「う、うむ。すまない。」


一介の騎士隊長ではその辺の話は回ってこない。当然の回答を前に申し訳なさを感じつつもモルツゥイは次の質問を投げた。


「では次に……ニホン軍内部でのダークエルフの立ち位置はどうなんだ?

 ニホン人の中にもダークエルフの特別待遇に対して不満を抱いている者はいるだろ?」


この世界の人間であれば当然の感覚。その質問を投げられたウィリミアス隊長はこの日、一番の困惑した表情をした。


「それが……その点についてはニホン兵の中で不満を持ってるという人物は見つかりませんでした。噂であったとしても出世の速さくらいで、種族に対しての不満は皆無です。」


「な!……1人もか!」


「はい。彼等はその点は全く気にした様子はありません。故にダークエルフとニホン人との関係は非常に良好で、互いの立ち位置で揉めたというのも聞きません。」


「信じられんな……この世の者共とは思えん感覚だ。」


モルツゥイが直感で感じた呟き。それを聞いたウィリミアス隊長は何かを決心したように口を開いた。


「モルツゥイ様……ここからは聞くに絶えない妄言かと思われます。しかし何としてもお耳にいれたい情報があります。」


「なに?聞こう。少しでもニホンに関する情報は欲しい。喜んで聞くぞ。」


モルツゥイは冷静な態度で言った。


「ありがとうございます。それでは端的に申し上げますが……」


姿勢を正したウィリミアス隊長は一呼吸を置いて答える。


「ニホンはひょっとしたら、この世の者では無い可能性がございます。」


「……は?」


全員が呆気にとられたように黙った。予想の斜め上過ぎる言葉に思考が停止した。無理もないとウィリミアス隊長は呟き、すぐにその理由を補足した。このままでは自分が狂人と扱われて追い出されると危惧した。


「誤解の無きように。私は至ってマトモです。これには理由があります。

 彼等の何気ない世間話から違和感が幾つも湧き出たのです。」


「それは一体何だ?」


疑いの目は向けてるが一応は聞く姿勢を崩さなかったモルツゥイを前にウィリミアス隊長は感謝を感じた。


「はい。まず最初にですが、彼等は時折、『異世界』という単語をよく仲間同士の会話で出しています。そして、我々のような騎士が通り過ぎると慌てた様子で口を閉ざすのです。」


「ふむ……確かにそれは変だな。」


モルツゥイと騎士達は一斉に聞く姿勢に変わる。


「他にもあります。彼等の使ってる文字や道具等、それらのルーツにあたる物全てが余りにも私達と乖離しているのです。

 例え別大陸だとしても、納得いかない程に彼等の文化は異質過ぎるのです。」


「それは……確かに私達も帝都に来てから感じてた事だ。」


「そして、確信的なものが1つ。

………ある時、彼等を探ろうと会話を隠れて盗み聞きした事があります。

 そこで彼等は不可解な事を言っていました。」


「そ、それは……」 


「『この異世界に来てからファンタジー作品との区別がつかなくなってきたぜ』……最後の言葉はよく分かりませんが、確実に彼等はそのように話していました。間違いありません。」


「っ!!……で、では、まさかニホン人は……」 


「何らかの方法を使って別の世界からやってきた侵略者……その可能性があります。

 余りにも荒唐無稽な内容ですが、それに近い真実が隠れている可能性も……」


「なんともおぞましい!仮にそれが事実ならば奴等は侵略のために世界を跨いだ略奪者!

 モルツゥイ様!奴等を野晒しには出来ませんぞ!」


騎士が怒りを露に言う。その後すぐに別の騎士が宥める。他の騎士達はまだ半信半疑の様子だ。


モルツゥイ自身も余りにも空想過ぎる内容に理解が追い付いていなかったが、ウィリミアス隊長の顔を見て、彼が虚言を言っていないと信じた。


「連中の事はまだ分からない点ばかりですが、今後もより一層の調査をするつもりです。

 私以外にも志を共にする同士がいます。彼等も必ずやモルツゥイ様のお力に成るかと……」


「……貴君の言葉、感謝する。時に追加で質問だが、ニホンは様々な場所で工事をしている所を見る。それについて何か知ってる事はあるか?」


モルツゥイの質問。これは先程の探りではなく、純粋に彼が興味を惹いたものだ。


日中、護衛の騎士と共に一般の旅行者に変装して帝都を散策していると多くの区域でニホン人が見慣れない鉄馬車を使い、これまた見慣れない方法での工事をしているのを頻繁に目撃していた。


その工事場所の度に周囲は多くの見物人で溢れるため、モルツゥイ達はゆっくりと見ることは出来なかった。


興味津々な様子で聞いたモルツゥイ。それを察したウィリミアス隊長は重い空気を変える機会だと考えてくれたか、若き貴族の質問に答えてくれた。


「あぁ、あれらですか。私自身も個人的に興味深かったので、彼等から確認した事があります。どの区域の工事現場でしょうか?

 ある程度ならお答えできる筈です。」


どうやらウィリミアス隊長はモルツゥイと似た感覚を持っているらしい。彼は嬉しい気持ちを抱いて気になった箇所を応えた。


「おぉ、それは頼もしい。では……この先の通りにある大きな空き地で工事をしてる場所について聞きたい。」


モルツゥイは現在宿泊している宿に面した通りの空き地で行われている工事について聞いた。その場所について、ウィリミアス隊長は把握している様だ。すぐに答えてくれた。


「ミリード通りの空き地ですね?

 そこは確か、ニホンの建設資材を保管するための大型倉庫になるようです。」 


「なるほど……では、今後益々、ニホンの工事は拡大するのか?」


「ニホン兵から聞いた話ではその様です。彼等は帝都近郊の平原にも何やら大規模な工事を計画してる見たいです。

 ただ、今は中止になっている様ですが……他にも挙げるなら、上下水道設備も造るようです。」


「水道設備?……何故だ?既に帝都には充分に備わってるではないか。」


帝都の上下水道設備は他都市と比べても優れている。


下水道は地下に掘ってあるが、上水道は付近の川から引っ張った川の水が多くを占めている。しかし帝都は魔道師が集まる都市だ。

 

帝都の至る所で水を貯める大きなタンクが設置されている。そのタンクの水は水魔法を使う事が出来る魔道師によって貯められるのだ。


国が冒険者組合や魔道師組合に依頼をすると、主に新人の魔道師が小銭稼ぎのために行っている。その魔法で産み出された水は付近の市民が生活用水として使用出来るのだ。


正に魔法使いが多く在籍する帝都でしか出来ない手法にモルツゥイは心底驚いたものだ。


何故、水道設備の恵まれた帝都でニホンはわざわざ?そんな疑問が脳裏を過る一同にウィリミアス隊長は又もや答えてくれた。


「ニホンは帝都の人口は今よりもずっと増える計画を立てているようです。

 その為、より大規模な設備を拡大してより澄んだ飲料水を作るのだとか。」


「うーん。帝都に今よりも人口が増える?」


モルツゥイは怪奇気味に首を傾げた。既に大陸随一の規模を誇る帝都で今よりも人がにぎわう光景がイメージ出来なかったのである。


もし仮に日本の都市を見ればすぐにイメージ出来るだろうが、残念ながら彼が見た最大の都市がこの帝都なので、それは叶わない。


他の騎士達も同じ感覚を抱いたか、皆一様に胡散臭げな表情をした。当の発言者であるウィリミアス隊長ですら、それは同じ考えのようで彼等の反応を見て苦笑いをしていた。


ニホン人の考えは分からない。無意識にウィリミアス隊長は呟いくのを前にモルツゥイは続けて質問を投げる。


「ニホン人は他にも大規模な工事計画を立てているのか?」


モルツゥイの何気ない質問であったが、その質問にウィリミアス隊長は何か重大なものを思い出したか、顔をハッとさせたと思えばすぐに神妙な表情で教えてくれた。


「今すぐの計画ではありませんが……1つだけ、訳の分からない事を言っていました。」


「そ、それはどんな?」


ウィリミアス隊長の意味深な前置きにモルツゥイは前のめりになる。他の騎士達も一言一句聞き逃すまいと神経を研ぎ澄ました。


「我々騎士隊が満場一致で反対しているのですが……ニホン人はどうも、将来的にこの帝都を囲む城壁を完全に撤去する腹積もりのようなんです。」


「なに!?」


身構える一同の前で言い放ったウィリミアス隊長の言葉に、彼等は心底同意できないといった反応を見せる。


「ニホン人は正気か……」

「馬鹿な事を言うものだ。それでどうやって都市を守るというのだ!」

「いや、我々からすればそれは寧ろ好機では?皇帝陛下の軍勢が帝都帰還時には攻略しやすくなる。」

「だがそれはニホンからも見ても同じことよ……まさかそれが目的か?帝都奪還を夢見る我等の狙いを見透かして……」

「いや待て待て……それは幾らなんでも労力に対して益が合わな過ぎるだろ?」

「ならば何故、自ら壁を破壊するというのだ?」

「むぅ……ニホン人共の考える事は分からん!」


専業軍人たる騎士達は皆、違う言い回しを使ってるが、全員が城壁撤去に反対しているのは戦闘に素人であるモルツゥイにも分かった。


いや、誰でも分かる話だ。都市に壁は必要不可欠の存在だというぐらい。異民族・魔獣やゴブリン、オーガ等の異形種族による襲撃対策には壁が一番なのだ。


壁の利点は防衛の観点だけではない。無法者の入都を防ぐ治安の観点においても、その利点は大きい。


壁があるかどうかで大都市と呼べるか議論の的になることもある程に重要な要素だ。商人達では同規模の都市が目の前に2つあった場合、立派な城壁の方を見て行き先を決める場合もある程だ。


しかしニホン人は自らの手で取り除くなど、理解に苦しむ所業と謂えよう。流石にダークエルフ程とは言えないが……


「なぜニホン人はそのような計画を?」


当然の質問を行うモルツゥイを前にウィリミアス隊長もどう説明しようか、少し悩みながらゆっくりと口を開いた。


「私も完全には理解していませんが……ニホン人の国だとほぼ全ての都市に壁はないようでして、その理由は様々ですが……都市の成長を妨げる要因になってると考えているようです。」


「なに?それは逆では無いか……壁があるから都市は成長するのであろう?」


上記にも述べた通りに壁があるから、敵からの襲撃を防ぐことが出来るため、その都市を中心に安心して人と物が集まる。そうやって人類の活動領域は拡大していった。モルツゥイは幼少の頃から領地の家庭教師に教わった内容をいう。


それはウィリミアス隊長も同意の様子だ。


「私も同じ考えです……しかし、ニホン人は違う考え方を持っているようですね……何とも理解に苦しむ話です。」


「うーん……それで、ニホン人は壁を撤去した後はどうするつもりなのだ?」


「あぁそうですね。ここからが彼等の本題なのですが……何やらテツドウなる物を建設するのに壁が邪魔だと言うのです。」


「テツドウ?……これはどんなものなのだ?建設というには建物なのは分かるが……」


聞き慣れないという初めて聞いた単語に疑問を抱くモルツゥイにウィリミアス隊長はニホン兵から聞いた内容をそのまま答えた。


「非常に長い鉄馬車を使った荷馬車専用の道路……との事です。

 何でも従来の鉄馬車よりも遥かに効率の良い物資輸送方法なのだとか。」


「なるほど!つまりニホンは物流の流れを良くするために壁を取り壊すのか。」 


モルツゥイはここで初めてニホン側の考えに一端とは謂え、理解出来る範囲にまで到達できたことに喜びを覚えるが、すぐに別の疑問が沸き上がる。


「……しかし、物流が重要なのは何度も教わったが、壁を取り壊す程なのだろうか?」


家庭教師と今まで読んでいた領地経営の本とは異なる方法に、彼は再び行き詰まった。


「私も全く同じ質問をニホン兵にしました。すると彼等は『そちらが思っている以上の輸送能力なんだ』……そう返してきました。」


「ふーむ……こればっかりは実際に見てみないと事には、真意には近づけそうにないな。」


「ははは……我々騎士隊や建設組合を代表とした他組合組織が全面的に反対を表明しているので、訪れないかも知れませんよ?」


当然の言葉にモルツゥイは納得する。如何なるニホンでも彼等の意見を無下にするのは不味いと考える筈だ。


さて、続いての質問はどうするべきかとモルツゥイは悩んでいた時、ウィリミアス隊長を連れてきた騎士が声をかける。


「ウィリミアス。そろそろ戻らないと不味いんじゃないか?ニホン兵に怪しまれるぞ?」


同郷騎士の言葉にウィリミアス隊長は耳を澄ませる。すると微かにだが、建物の外から鐘の音が鳴っているのが聞こえる。


現在の時刻を知らせる鐘の音。それが騎士隊の仕事に戻るべき合図だとモルツゥイは察した。


「ん?……あぁ、もうそんな時間か。モルツゥイ様。申し訳ございませんがそろそろ……」


「いや、構わない。私の方こそ忙しい中、失礼した。貴君の情報、非常に役に立ったぞ。  

 貴君で良いのならば、またこうして話を聞きたい。今度は貴君の個人的な話でもして親交を深めてみたいな。」


モルツゥイの純粋な言葉にウィリミアス隊長は心底から感謝と尊敬が沸き上がるのを感じる。


彼は帝国騎士として最大限の敬意を籠めて、最敬礼をすると恭しく応えた。


「勿体なき御言葉……無論。貴方様のご要望であればいつ何処でも馳せ参じましょうぞ。」


「感謝する。また会おう。」


「はっ。必ずや……」


その後、ウィリミアス隊長は外套を着込んで部屋から出ていった。


部屋の中ではモルツゥイ達だけとなると、若き貴族 モルツゥイは深いため息を吐いて、先ほどの情報を整理していく。


(数万のニホン兵……帝都各地で行っている大規模工事にそして……テツドウなる謎の建物……知れば知る程に謎は深まるな。)


ニホンの全容が知れると淡い期待をしたモルツゥイの前に立ちはだかる黒い影が、彼の思考を深く追い落とした。

 

しかし1つの決心がついたようで、モルツゥイは背後で待機する騎士達へ振り返った。


自分達の主であるモルツゥイと視線が合わさった騎士達は神妙に命令を待った。その姿は正しく主人に従う模範的な騎士の姿がそこにあった。


「他の同胞組織……なるべくなら強力な力を持った仲間達とも接触したい。皆は明日よりその情報収集に勤しんでくれ。」


「承知しましたモルツゥイ様……しかし、それならば先程のウィリミアス卿に依頼すれば宜しかったのでは?」


帝都の騎士隊長なら、その辺の事情に詳しい筈だと騎士は言う。しかしモルツゥイは首を横に振った。


「いや。それは彼1人に大きな危険を背負わせてしまう。これは私達の手で行うべきだ。

 ……幸いにもニホン兵は街中で誰彼構わず強引な捜査をする様子は無い。

 ひっそりと静かに行えば、それ程の危険は無いと思っている。」


その考えは少し楽観的だ。騎士達はそう考えたが、あの臆病であった若主の出した勇気に感動した騎士達は口にせず、静かに頭を下げた。


自分達の主が憎きニホンと戦う決意を見せたのだ。ならば自身はただその命令に従うだけ。自分達は主のために命を捧げる騎士なのだから。


そんな騎士達のお辞儀に満足したモルツゥイは言う。


「うむ。明日からまた忙しいなる。今日はゆっくりと休んで明日に備えよう。」


その半刻後、モルツゥイ達が寝泊まりする宿場の部屋の灯りが消える。


「…………本部に報告だ。帝都騎士が不振な宿場に入っていたと。

 まだ確証は取れんが密談の類いかも知れんぞ。」

「了解しました。ベント三等陸尉。」


宿場のある建物の灯りが消えるのを1区画分離れた場所の影で見ていた男は背後に立つ仲間に言う。


建物の影に隠れていたのは、暗闇こそが彼等の本領を発揮できる種族 ダークエルフ達の姿が見えた。


「いずれ尻尾を掴んでやるぞ。姑息な帝国人共め……」


方面隊所属の特捜班で暗躍するダークエルフは強い意思で呟くと再び影へと溶け込んでいった。


        帝国 中央部

皇宮貴族領 帝国西部との境界線にある農村


国粋派の支配する西部地方と隣接する場所に、ニホン派貴族が統治している村がある。


100人程度の平均的な農村だが、この村を統治しているニホン派貴族からすれば、重要な税収入源であり、決して管理をお揃かにする理由には成らない。


そんな農村から領主に向けてある要請が舞い込んできた。


どうやら付近に盗賊の根城が出来たようで、度々その村に盗賊の斥候らしき不振な人影を目にしたという。


本来ならば冒険者組合に討伐依頼をする案件なのだが、残念ながらその村の付近には、冒険者組合支部がある程の大きな都市は無かった。


その為もあり村は盗賊に対する対応を領主へと要請したのだ。


領主からすれば安定的に税を納める貴重な収入源だ。断る理由も無いため速やかに私兵の討伐隊を向かわせた。


騎馬に乗った私兵騎士5名と40名の私兵による討伐隊は、領城から出立してから2日後に目的の村へと到着した。彼等はそこで行軍の疲れを癒してから後日、村人の案内で盗賊を討伐する流れであった。


しかしながら、農村を守るために来た彼等討伐隊を出迎えたのは村人達だけでは無かった。


村の中央広場で村長の挨拶を待っていた彼等討伐隊は、突如として村の家々から涌き出てきた盗賊に囲まれてしまう。その数は自分達の倍はいるだろうものだった。


いや、討伐隊の面々は自分達を包囲する敵の装備と数をみて、盗賊では無いと確信する。


「……こいつ等、皇帝派の軍隊だ!」


粗悪な革装備や錆びた鉄剣ではなく、高価な金属鎧とその下には鎖帷子も着込み、明らかに整備された鋼鉄製の剣と、予備の剣まで腰に差した豊富な装備を前に、ニホン派貴族の私兵騎士はそう叫ぶ。


「クソッ!村人もグルか!」


してやられたと別の私兵騎士が憎々しげに村人を睨んだ。


村人達は自分達を取り囲む敵兵の後ろ側に立っており、その顔は明らかに自分達への敵意に満ちていた。脅されていた訳ではないのは間違いない。


「アイツ等です!戦乱に託つけて私達に更なる重税を課してきました!」


「下劣な村人共め!」


敵兵の指揮官と思われる男の隣に立つ村長は自分達に指を指して言う姿に騎士は吐き捨てる。


村長はそれに構わず言葉を続けた。


「邪悪なダークエルフと手を組むニホン人に膝を屈した貴族なんて、私達の領主様ではありません!

 騎士様!どうか私達をお助け下さい!」


「……ふん。見たか?騎士の風上にも置けない反逆者共よ。

 これが世の反応である。貴様等はとっくに世界を敵に回したのだ。」


村長の話を聞いていた指揮官は勝ち誇ったような笑みを浮かべて言うと、彼等を取り囲む兵士達に命令を出した。


「我等シャルトル騎士団!不遜なるニホンとダークエルフ共に膝を屈した反逆者共に天誅を下す者なり!

 者共、慈悲は要らぬ!皆殺しにせよ!」


「うおぉぉ!」

「皇帝陛下万歳!」

「ニホンとダークエルフ共に死を!」


その指揮官の命令と共に、包囲していた兵士達は雄叫びを上げると一斉に走り出した。目標は正面のニホン派貴族の兵士達だ。


ニホン派貴族兵士を取り囲むシャルトル騎士団、その数は約100名。その内40名が騎士であり、他の一般兵士達もニホン派兵士より恵まれた装備をしていた。


「あぁ……そんな」 

「畜生!こんな辺鄙な村で死ぬだなんて……」


倍以上の敵戦力。ニホン派の討伐隊の面々は己の最期を悟り怖じ気づく。


討伐隊の指揮官である私兵騎士も泣きたい気持ちだが、騎士としてのプライドで堪えると、戦意喪失した彼等に向けて声を上げる。


「者共、震えるな!敵包囲を突破するぞ!生き残りたければ剣と槍を持て!

 ここに死ぬるにはまだ速いぞ!」


ニホン派の指揮官はそう叫ぶと自身の剣を掲げて突進した。その背後に他の私兵騎士が続き、最後は一般私兵も続いた。





「ぐはっ!……」


最後の1人である私兵騎士が敵指揮官の上から振り下ろした剣で切り裂かれて倒れた。


「ふん!他愛もない。」


指揮官はそう言うと血で汚れた剣を懐の羊皮紙で拭いて鞘へと仕舞う。他の面々は既に片付け作業に勤しんでいた。


100対45の戦い。それはその場にいた誰もが思っていた以上に呆気なく勝敗が付いた。


大半が少しの軍事訓練を受けた程度の一般兵士ばかりのニホン派討伐隊に対して、敵側であるシャルトル騎士団の全員が厳しい訓練を何年も受けた正規軍揃いなのだ。当然、その戦力差は数以上に遠く離れていた。


ニホン派討伐隊が壊滅に対し、シャルトル騎士団の損害は負傷者8名だけなのがその力の差を物語る何よりの証拠であろう。


「隊長。捕虜共の話によりますと、異常発生時はニホン軍の小部隊が速やかに対処するようです。

 既に幾つかの同胞騎士達がそれによって討たれたとか……」


数少ないニホン派兵士から拷問して聞き出した情報を指揮官へ報告する騎士。


その彼等の背後には跪かされながら村人達からの暴行を受け続けるニホン派兵士達の姿があった。


報告を聞いた指揮官は指示を出す。


「よし。生き残りは全て処理せよ……いや、村人達に引き渡すのだ。彼等にも鬱憤を晴らさせるべきであろうな。」


「おぉ……平民である村人共にも分け隔てなく接するその御心、正しくシャルトル騎士団の隊長に相応しき心意気であります!ランドボール卿!」


感激の余り隊長の名を呼ぶ騎士の言葉に、隊長ヘルベネット・ルイブ・ランドボールは満足そうな表情を浮かべた。


「ふふん。この村を見るに、他の村や町でも同じ想いを抱いているのは間違いない。

 彼等の反感を利用するのが勝利の秘訣よ!」


「その深き知謀……流石はかの名門騎士家 ブレスターニュ公の一族ですなぁ!」


騎士から次々と出てくる感嘆言葉に、ランドボール卿はますます機嫌を良くした。


「ふほほほほ!ニホン人も実に愚かなものよ!穢らわしいダークエルフ共と手を組むから、簡単に負けるのだ!」


まだニホン軍と直接戦った訳でも無いのに、勝利した気分で高笑いをする男。


そんなランドボール卿が所属するシャルトル騎士団とは、帝国西部地方の大貴族 ウェールベルク侯爵配下の騎士団であった。


貴族騎士から成る正騎士と専属の兵士として訓練を受けた兵士で編成されたこのシャルトル騎士団はウェールベルク侯爵が誇る私設の軍事組織として有名だ。


そんな騎士団が遂にウェールベルク侯爵の意思でニホン派と国粋派との境界線で本格的な活動に入ろうとしていた。


ウェールベルク侯爵は意欲的にこの活動を指導していた。


まずは境界線付近に点在する村々に向けて、ダークエルフに関連した噂を触れ渡させる。


ダークエルフに関わった者、もしくはその関係者は神からの怒りを買うためおぞましい呪いや病にかかってしまう……そんな噂を流させる。


すると各地の村で聞いた人々は瞬く間にニホン派貴族に対して疑心暗鬼となる。これまで戦とは貴族のお偉方だけの行事だと考えていた彼等はその呪いが自分達にも振り掛かると知れば、簡単に混乱する。


そこへ配下であるシャルトル騎士団が助太刀に入る形でニホン派貴族の軍隊と戦って破る。そうすればその村の人々は大いに感謝して配下に加わる流れであった。


このウェールベルク侯爵の計画は既に各地で始まっており、この村と同じく成功を納めていた。


ランドボール卿は心の中で自身の主であるウェールベルク侯爵へ大きな感謝を捧げた。


(おぉ我が主君よ。貴方様こそ、あの不遜なる異人共を滅する神の騎士なり!

 このランドボール。どこまでもついていきますぞ!)


ランドボールはそう侯爵に誓うと、配下の騎士団を引き連れて別の村へと向かった。


そしてウェールベルク侯爵を筆頭とした国粋派は別の方向でも動いていた。





         帝国 中央部

 南部地方と中央部との境界線にある検問所


西部に始まって次は南部にある街道上に設置された検問所。


その検問所はそこを統治するニホン派貴族が私兵を配置させて作った簡易な検問所である。


彼等の役目は、国粋派と思われる者の捕縛と通行税の徴収であった。


目的は二つあるが、実際は通行税のみが目的であり、捕縛は名目に過ぎなかった。


どうやらここの統治者であるニホン派貴族は戦乱に託つけて新たな収入源確保に勤しんでいる様子だ。


その為に検問所での検査は正式な検問所とは呼べない程の荒々しさであった。


都市に課せられるような入都税よりも高額な通行税。払えなければ国粋派の間者として捕縛され、身ぐるみを剥がされるか親戚等が身元保証金を支払うまで投獄されるかのどちらかという極めて横暴なものである。


西部の村で国粋派の騎士団が活躍している最中、南部のここでは今日もニホン派貴族私兵が領内を通過しようとする商人や旅人相手に強引な検査を実施していた。


丸太の壁で街道を封鎖した簡易な砦で検問を行う私兵は列の先頭を並ぶ旅人の腕を引っ張っる。


「何だこの手は!まさしく剣ダコ……貴様、剣を扱うな?間者かも知れんな。連れていけ!」


旅人の手を見た私兵は根拠のない持論を持ち出して捕縛をしようとする。それに旅人は必死に弁明をした。


「そ、そんな!確かに剣は扱いますが、それはあくまでも護身用です!間者だなんて誤解です!」


「黙れ!話は奥で聞く!連れていけ!」  

「お慈悲を!どうか、お助けください!」


砦内から出てきた別の私兵達に引き渡された旅人は抵抗も虚しく、奥へと連れていかれる。


それを列で見ていた他の人々は怯えた様子で順番を待つ。あの旅人がそうなったのは高額な通行税を支払うのに少しだけ抗ったからなのだ。


「つぎ!ここを無事に通りたくば大人しく銅貨10枚を払う準備をしておけ!」 


検問所で怒鳴る私兵の言葉を聞いた面々は慌てて懐から硬貨を出す準備をする。


それを見た私兵達は満足そうに笑みを溢す。実際に課せられている通行税は銅貨7枚だが、残りの3枚はここの私兵達で折半していたからその笑みは深い。


「へへへ……楽な商売だぜ。」


次々と受け取る銅貨から数枚を懐に納めていく私兵達。まだまだ列が途絶える様子のない街道を見て、彼はさらに笑う。


今日もたんまり稼げる。そう頭の中であくどく考えていた私兵だったが、その頭に1本の矢が突き刺さる。


「なっなな!?」

「敵襲!?一体だれだ!?」


検問をしていた私兵達は慌てふためく。腰に下げていた剣を鞘から抜いて周囲を見回す。列に並んでいた人々は全速力で現場から離れていく。


不幸にも街道の両脇は林で覆われており、襲撃者が隠れるには格好の場所であった。


だが私兵の背後に構える砦側もそれは理解しており、丸太で造られた2つの塔に弓兵を配置していた。


その塔に配置した弓兵から怒号が飛び交う。


「左手の林から襲撃!」


矢をつがえていた弓兵はそう怒鳴る。彼の視線の先には左側の林、そこの木々をすり抜けるようにして突進してくる襲撃者の群れである。


数にして50名ほど。それに対する検問所側は騎士なしの一般兵士による私兵 20名という数だった。


しかも敵側は野盗や山賊といった粗悪な装備を纏った者ではなく、明らかな正規軍の装備をしていた。


「ち、ちくしょう!アイツ等、きっと皇帝の軍隊だ!」

「皇帝の!?」

「は、速くニホン兵に知らせないと……」


弓兵の叫びに地上にいた私兵達は怖じ気づく。こっちは私兵騎士すらいないのだ。数の上でも負けていては戦って生き残れる確証はない。


西部の農村と同じく、この検問所でも勝敗はあっという間についた。


しかし今回は生き残りの私兵と列に並んでいた人々が近隣の村や町で検問所の襲撃について情報が漏れる。


検問所襲撃から3時間後、その知らせは私兵からそこのニホン派貴族経由で管轄の方面隊 戦闘団へ入る。


         第8戦闘団

       普通科中隊本部


管轄地域での国粋派からと思われる検問所襲撃。その報を受け取った中隊 指揮官一同は現地の地図を確認する。


「報告を受けた場所は、ここから12km南下した先にある検問所との事です。」


この中隊本部が設置されたニホン派貴族の領都からそう遠くない場所だが、指揮官は先に抱いた疑問を口にする。


「そんな所に検問所なんてあったか?」


中隊幹部が答える。


「ここの貴族が勝手に設置した様です。帝都に確認したところ、向こうもそのような許可は出していないと……」


幹部の答えに指揮官は、貴族の設置理由を察した。不当な通行税徴収は他の部隊からも聞いていたのだ。


「……領地内はその貴族の自由とは言え、好き勝手にやりやがって……」


指揮官は苛立ちを隠さぬ様子で頭を掻いた。


「すぐに出動可能な部隊は?」


「現場周辺を巡回中の第2小隊がいます。」


指揮官の問いに幹部は即答する。それに満足すると指揮官は速やかに部隊を現場に向かわせるよう指示を出した。


「第2小隊を現場へ向かわせろ。とっくに敵なんぞ消えているだろうがな。」




1時間後、現場に到着した第2小隊は完全に破壊された検問所を確認する。


「敵影なし……やっぱり既に撤収した後だな。」 


検問所で倒れた私兵の死体を跨ぐように現場を確認する普通科隊員達。彼等の背後には上部に機関銃を搭載した軽装甲機動車が周囲をくまなく警戒していた。


30名の普通科小隊はその後、40分かけて現場を確認し終えると中隊本部に報告をする。


「P.02より本部、現場をくまなく捜索したが付近に敵影の姿はなし。これより撤収する。」


『本部より、敵影なし了解。だが今から現場周辺に捜索ヘリを投入する。発見次第に現場へ急行できるように待機せよ。』 


「……了解。この場で待機する。」


仕方がない。そう小隊長は小さく呟くと部下に待機命令を出した。




一方の中隊本部は、地上での捜索は困難と早々に見切りを付け、戦闘団本部に捜索ヘリの要請をしていた。


帝都の戦闘団本部もこの襲撃事件を大事と捉え、速やかに捜索ヘリの投入を許可した。


「……偵察ヘリだ?戦闘機も動かせないんだ。武装の乏しいヘリ1機よりも戦闘ヘリを使った方が安全だろうが。」


自衛隊用滑走路のない帝国領土内の制空権事情を把握している中隊指揮官は無線機で戦闘団本部の幹部と、投入許可の出たヘリ機種に苦言を出した。


『そう言われても、こっちだって余裕は無いんだ。燃費の激しいアパッチやコブラよりもそっちの方が使い勝手は良いだろ?』


「ちょっと待てよ。あれだと飛竜が来た時にどうしろってんだ?

 『タマゴ』単体じゃあ、あの相手なんて土台無理な話だろうが!」


『現場周辺の確認は充分だ。付近の飛竜活動範囲内に飛竜基地はない。』


「そんなのいつの情報だ!?

 この数ヵ月間で新たに造ってる可能性は考えたのかよ!」


指揮官と幹部の言い争いは続く。ここで彼等の言う偵察ヘリとは本来なら数年前に退役したはずの機体『UH-6D』という小型の観測ヘリコプターである。


因みに指揮官の発言した『タマゴ』とは上記機体の愛称である。


その丸みの帯びた形状の機体から『タマゴ』または『空飛ぶ卵』で親しまれていた。


この『UH-6D 』はニグルンド方面隊のみに配備されており、その小型故の燃費の良さ、土の上でも離着陸可能な点から、最近の偵察任務で活用されつつあった。


しかし難点として、その小型さから搭載可能な武装に限りがあり、現地の敵航空戦力への対抗策がほぼ無かった。

(というより無い。搭載とは言っても搭乗員による個人携帯の火器しか持てないからだ。)


そんな機体を最前線とも呼べる南部境界線に向かわせるのは危険が大きいと言わざるを得ない。


しかし戦闘団本部の回答は変わらなかった。渋々ながら中隊指揮官は従うことにする。


「だぁ、くそ!撃墜されたらどうするつもりだ馬鹿野郎共……」


中隊指揮官は己の勘が当たらないことを祈った。



自衛隊が検問所襲撃を認知してから5時間が経過した頃、現場上空を1機の偵察ヘリ『UH-6D』が半径50km圏内を上空から捜索していた。


搭乗員は2人。1人は操縦士であり、もう片方は隣の座席で機体下部に取り付けたカメラで地上を見ていた。


「エッグ01より本部へ、該当地域の上空へ到着した。これより捜索を開始する。」


『本部よりエッグ01へ、貴族からの連絡では正規軍の武装をした50~100の集団とされている。発見次第に付近の地上部隊へ連絡せよ。』


「エッグ01より本部へ、情報感謝する。」


戦闘団本部との交信を終えた操縦士は隣の相棒へ声をかけた。


「どうだ?見つかりそうか?」


「へっ……無理だな、こりゃ。カメラの解像度が酷すぎて使えんよ。」


手元にあるカメラ画面を映したタブレットに視線を落としていた隊員はそう吐き捨てた。


急拵えで取り付けたカメラの性能は2人も予想していたようで、諦めに近い感情が支配していた。


「日が暮れたらもう何も見えないぞ。応援でも呼ばないと今日中なんて無理だ。」


「あぁ糞……ハンザブレックで火災が無ければなぁ……」


ハンザブレック大火災の影響で燃料を筆頭とした物資の補給が大きく遅れていると2人は認識していた。それ故のこの機体配備だとも分かっており、それは当たっていた。


「それに5時間も経過したんだろ?とっくに着替えたか、もう何処かに隠れたろ。普通に考えてさ。」


「俺に言われても知らないよ。100人位の規模ならそんな速く動けないかも知れんし……」


「でもこんなカメラで探せなんて絶対無理だって。あぁ、早く帰りてぇよ……」


相棒はこんな調子で文句を言い続けるが、操縦士はひたすら現場上空を旋回し続ける。




上空から捜索を開始してから30分。当然ながら何も見つからない空虚な時間を空で潰していた頃、操縦士は地上ではなく正面の空から黒い点を見つける。


「?……何だ?」

「どうした?見つけたのか?」


相棒が驚いた顔で聞く。しかし操縦士はその言葉を首を振って否定した。


「違う違う。いま正面に見える先に何か飛んでないか……?」


操縦士が操縦梶から片手を話して指を指した。その先を相棒は目を細めて見る。


雲の少ない青空の中に違和感を感じる黒点のようなもの。2人は最初それが何か分からなかった。


しかしその数秒後、2人はその正体を理解すると同時に顔を青ざめた。


「……糞がっ!あぁ畜生め!どう見ても飛竜じゃねぇか!?」


黒点だったものは今、その形状を鮮明に映しており、明らかに人を乗せた飛竜が2枚の大きな羽で羽ばたいていた。距離は約10km


「ヤバいヤバい!急いで離れろ!」

「分かってる!捕まってろ!」


操縦士は大急ぎで機体を旋回させて基地の方へと全速力で飛ぶ。その横では相棒が無線機で本部に報告する。


「本部!こちらエッグ01!南方向から敵の飛竜を視認!ヤバい!かなり至近距離だ!追い付かれちまう!」


『お、落ち着け!それは確かか?』


「なら自分の目で見ろや!いま俺達のケツを真っ直ぐに飛んできてやがるんだ!!はやく近場のヘリを呼んでくれ!」


現在の武装は相棒の持つ89式自働小銃が1丁のみ。そしてこの機体の速度は最大で時速280kmだが、退役済みだったこの機体にそんな速度を出した場合、恐らくエンジンがその場で壊れる。


故に実質的に出せる最大速度は200~220kmぐらいだろう。しかし飛竜の最大速度は250~280kmとされている。


確実に追い付かれる。しかも飛竜は口から火炎放射のようなブレスを吐くらしい。


「な、何が飛竜はいないだ!本部のアホ共!」


無線機が繋がった状態だが相棒は罵声を出せずにはいられなかった。


本部の通信員も慌てた様子で上官に報告しているのが聞こえる。それを聞いて、本部も想定した事態ではないと悟り、彼等に絶望感が襲いかかった。


「もっと速度を出してくれ!」


懇願するように操縦士へ言う。しかし操縦士の回答は非常だ。


「無理だ!とっくにエンジンの回転数は危険値を上回ってる!これ以上出したらどの道墜落するぞ!」


「ちくしょう……撃つしか無いのか?」


相棒は足元に置いていた89式自働小銃を持ち始める。彼の射撃成績はお世辞にも良いとは言えない。ましてや今回の相手は空を鳥のように軽やかに飛び回れる飛竜だ。


安全装置を解除して座席横の窓を開けた相棒。最悪の場合はこれで一騎討ちすることになる。


この時の互いの距離は既に約2kmに迫っていた。このままだと数分には追い付かれてブレスを受けるだろう。基地まではまだ遠い。


距離が明らかに縮まるにつれて2人の焦りは限界に達する。無線機はいまの状況をしつこい程に確認してくる内容ばかりだ。


やがてその時がやってきた。互いの距離が200mになった時、相棒は窓から銃口を出して飛竜に向けて発砲する。


飛竜の鱗は硬く、20式より口径の大きい89式でも小銃の弾は貫通しない。故に狙うはその上に乗る飛竜騎士だ。


飛竜騎士は全身鎧を装備していようが、流石に銃弾を防ぐほどの防弾性能はない。


一瞬で15発分の銃弾が真後ろの飛竜騎士目掛けて飛来する。だが飛竜は簡単に軌道を変えて回避した。


旋回能力もこの『UH-6D』よりも上だと2人は一連の動きを見て悟った。



軌道を変えた飛竜は再び2人の『UH-6D』の真後ろに付くと今度はお返しと謂わんばかりにブレス攻撃を行った。


「うぉ!?」

「熱ち!!」


火炎ブレスの熱が機体を包み込む。幸いにも直撃はしなかったが、それでも人間が耐えられる温度では無いことに2人は焦る。


「もう一回撃ってくれ!」

「分かってる!」


再び相棒の銃弾が飛竜に向けて発砲する。しかし1回目と同じく回避される。


その反撃で飛竜の口から火炎ブレスが飛ぶ。それをギリギリで回避する。その繰り返しが20分ほど続いた。


しかしその繰り返しに限界を迎えた者がいる。2人の乗る『UH-6D』であった。


「ヤバいヤバい……」


操縦士が握る操縦梶が小刻みに震え始めた。機体そのものも大きく震え始めていた。


数度の高温の火炎ブレスによって機体に何らかの影響が出た様だ。次第に機体の速度も遅くなっていった。


「あぁ不味い……」


速度が遅くなったのを見て、敵も限界なのだろうと飛竜騎士は気付いた。回り込んで彼等2人の前に出た飛竜。その瞬間、2人は死を悟る。


「あ……」


相棒が何か言おうと口を開いたタイミングで飛竜の火炎ブレスが機体を包み込んだ。



この日、方面隊所属の偵察ヘリ『UH-6D』が帝国中央部と南部の境界線から30kmの地点に墜落した。






『偵察ヘリ墜落。』この報告は全ての戦闘団本部と方面隊司令部にも伝わり、最終的には帝城の外部インフラ開発庁 長官のもとへも伝わった。


偵察ヘリ墜落の報から6時間後。大陸時間で深夜を回った時間帯の帝城で戦闘団本部・方面隊司令部と外部インフラ開発庁の幹部職員と長官等による緊急会議が始まった。


「単刀直入に聞く……なぜこの事態が発生した?」


会議が始まった瞬間、永井長官の質問が最初に飛ぶ。それに応えるのは管轄である第8戦闘団の幹部隊員だった。


彼は完全に萎縮した態度で立ち上がって事の顛末を報告した。


・帝国南部との境界線で日本派貴族から襲撃の知らせを受けた。

・地上部隊の捜索では限界があると判断し、偵察ヘリによる捜索を実施。その道中で敵の飛竜騎士と不意の遭遇にあったとされる。

・墜落現場に急行した地上部隊によると死体と墜落した偵察ヘリは確認してものの、死体と機体から一部行方不明の装備品と設備がある。


大まかに3つの要素を聞いた永井長官は続けて質問する。


「状況は分かった。次に、なぜ飛竜騎士相手に自衛隊のヘリコプターが墜落した?

 私の認識では搭載した銃火器で対応可能と耳にしているが?」


次も応えたのは第8戦闘団の幹部隊員である。


「はっ!本件で墜落した偵察ヘリは本土では退役済みだった偵察機能のみである小型のヘリコプターとなります。

 当機体には搭載可能な武装はなく、唯一あるのが搭乗員の小銃のみとなります永井長官。」


それを聞いた永井長官の眉毛がピクリと動いた。そして大きな溜め息を吐いた。その態度に他の幹部隊員達から冷や汗が流れる。


「…………なぜ、そんな機体1機だけを前線に近い空域に向かわせた?」


淡々とした声であるが、その場にいた全員がとてつもない怒りをその声に忍ばせていると確信した。


「は、はい……その……当戦闘団から捻出可能な燃料を鑑みて、て、偵察ヘリ単体での派遣が妥当だと判断しました……」


「馬鹿者!!!

 その判断で人が死んだんだぞ!?戦闘区域での単独行動は厳禁だと、他でもないお前達が決めたことだろうが!!」


永井長官の怒鳴り声が会議室に響く。この迫力に本郷総監を初めとした各戦闘団の団長 幹部達全員が一斉に立ち上がって頭を下げ、代表として本郷総監が言う。


「大変申し訳ございませんでした。方面隊全部隊に再度の方針守備徹底を行います!」


大陸における自衛隊の最高司令官の言葉に永井長官は落ち着きを取り戻して、全員を座らせた。


「それで?装備と設備が行方不明の件は?」


3つ目の要素を聞いた永井長官。これは現場を確認したダークエルフの隊員が応えた。


「はっ。墜落現場を確認した際、搭乗員と見られる2人の遺体は回収しましたが、隊員の必需品である拳銃と自働小銃、隊員手帳と腕時計といった官給品が無くなっておりました。

 遺体自体にも何者かが動かしたような痕を確認しています。

 機体設備についても、搭載していたカメラと無線機等の現場で取り外し可能な付属品が数品無くなっていました。」


頭の痛い報告に永井長官は質問を続ける。


「……周辺に盗賊といった集団の痕跡はあったのか?」


「足跡を現場から50mほど離れた位置で確認し、追跡しましたが途中で川を発見……どうやら盗難者は川の中を歩いたそうで、その後の追跡は困難と判断し、遺体だけ回収して撤収しました。」


不甲斐なさに頭を下げるダークエルフに座るよう永井長官は言うと一同に対して命令を発する。


「今回の件は本土にも全て漏れなく報告する。君達自衛隊は再発防止を徹底させろ。

 戦時中に武装無しの偵察ヘリを前線に単独で飛ばして敵に撃墜されるような話はもう聞きたくないぞ。」


永井長官の命令に自衛隊関係者は一斉に返事をする。


数日後、帝国及び周辺諸国の間でニホン軍の鉄飛竜が撃墜されたという衝撃のニュースが知れ渡った。


永井長官はその速い情報伝達を聞いて、これが敵側の大規模な作戦のひとつであると認識。


本郷総監は方面隊全部隊に警戒体制引き上げを宣言した。


大陸事情は再び予期不可能な状況に陥った。


強化日本も同時進行やってますがやっぱ、海戦って難しいですわ。

文字表現に手こずる……


同じなろう作品で日本転移物の中に頭可笑しいレベルで語彙力の高い作者様いるんですが、あの人みたいに書けれない……ちくしょう

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― 新着の感想 ―
質問です 何故89式自働小銃と書かれていらっしゃるのでしょうか
皇帝派の特定はかなり面倒だな。日本側にもう少し余裕があれば、皇帝が描かれた絵を使った踏み絵作戦で比較的簡単に炙り出せたんでしょうが。
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