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六角氏軍記~戦国乱世を生き抜きたい~  作者: タスマニア


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漫遊2

 1556年 5月 観音寺城


 今回の近江から駿河までの漫遊は、道中の治安の悪さを考慮して、素早く動くために凡そ四十人余りの一隊となった。主な者としては、坪内利定・坂井政尚・青地茂綱・三雲成持最後に父から目付け役で我が亜父である三雲定持である。



 坪内は鉄砲を得意としているので、精度の良いものを与えると同時に弾薬をふんだんに渡す。坂井・青地には美濃国関で作られた持槍を渡す。彼らには前衛として大いにその武を奮ってもらおう。三雲成持には名刀三雲光忠を渡す。私の身辺警護を任せよう。私と三雲定持は弓を携えて旅に出ることとする。遠くから三人で向かってくる敵を打ち倒すつもりだ。



 旅程としては、観音寺城を出て八風道を下り、桑名で一泊する。そこから七里の渡しで船に乗り熱田に向かう。熱田で一泊すると東海道を通り、一気に岡崎まで向かう。これは三河国の北西部・南西部で反今川の反乱が起きており治安が悪化しているからだ。岡崎の辺りは、今川の力が強いので治安はある程度保たれているようだ。



 岡崎からは東海道をそのまま下り、御油で宿を取る。そこから、浜名湖南の今切の渡しではなく、浜名湖北側を通る本坂道を通り、少し脇に逸れて井伊谷に泊まる。なぜ井伊谷に行くのかというと井伊直虎が巷に言われるような女性なのかをこの目で見極めるためだ。



 挿絵(By みてみん)



 さて、少し話はそれるが、通説の井伊直虎において、井伊直盛の娘である次郎法師と同一視されている。天文十三年、直盛の養子となった直親は次郎法師と婚約関係にあった。しかし。直親の父である直満が小野和泉守の讒言によって今川義元に誅殺さる。直親は信濃国に逃れることになった龍潭寺の住持である南渓和尚の弟子となって出家し、南渓和尚から次郎法師の名を与えられた。



 この後直親は弘治元年に帰国して、井伊氏の一族である奥山因幡守朝利の娘と婚姻した。どうやら、直親と次郎法師の婚約は破棄されたようである。



 ここから永禄3年に直盛が戦死すると、直親が家督を継いだが、直親は今川氏真から謀反の疑いを持たれ、永禄5年に殺害い。永禄6年、直盛の祖父である井伊直平が死去。永禄7年、新野左馬助や直親の後見である中野直由が引間城攻めの際に戦死。僅か数年の間に井伊氏の男衆は壊滅状態に陥った。



 ここから次郎法師は母・祐椿尼と直盛の弟で龍潭寺住持である南渓和尚の計らいにより、井伊家の当主となった。そこから永禄11年11月には「直虎」という名乗りを用いて、関口氏経と共に徳政実施を伝える連署状を発給している。



 こののち、直虎の前代である直親の永禄4年に誕生した息子、後の井伊直政の養母となり彼を育て上げ、天正3年に徳川家康に出仕させる。晩年の次郎法師は祐椿尼と共に龍譚寺の松岳院で過ごし、天正10年8月26日に死去したとされる。



 しかし、この通説には多くの異論もあり、次郎法師と井伊直虎は別人であるとの説もある。ここは、戦国時代に再び生を受けたものとしてこの目で真実を確かめてやろうというのだ。個人的にはそれぞれは別人と考えているがこの目で見るまでは分からない。



 井伊谷で真実を確かめた後、市野で再び東海道に合流すると掛川を経由すれば目的地の駿府が見えてくる。片道八日予備日も含めたら十日となる。やはり難所は熱田から岡崎の間であろう。ここの治安がどれだけ悪化しているかが今回の旅程を遂行できるかの肝となる。ここが想定よりも治安が悪ければ引き返すこととなるだろう。



 さて、旅程をまとめたものを今回の旅の主な者に配り説明をし終わると、各々荷造りのために解散することとなった。さて屋敷の奥に引っ込むと何やら照の部屋から楽しそうな会話が聞こえてくるではないか。どうやら声からして相手も女子であるようだが、声が小さく上手く聞き取れない。



 「おい、照。部屋に入…」



 部屋の中には、よく見知った二人の女子がいた。正室であり近衛家の姫である照と愛妾である甲賀望月家の娘千代であった。時期をみて照には千代のことを紹介しようと思っていたがまさかあずかり知らぬうちに二人が接触するとは思わなかった。膝から崩れ落ちそうになったが何とか体制を立て直し部屋の中に入る。



 出入り口の前に座ろうとしたが、上座に案内され逃げ道は二人に塞がれることとなった。



 「あなた様におかれましては常々夫婦の間柄において隠し事はしないと仰られて居りましたが、まさかこのような美しい方とお付き合いされていたとは。このことを打ち明けってもらえなかった照は悲しゅうございます。」



 そういって、袖で顔を覆う。嘘だ。噓泣きに違いないという確信がある。この一か月で彼女が想像以上に強い女傑であることは知っているのだ。とはいえ、此方に落ち度があるので非難することが出来ない。



 「まったくだ。こんな綺麗な嫁を貰っておいていきなり隠し事をするなんてな。」



 千代はわざとらしくそういいながら照の背中をさする。



 「私が悪かった。この通りだ。どうか許してくれまいか。」



 進退窮まった男が取れる手段は古今東西ただ一つ。額を板に擦り付けて許しを請うことだ。部屋には照の背をさする音のみが響いている。



 「千代殿のお顔に免じてお許ししましょう。お二方が私が嫁ぐ前からの中であることを千代から話を聞きました。嫁いだばかりの私に話しにくかった気持ちも分かります。これ以降の隠し事は許しませんよ。」



 「許されないぜ。」



 照は仕方がないという顔をしながら許しを与えてくれた。千代はこの状況を楽しんでいるのか、にまにま笑いながら照の言葉に乗ってきた。しかし、この二人は何時知り合ったのか。藪蛇を避けるためにここは黙っておこう。今回は、お二方の優しさと恐ろしさを身をもって知ることとなったのであった。

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