★変わらぬ弱さ
いきなりロベールと勘違いされた挙げ句、攻撃までされたクロードは、いったん街の中心部へと逃げたが、路地裏を通りながら森へと入っていった。クロードは右腕を左手で押さえている。そこからわずかだが血が流れていた。木箱では魔法の威力を完全に殺すことはできず、少しだけ掠ってしまったのだ。
(……やはり魔力を消耗しすぎたか)
傷を負ってしまった理由を冷静に考えるクロード。ユリアのブレスレットにほぼ全ての魔力を使ってしまった彼は先ほどの攻撃を相殺する力は残っていなかった。広範囲を攻撃できる風の魔法をあんなに近くにいて避けることなど反射神経の良い人でも不可能だ。
そこまで考えて彼は女性に自分の兄、ロベールと勘違いされたことを思い出した。
「あの女は、確か名前はローザ・カッツェ、現王族付き魔法剣士。ロベールも王族付き魔法剣士だった」
兄の最後を思い出して顔をしかめる。あの日の惨劇を忘れた日など一度もない。忘れたくとも忘れられない、いや忘れてはいけないのだ。クロードはあの日の惨劇へと意識を飛ばす。
血だまりの中にたくさんの人が倒れている。どれも見覚えがある。自分の家族や使用人たちだ。その中には敬愛する兄、ロベールの姿も。ロベールは息絶え絶えになりながらも「逃げろ」と必死に訴える。恐怖、怒り、絶望――溢れ出る感情が抑えきれない。
腕に鋭い痛みが奔り、現実世界に引き戻される。いつの間にか強く腕を握りしめていたようだ。風の魔法が掠ってついた傷はすでに血が止まりかけていたが、再び傷口が開いてしまったらしい。クロードはポケットからハンカチを取り出し傷口を縛った。
「あの女が来たってことは……」
そのあとの言葉は続かなかった。続けてしまえば現実になってしまいそうな気がしたのだ。避けられない運命だと分かっていても抗いたいと思ってしまう。淡い希望を捨てきれない自分をクロードは自嘲する。彼はただユリアと生きていたいだけ、大層な願望を抱いているわけではない。それなのに、その願望さえも叶えられそうにないと思うと胸が痛む。
クロードは頭を振りかぶりローザのことを忘れようとする。今はユリアに会うことが大事、それ以外は考える必要はない、そう自分自身に言い聞かせる。
そんなことを考えているうちに屋敷に辿り着いた。森の中に木々に囲まれてひっそりと佇む屋敷。玄関を開けるとそこには全く予想していなかった光景があった。
「ユリア!」
床に座り込むユリアに急いで駆け寄る。
近づいてくるクロードの存在に気づいたユリアは彼に抱きつく。
「怖かった、知らない人に、おそわれて」
嗚咽を凝らしながら何があったのか必死に伝えるユリア。
クロードは激しく後悔した。本当なら自分と一緒に連れて行きたかったが危険だし、屋敷にいれば安全だから一人にしても大丈夫だと思っていたのだ。まさか屋敷の場所が誰かに知られているなんて考えていなかった。自分はなんて浅はかなんだ、とクロードはユリアを抱きしめ返しながら自分を責める。もし自分が一緒にいたら、もしユリアを一緒に連れて行ったら、おそらくユリアを苦しめることはなかった、守ることができた。
(結局オレは、また守れなかったのか)
クロードは唇をかみしめる。彼は自分の浅はかさ、愚かさ、そして弱さを嘆いた。




