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不眠欲  作者: 柚檸檬2号
14/27

「なんで僕の部屋にいるんですか?」「気になるに決まってるじゃないか。」

 俺は山を見ている新垣にいがいさんに聞いてみた。

「大学に『来ている』ってどういう事ですか?」

「ああ、あの時は名前しか言ってなかったよね。私ね、こう見えても大学教授なんだよ。君が来てから家で私の事を見ていないでしょ?その間、大学で仕事をしてたんだよ。そういう時は大学で質問してくるのにしてこない。それって、君が教えていたってことでしょ?」

 俺はああと曖昧な返事をした。

「それにしてもここってホントに何もないよね。兄さんたちのところだって一応都会みたいになっているけど実際全然って感じでしょ?」

「まあ、そうかもしれないですけどあれくらいのほうがいいと思います。最近の機械は便利になりすぎってこともありますから。」

 新垣さんは再び微笑み、尋ねてきた。

「君って相当頭良かったでしょ?一つ質問してもいいかな?」

 二人で散歩をしているうちに不自然に置かれているベンチがあった。新垣さんが座ろうかと言ったので俺はそうですねと答えた。新垣さんは俺の顔を見ながら話した。

「さっき、君は『便利になりすぎている』って言ったけど、人間はどこから便利になりすぎたと思う?」

 その質問をを言い終えると手を頭の後ろで組んで俺の返答を待っていた。

「僕の考えでは産業革命ですかね。『革命』なんて勢いで技術が進化してしまったから人間がついていけなくなってしまったような気がします。」

 その答えは新垣さんを笑顔にさせた。

「君って足立あだち つばさって人知ってる?」

「はい。『影のノーベル学者』って言われた人ですよね。でも、その人がどうかしたんですか?」

「いや、なんか似ていることをその人も言ってたって言う記事があったから実際に会ったのかと思って。つまり、君は『産業革命』から『人間の失敗』が始まったと思ったんだね。」

「新垣さんはどう思うのですか?」

「私はね。まだ起きてないんじゃないかって思うんだ。だって、君ってまだ君だろ?それって君でないといけない理由が少しでもあるってことだろ?本当の『人間の失敗』は『君が君でなくなる』ってことだと自分では思ってる。」

 新垣さんは遠くの山に話しかけるように話していた。

「結局は『人間の失敗』ってものは人間が作りだすってことだから、人間が人間の器械化を促すことはすべきでないっていうのが私の考え。」

 このとき、俺は笹谷さんの言ってることの核心が本当にわかったような気がした。

「まあ、人の考えは尽きないからね。君の意見のほうが正しかったり、どっちも正しくないなんて事はざらにあるから、深くは気にしちゃだめだけどね。」

 新垣さんは微笑みながら言った。

「もう帰らないとあの子も寂しがってるんじゃない?」

 俺があの子?と聞き返すと万里子さんは笑った。

「優奈ちゃんに決まってるじゃん。君もかなり鈍感だね。君となら私も勝てるような気がするよ。」

「僕ってそんなに鈍感ですか?」

「まあ、鈍感に気づけるなら鈍感じゃないよね。」

 そんな会話をして家に帰った。



「ただいまー!」

 新垣さんが大きな声で言うと優奈ちゃんが走ってきた。

「万里子さん、お帰りなさい。翔兄、昨日はごめんなさい!」

 深々と頭を下げる優奈ちゃんの頭に新垣さんは手を置いて、

「優奈ちゃん、佐和田さんは君のことを思って起こさなかったし、ベッドにも連れて行ったんだよ。私だったらいつもたたき起こして自分の部屋に行かせてるでしょ?だから『ごめんなさい』じゃなくて・・・」

「翔兄、ありがとう!」

「よくできました。」

 新垣さんは優奈ちゃんの頭をわしゃわしゃした。優奈ちゃんは少し抵抗をしたが新垣さんは止めなかった。

「ところで私は今日、暇なんだけど君は予定でもあるの?」

 新垣さんは優奈ちゃんの頭をなでるのを止めて俺に聞いてきた。

「特にこれといった予定はありませんけど・・・」

「じゃあ、君はずっと家にいるんだね?」

「まあ、そうなりますね。何か僕に用でもありますか?」

「いや、久しぶりに楽しい会話相手が来たからもっと話してみたいと思っただけずっといるなら気が向いたら私のことに来てよ。周りの教授たちはおじさんおばさんばっかで新鮮さがないからさ、って私が言うのもなんか。」

 と笑いながら言った。

「まあ、気が向いたら行きます。」

「翔兄、今日も聞きたいことが・・・。」

 優奈ちゃんが気まずそうに言った。

「僕のことは気にしなくていいんだよ。朝ごはん食べたらやろう。」

 その言葉を聞くと優奈ちゃんは笑顔になってハグしてきた。

「翔兄、ありがとう。」

「君もすっかりココの家族だね。」

 ニコニコした新垣さんが言った。



「・・・でなんで新垣さんは僕の部屋にいるんですか?」

「なんでって君が優奈ちゃんに勉強を教えているのを見たいからに決まってるじゃないか。」

「そうですか・・・。」

「もしかして二人きりが良かった?」

 新垣さんが口に手をあてて、にやけながら言った。

「ただ、後ろからの視線が気にあるだけです。」

「後ろからの視線なら僕で慣れているじゃないですか。」

 お前は出てくるな。会話がややこしくなる。

「そうですか、今回は黙っています。」

 そう言って、アクアは新垣さんの隣に座った。俺は昨日の残りの部分を教えた。

「こうですか?」

「うん、悪くはないけどここは、こっちがこうかな。」

「なるほど・・・。・・・できました。」

「それで、オッケー、大体この単元は昨日と今日教えたことの繰り返しだから。」

「分かりました。」

「へぇ~、君ってだいぶ専門的なことも覚えてるんだね。もしかして、理学部?」

「いえ、工学科の機械のほうです。一回見たものは、全部覚えてるんです。」

「なかなか興味深いことを言うね。じゃあ、君が初めて来たとき、私たちが自己紹介をした時の順番覚えてる?」

「確か、弘子さん、優奈ちゃん、優子さん、里美さん、新垣さんの順番ですよね?」

「すごいね、そこまでスラスラ出るってことは嘘ではなさそうだね。」

 新垣さんはさっきと同じような体勢にになったが顔が真剣だった。その時、優奈ちゃんが

「翔兄って何歳ですか?」

「来年で30だけど・・・」

「ちょっと待っててください。」

 そう言って優奈ちゃんは部屋を出て行った。

「あんなに楽しそうにしているのは久しぶりに見たよ。でも、そんな能力があったのなら、会社員じゃなくてもっとほかの仕事にでも就けばよかったのに・・・。」

「周りの人からも良く言われます。挑戦はしたんですけどね。失敗したんですよ。」

「歌手志望?」

「えっ?!」

「あれ、もしかして図星だった?冗談のつもりで言ったのに・・・。君も大胆なところあるんだね。」

 優奈ちゃんが戻ってきた。

「翔兄が使っていたのってこれですか?」

「そうだよ。」

「前に、この教材を使っていたって言ってましたよね。でも十年もたてばレイアウトとか内容が変わってると思うんです。私が使っていた教材を見てどこが変わったとか言ってください。」

 俺はいろんなところを指摘して、そのほとんどがあっていた。

「ここまで行くと特技じゃなくて、もはや超能力だな。」

 そこからは質問の嵐だった。高校のころに習うようなことや時事ネタの年代当てなどが正午まで続いた。

「君、本当にすごいね。研究したくなってきたよ。」

 新垣さんの目が輝いていた。これは身の危険を感じざる負えない。その時、ドアをノックする音がして里美さんが、ご飯できましたよ、と言った。

「ご飯ができたそうですね。行きましょう。」

「万里子さん、とりあえずここまでにしてご飯食べましょう。」

 新垣さんの目が元に戻った。

「もうそんな時間か、ご飯を食べようか。」

 俺がホッとすると、アクアが話しかけてきた。

「良かったですね。命の危険が去って。」

 また、他人事だからってニコニコしやがって、

「そんなことはどうでもいいです。お二人さんに里美さんのことを聞いてくださいよ。やっぱり、家族の事なら知ってるかもしれませんし。」

 まあ、それはご飯の食べてからだな。

「絶対ですよ。僕はこれから仕事ですから本当に頼みましたよ。」

 そう言って、アクアは消えた。



「いやー、やっぱり里美さんは料理上手だな~。」

 そう言いながら、新垣さんは食べていた。

「そう言っていただけるとこっちも作りがいがありますよ。特に万里子さんは美味しそうに食べてくれますから作っている時も楽しみです。」

「そんなに褒められると照れるな~。」

 その時、優奈ちゃんは俺の方を向いた。

「翔兄、今のって褒め言葉でした?」

「まあ、捉え方によってはそうなるかもね。」

 そんな言葉をよそにして新垣さんは食事を続けた。

「優奈ちゃん、優子さんがいないけどお仕事?」

「はい、お母さんは仕事が不定期なので休日とかの概念がないんです。」

「そうなんだ。」

「でも、慣れたし、いつも皆さんがいるので寂しくはないです。」

 優奈ちゃんがニコッとすると新垣さんは優奈ちゃんの頭をわしゃわしゃした。

「そりゃ、優奈ちゃんはこの家唯一の女の子だからかわいがっちゃうよ。」

 新垣さんは満面の笑みで頭をなで続けた。

「万里子さん、食事できない・・・。」

 困ったような優奈ちゃんに笑いが起きた。

「こんなに楽しいのにお兄たちは来ないんだから罰当たりだよ。」

「何か来ない理由でもあるんですか?」

「理由はバラバラだよ。とりあえず、一人で食べたいんだって。降りてくるタイミングはかぶらないのはさすが三つ子って感じだよ。」

 新垣さんは笑いながら言った。



「・・・でなんで二人は俺の部屋に来たんですか?」

「君がとても面白いからに決まってるだよ。こんな超能力社みたいな人はめったにいないよ。」

「私もです。」

 まあ、高校のころから俺もそんなことは若干考えたけど、ここまでになるとは・・・。学者に捕まったのが運の尽きだったか。その時俺はアクアに言われたことを思い出した。

「僕も聞きたいことが一つあります。里美さんって以前に何か職についてたんですか?」

 その言葉に二人は少し考えた。

「・・・そう言われると里美さんって何をやってたんだろ?」

「それは私も翔兄に聞かれるまで気にもしませんでした。しかも、万里子さんも知らなかったんですか?」

「私も気づいた時には彦兄と里美さんが結婚するって聞いたし、結婚式も二人の意向でやらなかったからホントに何も知らないね。ところで君はそれを聞いてどうしたかったの?」

「僕はただ単に知りたかっただけですよ。」

「まあ、お義姉さん(おねえさん)達も中々すごいと思うよ。あの三兄弟を一度も見違えたことないんだから。」

「それなら私だって出来ますよ!」

 優奈ちゃんは手を挙げてアピールした。

「それは優奈ちゃんは肉親だから感覚的にわかるってことになるでしょ。でもあの三人は同じ服を着ていたってすぐに見分けるじゃん?もしかして君ってそんなことも出来たりするの?」

 出来ないわけじゃないけど『できる』って言ったら午前の二の舞じゃないか。

「まあ、少しくらいならできなくもないですけど、たぶん僕も優奈ちゃんみたいな感覚的なものなのでよくわからないですね。」

「そうなのか、もしもできるのであればそのことも試してみたかったのに・・・」

 緊急事態は回避できた。でも、そう思った瞬間

「気になるから聞きに行く?」

 新垣さんが提案してきた。ここで本人直撃!?確かにそれが一番確実だし、言ってくれるなら苦労はないけど言ってくれるのか?

「私も気になります。翔兄、行きましょう!」

 二人がそんなに乗り気ならしょうがないか。

「そうですね。」



 食堂に戻ると里美さんと弘子さんが食器を洗っていた。俺たちの存在に気づいたのか弘子さんが

「何か飲み物を用意しましょうか?」

 と声をかけてきた。俺が言葉を発する前に優奈ちゃんが

「里美さんって何かお仕事をしたことあるんですか?」

 と聞いたが里美さんは食器洗いが終わるまで待ってほしいと言った。その間にも二人の想像は止まらなった。

「優奈ちゃんは、どんな職に就いていたと思う?」

「私は意外と普通の会社員じゃないかと思います。そうじゃないと伯父さんには会えないと思うんです。」

「う~ん、その考えは固いね。でも、里美さんってかなり仕事できそうだから秘書とかやってそうだよね。ものを無くした時もすぐに見つけてくれるし。」

 これは二人の会話が止まることはないな。そう思って10分くらいたった後に食器洗いが終わった。

「私はほかに用があるので失礼しますね。」

「弘子さんは気にならないんですか?」

 優奈ちゃんは食いつぎ気味に聞いた。

「私は優奈ちゃんから聞こうかな?」

 頭に2,3回軽く頭に手を乗せて笑顔で言った。その会話が終わると新垣さんはすぐさま質問した。

「里美さんって何か仕事に就いたことあるんですか?」

 里美さんは一息つくようにお茶を飲んでから答えた。

「その事ですか。・・・私にも隠したい物事の一つや二つありますよ。」

「里美さん、そんなこと言わないでよ。」

 そう言って優奈ちゃんが里美さんが近づくと不意に里美さんは優奈ちゃんに耳打ちした。

「優奈ちゃんだけっていうのはずるいですよ。私にも聞かせてください。」

 新垣さんが近づくと里美さんはすぐに耳打ちの相手を新垣さんに変えた。でも、聞き終わった優奈ちゃんの顔は青ざめていた。少ししてから新垣さんの顔色も同じようになった。耳打ちが終わると里美さんは二人に言った。

「安心してください。今の事は私しか知りませんから。私は過去に恥じているのです。どうか見逃してくれますか?」

 その言葉を聞くやいなや二人は俺に向かって

「翔兄、聞くのは止めておきましょ。」

「そ、そうだね。やっぱり人に言いたくないことは誰だって持ってるし、君も持ってるだろ?」

「まあ・・・」

「じゃあ、聞くのは止めておこう。」

 二人ともそんなに重大な事隠してるのかよ。まあ、そう簡単に聞けるとは思ってなかったからいいけど。

「佐和田さんも私の事、気になりますか?」

「失礼ながら、とても気になります。」

「そうですか・・・」

 俺は里美さんの言葉を遮って言った。

「聞くなんてことはしません。僕は熟考しているときが一番好きなんで。」

 その時、里美さんは少しほほ笑んだ。

「でも、もしも確信のある結論にたどり着いたら答え合わせをさせてください。」

「分かりました。時が来たらお教えします。」

 その後、里美さんは残っていたお茶を飲んで何かを思っているようだった。

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