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大事な話(1)

 カチ、カチ、カチ、…と、時を刻む音が響く。暗闇の中で一人佇んでいる女の子がいる。


(あれは…私だ)


 そう思うと、いつの間にか自分は暗闇の中に立っていた。

 次第に音は増え、大きくなり、近づいてくる。


 動けないこともなさそうだが、どこかに行ったところで意味などないと解っていたし、とにかく体が重くて動く気にはなれなかった。


(永遠にここで生きなくちゃいけないのか…?だから嫌なんだ。ここも現実も本質的には変わらない。平穏という名の退屈。生という名の死。いつまでこんなことを続けなくちゃならないんだ。

 早く…早く、こんなところから出なければ)


 そう思い、目を閉じた。



 目を開けると、自分の部屋の見慣れた天井が見えた。


(また、同じ夢…。いつもいつも、決断を迫られるとやってくる。私の心は既に決まっているはずなのに。どこかで迷っているのか?それとも…恐れている?)


 はぁー…、と大きくため息をついて目覚まし時計を見ると、いつも起きる時間より三十分ほど早かったが、目が覚めてしまったため、身支度を済ませてキッチンに顔を出した。


「あら、おはよう。今日はずいぶんと早いのね。何か用事でもあったかしら?」


「…朝ごはん、私が作る」


「そう…。分かったわ。洗濯物干してくるわね」


 義母がキッチンから出ていったのを確認してから、雪那は調理台に向かった。作りかけを見たところ、今日の朝食は豆腐とワカメの味噌汁、ほうれん草のおひたしのようだ。あとは玉子焼を作れば十分だろう。


 雪那の義母は東京で生まれ育ち、雪那の父親が結婚してこの街に来る前に付き合っていたらしい。その後、仕事で雪那が住んでいる街に越してきて、父親と再会し、再熱。雪那は父親の浮気にすぐ気がついたが、死んだ母親は家で義母と鉢合わせるまで気がつかなかったそうだ。たかが夫の浮気で自殺とは、雪那には考えられないことだった。


「…できた」


 とりあえず父親を起こし、次に義母を呼んで朝食を食べた。


「今日は雪那が作ったのか。甘い玉子焼も赤だしの味噌汁も久しぶりだな」


「ごちそうさま。もう行くよ」


「安岡先生には、昨日の話をちゃんと言うんだよ」


「…言われなくても話しておくさ」



 事は昨夜に遡る。



――――――――――



「東京に引っ越すことになった。二学期が終わったら東京に行く」


「…それで?」


「それでも何も、雪那も一緒に行くことになる。高校の目星をつけるのは大変だろうが…」


「何言ってるの?私、東京で進学する気なんてないよ。今は年齢的に保護者が必要だけど、高校に入ればそういうわけでもない」


「そうは言っても…なぁ?」


「そうよ、一緒にいた方が…」


「私はずっと中高がいいと思ってるの、知ってるでしょう?ここで一人暮らしするには資金的に援助してもらわないといけないのは理解してるけど、そこは大した問題じゃないし。

 高校選択は私にとって重要なことなんだ。そのくらいなら、理解できるよね?」


 しばらくの沈黙の後、父親は尋ねた。


「…もし、認めないと言ったら?」


「そう言う時点で認める気でいるよね。でも、『もし』だめなら…そうだね、身辺には気をつけた方がいい」


「分かった。三者面談で先生と詳しく話すから、とりあえず明日引越しのことを伝えておけ。いいな?」


 その言葉には返事をせず、雪那はリビングを出た。


「あなた、認めるつもりなの?」


「あぁ。雪那は引くつもりがなさそうだし、色々なことが見えているようだ。…俺たちができるだけ早くこの家を捨てたいと思ってることも、家の懐事情も。


 それに、今のはただの脅しじゃなくて忠告だからな。何をするのか分かったものじゃない。家出で済めば奇跡だろう。

 いいんじゃないか?雪那はここにいたくて、俺たちはこの家を捨てて二人になれる」


「…そうね。少し気がかりだけど、彼女はしっかりしてるから」

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