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【完結済】月曜日、私はわたしと入れかわる  作者: 泉華


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1/10

第一話 しらない月曜日

ふと、思いついた作品です。

短編になるかと思います。

「はあ、明日学校いきたくないなあ」


私はベッドにごろんと横になった。

暗闇の中、天井をぼーっと見つめる。はあ。ため息が出るのは何回目だろう。

私には、立花 楓という親友がいる。かえちゃんって呼んでいて、いつも一緒。


かえちゃん、怒ってるかなあ。

金曜日のかえちゃんの声が頭からはなれない。


「そんな言い方、しなくてもいいのに」


     *


金曜日、工作クラブでかえちゃんと喧嘩をした。


先生が、「今日は二人組で、自分たちが住んでみたいお家をつくってみましょう」と言った。


「いっしょにやろー!」


そんな声があがる中、私は先に材料を取りに行った。

当然、かえちゃんと組むと思っていたから。

でもこれが、失敗だった。


「え。かえちゃん、凛ちゃんと組むの?」


「うん。誘ってくれたの」


かえちゃんと凛ちゃんが机を寄せ合っている姿を見つけて、私は抱えていた材料をぎゅうっと抱きしめ、うつむいた。

あ。箱がぐしゃっとつぶれちゃった。


「私とじゃ、ないの?」


「あ。ななみ、まだ決まってないの?綾がまだ一人みたい!綾ー!」


「あ! ななちゃん! わたしとやろー!」


前の方の席から、綾ちゃんが私のことを呼んでくれた。


「うん!綾ちゃんやろー!ちょっとまってて!」


綾ちゃんのところに向かう前に、かえちゃんにだけ聞こえる声で、つぶやいた。


「私だって、かえちゃんとやりたかったわけじゃないし」


「え?ななみ?」


「……なんでもない!」


「そんな言い方、しなくてもいいのに」


かえちゃんの表情が曇ったのをみて、しまった。と思った。

なんでもないじゃないよ、私。謝らないとなのに。

でも、私一人でたのしみにしていたみたいで、素直になれない。


「ななちゃん、どうしたのー?材料どうするーー?」


「うん!」


綾ちゃんに呼ばれたのをいいことに、私は綾ちゃんのところへ向かった。

なんだか胸のあたりがもやもやする。

その日は、かえちゃんと一緒に帰れなかった。


     *


あんなこと、言わなければよかったよね、私。

ぶんぶんと首を振った。

もう。思い出したって、自分が言ってしまった言葉は取り消せないのになあ。


ぐるぐると考えているうちに、布同士が擦れる音、時計の音がすこしずつ遠くなっていった。

ぱっと目を開けると、私は白くて、なにもない空間に座っていた。


「…ここ、どこ?夢?」


頬を引っ張ってみる。


「いたーい!夢じゃないってこと?」


立ち上がって、あちこち歩いてみる。


「うん?壁がない気がする。どれだけ広いの!」


チリン。


「鈴の音?誰かいるの?」


ぱあっと、目の前の空間がまあるく、色とりどりの光に包まれる。

なにこれ、虹?1、2、3、4、5、6、7…七色!

呑気に色の数を数えていると、光が急激に強くなった。


「わ!まぶしい!」


眩しさに思わず目を閉じた。ようやく目を開くと目の前には白い猫が足をそろえて座っていた。


「うわあ!びっくりしたあ!」


『ななみちゃん』


「ちょっとまって。あなたがお話ししているの?嘘でしょ?」


『わたしだよ』


白い猫は得意げに、ニカっと笑う。


「もーー。さっきからびっくりしっぱなしだよお。突然出てきて、しかもおしゃべりできる白猫さん?わけがわからない!」


『ななみちゃんのこともしってるよ』


「え! そうだ、なんで私の名前知ってるの?」


『内緒』


「内緒かあ」


猫の首には、金色の首輪と、小さな鈴が二つ付いていた。瞳も金色だ。綺麗だなあと思ってのぞき込むと、その奥で七色の光がちらっと揺れた。


「ねえ、その尻尾は、なあに?」


白い尻尾の先が、七色に光っている。


『しっぽだよ。かわいいでしょう』


「かわいいけれど。答えになってないよ」


『そう?』


白い猫は楽しそうに、尻尾を揺らした。へんな猫。でも、少し近づいてみたくなる。

白い猫が、私の顔をじっと見た。


『ななみちゃん、あんなこと、言わなければよかったって思っているんだね』


かえちゃんの顔が浮かんだ。私は白猫さんから目をそらした。


「……急に、なんでそんなこと聞くの」


『ちがうの?』


「……思ってるよ。間違ったなって」


『じゃあさ、行く?』


「どこに?」


『ついてきて!』


白い猫は突然立ち上がって、走り出した。


「え!待って!」


白い猫を追いかけるために足を踏み出した。


「あれ?」


気がついたら私は布団の中で、天井に向かって手を伸ばしていた。その手を下ろして、ちらりと時計に目を向ける。


「7時だ。起きないと。夢だったってこと?ほっぺいたかったのに」


きてほしくなかった月曜日。

のろのろと着替えに手をのばした。


     *


もそもそと朝ごはんを食べていると、チャイムが鳴った。

あれ?かえちゃん?今日は来てくれないかもと思ってたのに。


「ななちゃーん!楓ちゃんよ!準備して、はやくおいで!」


「はーい!すぐ行くって言っておいてー!」


急いで歯磨きをして、ランドセルを背負う。


「よいしょっと。いってきまーす!」


玄関のドアを開けると、かえちゃんが笑顔で待っていた。


「おはよう、ななみ!」


「おはよう。かえちゃん、怒ってないの?」


並んで歩き出しながら、かえちゃんの顔をそっと見る。

かえちゃん、笑ってる。喧嘩して、あれから話せていないのに、どうして?


「え?なんで?」


「だって、金曜日…」


「あ、工作クラブのこと?今度は一緒につくろうねって約束したじゃん」


「え?」


「私とやりたかったって、ななみ言ったから。次は一緒にしようねって」


え。私、してない。

どういうこと?

かえちゃんとやりたかった。かえちゃんと組みたかった。けれど、素直にいえなかったのに。

それで、かえちゃんが怒って、一人で先に帰ってしまったのに。


「ななみ?どうしたのー?遅刻しちゃうよ?」


すこし先で、かえちゃんが私を待っていた。

考え込んじゃってたみたい。


「あ、うん!」


チリン。チリン。

私が早足をしていると、耳に鈴の音が届いた。

この音、白猫さんの音だ。

金色の瞳と、七色に光る尻尾の先を思い出した。


「ねえ、今鈴の音しなかった?」


「えー?聞こえなかったよ」


どうやら、私だけに聞こえているらしい。

あたりを見回しても、白い猫の姿はなく、もう音も聞こえない。

気のせいだった?夢だった?

隣を歩くかえちゃんの顔を、そっと見た。


     *


学校は、いつもの学校だった。私の席も、教室の後ろに貼ってある絵も昨日までと同じ。


でも、かえちゃんとケンカしていない。

それだけが、どうしても私の記憶とちがうんだよね。


昼休み、かえちゃんと凛ちゃんが、ノートを間に置いて話していた。


「木の上にお家、作りたいね」


「いいね。ここ、階段にする?」


工作クラブの続きだ。

私は自分の机で、筆箱を開けたり閉めたりした。


「ななみも、見て」


かえちゃんが手招きしている。


「……私も?」


「うん。ここさ、階段と、はしごと、どっちがいいと思う?」


のぞき込むと、大きな木の上に家が二つ描いてあった。二つの間が、ちょっと離れている。


「ここ、橋にしたら?」


私が指を置くと、凛ちゃんが「あ!」と言った。


「それいい。家から家に行けるもんね」


かえちゃんが、鉛筆で線を引いた。


「こんな感じ?」


「うん。それで、下の木は、緑の箱を重ねたらできそう」


言ってから、少しどきどきした。私まで勝手に決めていいのかな。

でも、二人ともノートを見ながらうなずいていた。


「クラブの材料にあったよね。今度、探そう」


かえちゃんの鉛筆が、また動く。

私と二人で作る家じゃないけれど、ノートの橋は、私の言ったところにかかっていた。


帰り道も、かえちゃんは私の隣を歩いていた。


「また明日ね!」


曲がり角でかえちゃんは笑顔で手を振ってくれた。

私も手を振りかえした。


「うん、またね!」


かえちゃんの姿が見えなくなってから、その場にしゃがみ込んだ。


「えーー。なんなのーー」


     *


家に帰り、宿題をしておやつを食べ終えたころ、はるくんがトランプを持って、近寄ってきた。

はるくんは私の5歳下の弟で、春人という。なまいきだけれど、かわいい。


「ななちゃん。しんけいすいじゃく、やろう」


「うん、いいよ」


「今日は、負けてももう一回って言わない?」


「え?」


台所にいたママがくすくす笑ってる。


「昨日、3回やったもんね。最後ははるくんが、もうおしまいがいいって」


え?昨日は私、はるくんに絵本読んであげたはず。

やっぱり、なにかがおかしい。


「ななちゃん?どうしたのー?」


「あ、うん。一回だけね。やろっか」


「うん!」


ママもはるくんも、私の知らない私を知っている。

かえちゃんだけじゃない。

白猫さんのしわざ?話したい。

でも、こころの中でよんでみても、姿は見えないし、鈴の音は聞こえない。


床にカードを並べると、はるくんは、端っこの二枚をめくった。


「あ! おんなじ!」


「えー。いきなり?」


私も覚えていたはずなのに、いざめくると違う。あれ、さっきここにあったよね?

はるくんがにこにこしながら、また二枚取った。


最後に数えたら、私のほうが少なかった。


「もういっ……」


はるくんが顔を上げた。

私は口を閉じて、カードをそろえた。


「……一回で、おしまいだね」


「うん!」


昨日、何度もやったっていう私も、きっと悔しかったんだ。

身に覚えはないのに、その気持ちは分かる。ちょっと変なの。


     *

晩ごはんが終わっても、お風呂に入っても、白猫さんは現れなかった。


ママ達におやすみを言って、自分の部屋のドアを閉める。

ふう。ベッドの上に腰をかけ、何気なく部屋を見渡してみると、違和感があった。


「あれ?あの貝殻、私机の上に置いてたよね?どうして本棚にあるの?」


誰かが動かしたのかな?

元の位置に戻しておこう。そう思って立ちあがろうとした時、本棚の端がふわりとにじんだ。

目をこすっても、どんどんと部屋の中の景色がぼやけていくばかりだ。

廊下の向こうでは、ママとパパの声が聞こえていたはずなのに、その声がぶつりと切れた。


「え?なにこれ!ママ!!」


思わず立ち上がって、ママを呼んでも、返事はない。

ぼやけているけれど、ドアへ手を伸ばす。


チリン。


『ななみちゃん。帰る時間だよ』


「白猫さん!ねえ、なにこれ?ママは?急に声が聞こえなくなったの!!」


でも、声は聞こえるのに、姿は見えない。


『ななみちゃん、おちついて』


ぱあっと、目の前が七色にひかり輝いた。

眩しさから閉じた目を開くと、夢の中で見た、白い猫の姿が枕の横にちょこんと座っていた。

白猫さんだ。やっと会えた。もうわけがわからない。


「白猫さん。何度も呼んだんだよ。どうなってるの?ママは?」


『驚かせてごめんね。今はね、みんなの時間が止まってるの』


「とまってる?私は動けるのに?どうして?」


『帰るために、ななみちゃんだけ動けるんだよ。帰る前に、すこしお話ししよう』


「帰るってなに?ここ、私の部屋だよ」


『ここは、もう一人のななみちゃんの部屋なの』


「もう一人の、私?」


『そう。楓ちゃんに、違う言葉を伝えた、ななみちゃん』


ああ。そういうことか。

今日1日の違和感が、頭の中を駆け巡った。

かえちゃんも、はるくんも、ママも、昨日はちがう私と過ごしていたんだ。

本当に、ここにもう一人の私がいたんだ。


「じゃあさ、その子は今、どこにいるの?」


『もともと、ななみちゃんがいた世界だよ。入れ替わったんだ。1日だけ』


ということは、こっちの私は、喧嘩していなかったのに、私が喧嘩してしまった世界に行ったということ?

今日、かえちゃんになんて言われただろう。きっと、困っただろう。


「その子と、話せる?」


『会うことも、話すこともできないんだ。でも、その子に一文だけ残せるよ』


白猫さんの体が、ベッドの上からふわりと浮いた。


「え!飛べるの?」


私がびっくりしていると、白猫さんはニヤリと得意げに笑って、空中をしゃなりしゃなりと歩く。

そうして、私の目の前で止まると、美しい尻尾を私に差し出す。


『これで、書いてね』


「これって、しっぽだよね?書くってどういうこと?」


『やさしく、握ってごらん。そう、ペンを持つみたいに』


おそるおそる尻尾に触れる。柔らかな尻尾は、すこし暖かい。

私がペンを持つ形でにぎると、七色に光る尻尾の先へ光があつまり、ほそいペン先に変化していた。


「わあ」


『そのまま、空中に書くんだよ』


言われるがままに手を上げたけれど、なにを書いたらいいのかわからない。

一文だけでしょう、なにをつたえよう。

本当は作りたかったと、こっちの私は言えたんだよね。言えたから、かえちゃんは今日笑っていたんだよね。


小さく息を吸い、ペン先を動かすとなにもなかったところに、光の線がはしった。

一文字、もう一文字。

私の手が動くたびに、白猫さんの体もふわり、ふわりと動いた。

不思議なことに、文字は空中に浮いている。赤や青や黄色が、文字の線の中をゆっくり流れている。

最後に、ちいさな丸をかいた。


〈私も、かえちゃんといっしょにやりたかったって言えばよかった。〉


声に出せなかった言葉が、目の前で七色に光っていた。


『うん。あずかったよ』


指をほどくと、尻尾はするりと離れた。

尻尾を揺らしながら、枕の横へふわりと降りると、白猫さんは言った。


『今夜は、このままおやすみ。目が覚めたら、もとの部屋だよ』


「もう一人の私も、帰るの?」


『うん。あちらのななみちゃんも、一文を残すんだよ。朝起きたら、見れるからね』


白猫さんは、前足で枕をぽんとたたいた。

布団に入り、枕に頭をのせた。


『ゆっくり眠るんだよ。これは、おまじない』


肉球が、額に触れた。ぽわぽわしていて気持ちがいい。


「うん、おやすみ。白猫さん」


光る文字が、天井との間に浮かんでいる。

向こうの私は、何を書いたんだろう。

文字の光が、少しずつ淡くなる。

今日のかえちゃんは、何度も笑っていた。


もとの世界のかえちゃんは、今日、どんな顔をしていたんだろう。

私は目を閉じた。まぶたの裏に、七色の光が、ほんの少し残っていた。

お読みいただきありがとうございます。

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