表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光を背負った王――神力を宿す王太子エルドウルフの戦記  作者: RE:ANNE


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

第1話 〜剣を抱いて寝る王太子〜

剣を取る理由は、栄光ではない。

誰かが生き残るために、誰かが削れる。

これは、英雄になる前の王太子の物語です。


 第1話 〜剣を抱いて寝る王太子〜


物心つくころから、エルドウルフは繰り返される夢を見ていた。


自分ではない誰かの記憶

誰かの感覚

誰かの感情

そしてあの夏の青空のような色の髪と黄金の瞳の彼の人

愛しくて切なくて悲しくて…苦しくなる


「エルドウルフ」

 


4月の半ば。夜明け前。


ここはミッドガロン、シュバリエ、ネルマの三方に囲まれたハンサン王国。

アルマー渓谷を南に下った先にある、小さな国だ。


東には大河セシールが流れ、

西には草原、その先に連なる山。

低い丘と乾いた大地が広がるこの場所は――

年が明けてから、戦火が最も激しくなった地でもあった。


ミッドガロン軍。

ハンサン軍。

そして同盟国シュバリエ王国からの援軍。


三月中ば、ハンサン王国北部の砦ガレオが陥落した。

王都まで、わずか十キロ。


王都陥落の危機に、同盟国シュバリエへ親書が送られ、

条件が折り合ったのは、それから十日後のことだった。


当初の兵力は、

ミッドガロン四万五千に対し、

シュバリエ・ハンサン連合軍は四万二千。


だが今は、

二万五千対一万八千まで削れている。


 その理由は二つあった。


ひとつは、シュバリエからの派兵数が当初から多くなかったこと。


 もうひとつは

ハンサン王国が同盟国シュバリエに救援を求め、

援軍がこの地に姿を現した時――

その軍の総大将であるはずの王太子エルドウルフは、

まだ戦場にいなかった。


 エルドウルフは、天幕に据えられた円卓の大将椅子に腰を下ろしたまま、

片膝を立て、その膝と剣を抱えて眠っていた。

刃は鞘に収まっているが、腕から力が抜けていない。


まるで、いつ敵が来ても斬れるように。

あるいは――倒れる直前まで、剣を手放さなかったかのように。


「剣を抱えたまま寝るな」


「寝所が用意されています。そちらでお休みください」

 どちらも叱責だったが、誰一人として声を荒げなかった。

この場にいる全員が、彼がどれほど無理をしてここに来たのかを知っていた。

 

南方の争いを片付けたその足で北へ転じ、

ほとんど休みも取らずに馬を乗り継いだ結果だった。

到着した夜明け前、最後の一頭は天幕の外で息絶えた。


 

 この大陸には、ごく稀に、神の『寵愛』を受ける人間が現れる。


王家の血でも、魔術の才でもない。

神が気まぐれに選び、その力の“欠片”だけを人に預ける。


未来を垣間見る者。

物を動かす者。

大地や水の流れを知る者。

人の心を読む者。


そして――光を顕す者。


エルドウルフの力は、その中でも最も戦場向きで、最も危うい類だった。


 剣に、神より賜った力――神力を通せば、

人の器を巡るマナが燃え、刃は光を帯びる。

 振るわれた一撃は、数百の兵をまとめて薙ぎ払う。


だが、それは奇跡ではない。

消耗だ。


神の力を、人の器で扱う代償。

使うたびに、身体の奥から何かが削れていく。


 そして神力は無尽蔵ではない。


 一度の戦で振るえる神力は、多くて七度。

それ以上は、神の力ではなく、

人の身体が先に壊れる。


 昨年秋、西方テルアドとの戦。

エルドウルフは、その限界を越えた。


 八度目を、振るったのだ。


光は敵軍を殲滅したが、代償は重かった。


剣を落とした瞬間、

全身の熱が一気に引いていくのを覚えている。

指先が動かず、声も出なかった。


――このまま死ぬのか。


その感覚だけは、はっきり残っている。


 十日間、目を覚まさなかった。

それが、彼の身体に刻まれた“答え”だった。


 今回、ハンサンへ来る前。

南部オルミーナで、すでに三度、力を使っている。


残りは、四度。

無理をすれば、五度。


五度目は――

生きて戻れる保証はない。

 


 だが、参戦は決まった。

 兄たちが決めた。

 国が決めた。


そして今、エルドウルフは総大将として、

一万八千の兵の命を預かっている。


 ならば、答えは一つだった。


この戦は終わらせる。

自分が削れることで、兵が生き残るなら、それでいい。


馬上で、覚悟は決めていた。


 ――だが。


心残りが、あった。


 神さま。

フェギスノーラ。


会えなかった。

声を、聞けなかった。

顔も、温度も、何一つ。


成人すれば会いに来ると、言われていたのに。

俺はもう、二年も待っている。


 死に際に思い浮かぶのが、

国でも、民でもなく、

神の姿だなんて――


欲望まみれだな、俺は。


「ちっくしょう!」


突然のエルドウルフの咆哮に、天幕の中の空気が跳ねた。

夜明けとともに兵たちは起き出し、甲冑を身につけ、開戦の準備に入っている。その最中、総大将の天幕から響いた怒声に、周囲が一斉に息を呑んだ。


「やめた、やめた、やめた!」


エルドウルフは大きく首を振ると、勢いよく立ち上がった。

そばにいたフーガが慌てて声をかける。


「おい、なんだよ。何をやめるんだ」


エルドウルフは、今着ている重い甲冑を脱ぎ捨て、となりに置かれた甲冑へ手を伸ばした。


「死ぬ気で戦うつもりだったが、やめたわ。

 俺は――生きる」


天幕の空気が一瞬、止まる。

彼が選んだのは、より軽装の甲冑だった。動きに迷いはない。


「俺は死なない。お前らも死なせない。

 ――戦争も、勝つ」


短い断言だった。

説明も、感情も続かない。


「当たり前でしょう」

エランが静かに言った。

「誰も、あなたに命を賭けてほしいなど思っておりません」


 ゴディエが続ける。

「昨年のテルアドの件、忘れたとは言わせないぞ。」


 アンリはため息まじりで言う。

「頼んでもいないのに、八度目の力を使って倒れただろう。」

 

ルーソルは一呼吸置き

「俺たちのためだった、なんて言われても困る。」

 

 最後に、悪態をつくように

「命まで安売りされる覚えはないからな。」

 フーガが言い切った。

 

五人は言葉を終えると、同時に動いた。

剣を下げ、膝をつく。

それは忠誠の誓いではない。戦の始まりを告げる、いつもの所作だった。


漆黒の甲冑に漆黒のマント。

エルドウルフは立ったまま、彼らを見下ろした。


夜明けの光と、戦場の気配が流れ込む。


彼は一歩、外へ踏み出した。


 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ