29 神の存在
「――――お前、何者なんだ?」
一瞬先生が僕に向けた目は怪訝しているように見えた。
思わぬ目線に僕は後ろめたさがあった。
するとヘルヴィンが僕の肩に手を乗せた。
「先生? エーデルだって驚いてるんだよ? こんなに多く力を持ってたら普通の人なら怖いに決まってるでしょ? わかってあげてね」
ヘルヴィンは僕を庇ってくれたようだ。
だか一瞬を僕は見逃さなかった。
『わかってあげてね』と言った彼は朝と同じ目をしていた。
「ああ、わかったよ。とにかくエーデルお前はもう戻っていい。ヘルヴィンは残れ」
「えー」
「はい」
教室の扉を開けるとそこにはクラス全員が扉の前に集まり耳を立てて会話を聞いていた。
「わ! びっくりした」
僕が驚くと、皆も驚いていた。
「エーデル・アイビス! 君凄いね〜」
「私もびっくりしちゃった。あんなに神力を持っている人は初めて見たもん! 少し怖いくらい……でも本当に凄いよ」
「あの武闘三人組、確か武闘主席で入ってる奴らだよ! グレンとバドラ!」
「でも君も主席入学だよね!」
クラスメイトがなんだが盛り上がって話している。
「グレンって誰?」
「あの、魔族の角を折っていた人だよ」
――アイツのことか……
先生と話をした後、名前も知らないクラスメイト達が自然に話しかけてきた。
皆不安だったのか。
僕が何者かわからなかったから。
先生やヘルヴィンが僕に対して普通な態度をとってくれたおかげで、皆が僕に対する不信感が解けて話しかけてくれた。
「何であんなに神力持っているの?」
「……わからないんだ、ただ初めて使った時お父さんを吹っ飛ばしちゃって」
「それはやばいね」
「あの神力量は神同等だよな?」
「…………神?」
神って言ったか? 続けて僕は聞いた。
「神って、あの神様? 神って存在するの?」
「存在ってどういう意味? 神様はそこら中にいるよ? 自分から『私は神です』っていう人は少ないけど、普通に生活してる私達と一緒でしょ?」
……そういうものなのか?
『世界とルピナス』で読んだルピナス王国の初代王『エレイン・ウィル・ルピナス』は確かに実在した。
本に彼は神力も多く、神に近い存在だと書いていた。
だが、確実な『神』とは書いていなかった。
書く必要がない程当たり前の存在なのか?
「神様って沢山いるの?」
「そりゃいるよ! だから皆神力を使えるじゃん。というか今までそれを知らずに生きてきたの?」
この国では普通なんだ。
僕が転生者だから知らないだけなんだ。
このままだと変だと思われる。何か誤魔化しを――
「…………えっと」
「エーデルは剣術にしか興味がないんだよ。それ以外は興味がないんだ。だから木の枝であいつらを倒したでしょ?」
ニコニコしながら登場したのはヘルヴィンだった。
また僕の肩に優しく手を置き、質問詰めで困っていた僕をその一言で救ってくれた。
「確かに! あれは普通の鍛錬でできることじゃない!」
「そうだな。並大抵では無理だな」
「そういうことか! エーデル。お前の苦労は痛いほどわかるよ……涙が止まらねぇ」
(出てないよ)
「はい! じゃあ解散! 皆次の授業が始まるから席に着こう」
ヘルヴィンの一言で皆その場を後にして席に戻った。
そういえばさっき一瞬先生の目つきが変わった時も、僕が皆んなの問いに困った時も助けてくれた。
「ヘルヴィン、ありがとう」
「ん?」
「その……毎回助けてくれて」
「いいんだよ。君は僕にとってずっと特別だから」
――ずっと特別。
「どういう――」
『どういう意味?』そう聞こうとした時、タイミングよく教室の扉が開いた。
その後、聞く間も無く次の授業が始まった。
今日たくさん投稿します!!




