8話 大人っぽい、少年です
突然目の前に現れた黒髪の少年は、物凄い勢いで木の枝を投げてモンスターを倒してしまった。
その姿に唖然としてしまった私に近づいてきて、何やら聞いたことのない言葉で喋りかけてくる。
「Hi!」
「え、えぇ~」
(どうしよ、全然何言ってるか分らないよ)
何故か少年の方は満足げに話しかけてくる。
(と、とりあえずお礼言わなきゃだよね......)
まっすぐ少年の目を見て意を決して返事をする。
「あ、あの」
「Hi?」
「助けてくれてありがとうございます」
少年は目を見開いて口をパクパクさせている。
かなり驚いているようだ。
「これは驚いた。お嬢さん、日本語がお上手ですね」
「二ホンゴ? 何ですか、それ」
ステナがそう答えると少年は頭を抱えてブツブツと呟きはじめた。
「......考えたくは、なかったが......やはりそういうことなんだな......」
「......」
先程からいちいち反応がおかしな人だし、怪しいことこの上ない。
(見た目は私と同じくらいなのに、なんだか喋り方が大人っぽいなぁ)
悪い人ではない気がするので様子を窺いつつ話しかける。
「あのぉ、あなたは誰ですか?」
私が質問すると少年は頭から手を離してから答えてくれた。
「私は......男鹿崇という者です。」
「オガ? ......タさんですか? 私はステナっていいます。さっきは本当にありがとうございました。おかげでデビルウルフに食べられずに済みました」
「ああ、別に構いません。目の前でお嬢さんのような可憐な方が猛獣に襲われるのを見過ごすわけにはいきませんので。それと、男鹿崇です」
ステナは可憐だなどという言葉を受けたのは人生で初めてだった。その言葉に驚いてしまい、男鹿の話は最後まで耳に入ってこない。
「――オガタさん! そんな可憐だなんて何を言ってるんですかぁぁ!」
男鹿はステナが何をそんなに取り乱しているのか分からず逡巡する。
一つ思い当たることがあったので謝ることにした。
「申し訳ないです。最近厳しくなっているのは承知なのですが、これもセクハラなのですね......」
「せくはら? いえ、別に全然嫌ってことではないんですけど! むしろ嬉しいというか――!」
男鹿はしばらく一人で盛り上がっているステナを不思議そうに見つめていた。
「お聞きしたいことがいくつかあるのですが、よろしいですか?」
ステナが落ち着いたのを見計らって男鹿はそう切り出した。
「う、うん! じゃなかった、はい! なんでも聞いてください!」
「それでは一つ目の質問なのですが、ここはどこですか?」
おかしなことを質問してくるなとステナは思ったが、命の恩人からの質問だ。丁寧に、誠実に答えようとする。
「ここはアルスラー王国の北東の国境沿いにあるラウテルン村ですけど......」
「......」
男鹿は黙ってしまう。
「どうしたんですか?」
「いえ、聞き覚えのない地名でしたので」
確かに外国の人だったらラウテルン村なんて辺境の小さな村のことなど知らないのかもしれない。
今度はステナの方から質問をした。
「オガタさんは何でそんなに大人っぽい喋り方をしているんですか?」
「え?」
質問の意図が分からないようだった。ぽかんと口を開けている。
「この辺りでは見ない黒髪だし、もしかしてオガタさんの国では若い人同士でもそんな丁寧な言葉遣いをするのかな?」
「え? 若い者同士? 誰と誰がですか?」
ステナはまず自分を指さして
「私と」
次に目の前の少年を指さす。
「オガタさん」