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材力無双 ~大学で材料力学を教え、定年退職した俺が異世界で無双する〜  作者: 機械工に苦しめられし者
第一章 定年、そして村編
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2話 それってほんとに材力か?

全身が痛い。地震で派手に転んでしまったからだろうか。もう若くないのだし無理はしない方がいいのだろう。


「ここは......」


転んだ後に気を失ってしまったのは何となく覚えているが、それは大学の研究室で起きたことのはずだ。周りを見渡すと見慣れた室内ではなかった。というより


「森......」


なぜこんな場所にいるのだろう。おかしい、研究棟が倒壊でもしたのか。いや、それでは私は生きていないはずだ。それに大学の近くにこんな森はあっただろうか。千葉県だから森くらいあるにはあるが。


「とりあえず携帯で位置情報を」

(......上着がない。そういえば2号館に入る時に脱いでしまったな。困った、現在位置が分からない)


「少し歩いてみようか」


そう呟いてから空を見上げてみる。太陽の位置を確認して腕時計の時針と合わせる。


「南に行こう」


私は痛む身体を気にしながらゆっくり歩き始めた。






2時間以上は歩いた。景色は変わらない。おかしい、こんな広大な森林が大学の近くにあるのも信じがたいが目覚めてから一度も車の音や飛行機の音も聞こえてこない。


「本当にどこなんだここは」


少し歩き疲れたので木の根に腰を下ろした。そこで現在の状況を少し整理してみた。


「送別会は大学近くの居酒屋でやった。22時過ぎに終わって、そこから丸田先生と2号館に向かったから地震が起きたのは日付が変わるか変わらないかくらいか」


今は真昼間だ、太陽が眩しい。そうすると10時間くらいは気を失ってたのか。


「のどが渇いたな」


飲まず食わずで歩き続けて流石にきつかった。疲れた身体を木に預けて目を閉じていると、背中の後ろの方で物音がした。木の幹に身体を隠しながら音の方を覗くと、大きな()がいた。


(熊なのか?大きすぎるし、角が生えているように見える)


体長は立ったら2mは超えそうだ。それに紫色の鋭い角が頭から生えている。

とにかく気づかれないようにするしかない。

ゆっくりと後ろに下がろうとして、小枝を踏んでしまった――


「あ」


やってしまった。案の定、熊がその音を聞きつけて近づいてきた。

仕方ないので木の後ろから出て正対する。

思ったよりも大きい。これでは一撃でも喰らってしまったら即死だろう。

覚悟して近くに落ちていた太めの木の枝を持ち上げて構えた。


(ん、なんだ?)


木の枝を持って熊を注視した瞬間、視界の隅に変な四角い枠が出てきた。青白く光っている。

そのまま熊を睨みつけていると熊の頭上に【デビルベア Lv.15】という文字が浮かび上がった。


(悪魔の熊?いったいどういう意味だ)


急な視界の変化に気を取られているとデビルベアが鋭い爪を振り上げて襲いかかってきた。

反応が遅れてしまったが何とか木の枝で受けることができた。が、その一撃で枝は折れ、受けきれなかった衝撃が身体を襲う。


「がぁッッ」


デビルベアの一撃で吹き飛ばされて身体は宙を舞い、木の幹に叩きつけられた。

攻撃を受けて脳震盪でも起こしたのか頭がはっきりしない。視界の中央ではこちらに向かって走ってくるデビルベアを捉えていた。


(昨日の送別会からずっと夢を見ている気がする)


何故こんなことになったんだ。私は自由気ままに余生を過ごすはずだったのに。そういえばあの場にいたはずの丸田はどこに行ったんだ。あの宇宙のようなものはいったい。

死に際だからだろうか、次から次へと疑問が湧いてくる。

一通り思案し終わった時にはデビルベアが腕を振り上げていた。


死を覚悟したその瞬間、視界の枠から馴染みのある文字が浮かんだ。


(なんだ...【《固有スキル》材料力学 Lv.1】?)


その文字を見て、何故かデビルベアの攻撃を避けられるような気がした。


「くッッ!」


もたれ掛かっていた木から飛び去り、何とかデビルベアの追撃を躱すことが出来た。デビルベアは勢い余って頭を木にぶつけてしまったようだ。少しよろめいている。

急いで【《固有スキル》材料力学 Lv.1】という文字を確認する。

文字の横に矢印が見える。続きがあるのだろうか。


「ざ、材料力学......」


何となく呟くと浮かんだ文字が展開されて新たな文字が出てきた。

そこには【《スキル》応力集中サーチ】と書かれていた。


「まさか」


目を凝らしてデビルベアを見てみる。驚いた。

どう表現すればいいのか。デビルベアの全身にかかる、あらゆる力の流れが無数の線となって可視化されていた。

その線が力の流れだと目に映った瞬間理解した。何故かは分からない。


この瞬間、自分が知る世界には戻れないという予感がしていた。

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