3話 お腹がすいた
応力とは本来、物体の内部に生じる力の大きさを示す物理量のことである。
普段の研究では金属などの材料の強度を計算する時によく扱うものだ。
(つまりあの線が集中している所が弱点か? それに)
よろけた体勢を整えて、デビルベアがもう一度襲い掛かってきた。
しかし先程までとは違い、簡単に避けることが出来た。
(やっぱり、思った通りだ。この線)
デビルベアの身体にかかるあらゆる力の方向、大きさが手に取るように解るのだ。それはもう相手が次にどう身体を動かそうしているかが分かってしまうのと変わらない。
今の状態なら勝機はあるかもしれない。
私は新しい木の枝を拾って構えた。
「かかってこい!」
デビルベアは私の大声など全く気にせず飛びかかってきた。
(応力集中サーチ!!」)
右の爪で攻撃してくることが予測出来た。同時に左の脇腹に線が集まっている。
「どりゃああ!」
デビルベアの爪攻撃を躱して左脇腹を突く。
「グァァア!!」
攻撃が効いたのか、呻き声を漏らすデビルベア。
だが木の枝では猛獣の厚い皮に傷は付けられなかったようだ。
またすぐにこちらへ向かって突進してくる。
もう一度同じ要領で脇腹を突く。今回も若干の効果はあるようだ。
相手の攻撃を食らう心配はもう無いが、体力的にこの攻防を何回も続けていく自信はない。
(何か打開策は......)
そのまま7度ほど同様の攻防を繰り返したところで、新たな文字が視界に現れた。
そこには【《固有スキル》材料力学 Lv.2】と表示されている。
(レベルが上がったのか? ということは)
予想通り表示には続きがあった。
【《古代スキル》強制転位】
またもや材力の道を志す者なら誰だって知っている単語だ。
(これなら!)
今回発現したスキルの使い方も何となく分かる。何年も学生に解説してきた内容だしイメージがしやすい。
何度も脇腹を突かれて激昂状態のデビルベア。懲りずにまた突進してくる。
躱すところまでは今まで通り行う。その後だ
「強制転位!」
何度も突いた左脇腹に向かって叫ぶ。
そして力いっぱい木の枝で突く。
さっきまでとは感触が全然違う。今回は完全に突き刺さったことが理解できた。
「やっと、仕留め切れた......」
どうやらデビルベアは即死したようだ。枝が突き刺さった角度的に、心臓を一突きというやつだろう。
身体に重くもたれかかっている屍を横に倒して観察してみる。
本当に大きい熊である。よく倒せたものだ。
ゆっくり全身を見ていたら疲れも相まって空腹感が増してきた。
「食えんことは......ないか」
送別会以来の食事にありつけそうだった。




