10話 次は村へ
「なにこれ......」
オガタの両手から白い光が漏れだした。
ステナが不思議そうにしているが説明は後回しにする。
「材料はなんとか再現できた。だけど、水道管の構造については専門外だからなぁ」
「その光ってなんなの?」
「今からこの筒を新しくするための材料だよ」
ステナはよく目を凝らしてオガタの手のひらを見つめる。
「まだ創造段階だから、物体としては見えないよ」
「そ、そうなんだ。よく分からないけど......」
「専門外とはいえ手を抜くのは心が引けるけど今回ばかりは仕方ないから、馴染みのあるシンプルな薄肉円筒に加工してみるか」
イメージが定まったところで別のスキルを発動する。
「強制転位」
するとオガタの手から漏れ出した光が次第に形を成していく。
「すごい、一瞬で筒が出来ちゃった......」
「こんなもんかな」
創造した1mほどの薄肉円筒を見てステナは驚く。
しかし――
「でもこれだけじゃ全然足りないよ?」
ステナの心配はもっともだ。しかし、オガタには考えがあった。
「大丈夫、今作ったのは所謂ベースみたいなものだから」
オガタは材料創造のスキルを取得した瞬間、その使用方法が頭に流れ込んで来たのを感じ取っていた。
その中に今回使えそうな方法があったのを思い出したのだ。
「創造複製」
そう唱えると、先ほど創造したニッケル製の薄肉円筒が急激に伸び始めた。
その勢いは止まらず、あっという間に溜池の周りを取り囲んでしまう。
「何が起きてるの......」
ステナは茫然とその光景を見つめるしかなかった。
そんなステナをよそにオガタは創造した筒の断面を持って溜池の方へ歩き出す。しかし、少し歩を進めてからステナの方を振り返った。
「そういえば溜池と水路はどこで繋がってるんだっけ?」
「あ......、今案内するね!」
先導してくれるステナの背中を追って、オガタは再び歩き始めた。
「ここだよ!」
「ここの金属も結構ガタがきてるな......」
溜池の隅に取水口があり、その出口に古い筒が繋げられていた。
(長い間使われてきたものらしいが、流石に百年以上も水にさらされていてこの程度で済んでいる理由が気になるな)
「どうしたの、オガタさん」
「いや、なんでもないよ。早速新しい筒を設置しようか」
「うん!」
ステナも手伝ってくれたおかげで思ったよりも簡単に新しい水路を溜池の取水口出口に設置することが出来た。
「手伝ってくれてありがとう、ステナ」
「お礼を言うのはこっちの方だよ。オガタさんは村の恩人だねっ」
「いや、まだ水路の上流を繋ぎ直しただけだから。ここから下流の農場まで水路を引っ張っていかないと何も解決しないよ」
「そっか、じゃあ早く村に戻らないと!」
ステナは強引にオガタの手を掴んで引っ張った。
「ちょっ、そんな慌てなくてもいいでしょ」
「あ、ごめん! でも早く皆に水を届けたいの......」
(まいったな、若いお嬢さんには勝てない)
今度はオガタの方からステナの手を掴んで歩き出した。
「え、なに、どういうことオガタさん」
「村に帰るんでしょ? 早く行こう」
ステナは満面の笑みでオガタに引っ張られていった。