98 パーティー前夜(2)
侯爵邸のサロンで、色々な話をした。
もうずっと行けていない侯爵領の事、お屋敷であった面白い話を聞いて、お返しに学園の事を話した。
「…………」
突然、パパが、スン……っと黙ってしまう。
その横顔を、ママが心配そうに見つめた。
「…………?」
え?
「どうしたの?何か、あったの?」
「…………」
そこで返事が無いところを見ると、何かあったに違いなかった。
思い詰めた顔。
なんで?
「お前、さ」
意を決したような、声。
「何?」
「…………」
そこでまた、黙ってしまったパパの代わりに、ママが口を開いた。
「チュチュ…………。あなた、好きな人って、居るの?」
「え…………?」
居る。
そう聞かれて、思い浮かぶ人はたった一人。
けど……。
あれだけこっぴどく振られてしまった。
恋人なわけでも、なんでもない。
けど、居ないなんて、言えるわけがなかった。
「…………勝手に、好きなだけの人なら、いる……けど…………。でも……それが、何?」
パパが、窓の外を眺めるように、視線を逸らし、絞り出すように声を出した。
「お前に……縁談の話が来てる」
「え?」
「結婚の申込みだ」
結婚???
え?
なにそれ。
どうして?
「これは、家同士の、正式な申し入れだ」
どうして?
アタシが貴族だから???
「基本的に、断らないレベルのやつで……」
”断らないレベル“???
何が?
家の格が???
「けど、オレはお前の気持ちに、添いたいと思ってる」
『添う』って、だって……先生とアタシには、未来なんてないのに。
こんな縁談の話を、断れるほどの何かなんてないのに。
例えば、恋人同士だったりすれば、結婚は恋人とすればいいって話になるのかもしれないけど。
今のアタシはそうじゃない。
ここで断ったら、結婚するアテはない。
気持ちを大事にしたいから一人で生きるなんて、そんな選択を選ばせてくれるような話じゃない。
ここには、アタシの気持ちしかない。
もうどんな形にもなれない、ただのアタシ一人が大事にするしかない、この気持ちしかないのに。
「何……それ…………!誰かを好きでいるだけなのもダメなの???アタシが……貴族の娘だから!?この家の一人娘だから!?アタシそんなことで……!知らない人と結婚なんて……」
ぼろぼろと涙がこぼれる。
ただ好きでいるだけなのも、許されないの?
そばで魔術師の弟子として一緒にいる未来も、許されないの???
「チュチュ……?」
ママが慌てて立ち上がる。
「だから話を」
チュチュを落ち着かせようとしたパパが、立ち上がったところで、それを避けるように、チュチュが立ち上がった。
後退りし、泣き濡れた目で両親を睨むように見ると、そのまま屋敷を飛び出した。
「あ、おい、チュチュ……!!」
後には、呆然と立ち尽くす夫婦の姿があった。
「あの子…………、まさか……」
「嘘だろ…………」
この国は、貴族の義務だの血の繋がりだのはさほど重要視されませんが、それでも上下関係もあれば政略結婚などもあるようです。お年頃の侯爵の娘なんかだと、ほっといてもらえるものでもないでしょう。




