84 青空の下で(1)
馬車がガタガタと音を立てながら、進んでいく。
チュチュは、その音を聞きながら、馬車に敷き詰めたクッションの中に寝転び、青い空を眺めていた。
「…………」
「……本当についてきてよかったの?」
すぐそばに座っていたエマの声に、すかさず「いいんだ」と答える。
馬車はヴァルを御者に、草原の中をゆるゆると走っていた。
なんとなく何かを察してくれたエマは、夏休みの帰省を2日ほど早くしてくれたし、チュチュも連れてきてくれた。
これから3人で、エマの実家に行く途中だ。
「懐かしいね」
エマがふふっと笑う。
「だね」
ヴァルとエマとチュチュ。
三人で馬車に乗った時のことを思い出す。
エマが学園に入る時のことだ。
あの頃から、たくさんのことが変わった。
もっとみんな小さかったし、誰が好きとか嫌いとか考えなくてよかった。
「あの頃に戻りたい〜〜〜〜〜〜」
「このまま8歳のチュチュに戻る?」
「…………そうすれば、先生のこと、好きじゃないでしょ」
「でも、もう師匠と弟子だったよね」
「…………そだね」
残念ながら、小さな頃に戻っても、先生とアタシ、師匠と弟子の関係は変わらない。
もし、今の感情を忘れて小さな頃に戻ったとしても、きっとまたアタシ、一緒にいれば、先生のことを好きになってしまう。
「ダメかぁ……」
ふんわりと、森を伝った風がチュチュに当たる。
涙で目が潤んでしまう。
「エマぁ」
エマの方に目をやると、エマがチュチュの頭をぐしぐしと撫でた。
「ふぇぇん」
「今日は宿泊になるから、一緒にお風呂入ろう?」
「うん……」
「で、一緒に寝よう」
「うん…………」
カポカポと馬は歩いた。
ヴァルは、御者台に座ったまま、振り向こうともしなかった。
通りすがりの町で、三人でショッピングをして、三人で夕食を食べた。
「また三人で寝られたらいいのにな〜〜〜〜〜」
チキンを頬張りながら、チュチュが言う。
「あはは」
エマが笑った。
ヴァルは、何かじっと考え込んだけれど、
「…………いや、ダメだろ」
と呟いた。
宿のベッドはとても大きなもので、5人くらいが横になっても余裕があるほどの大きさだった。
チュチュは、ごろりとその真ん中に横になる。
そのままごろごろと転がり、ベッドの端まで。
また逆に転がり、逆側のベッドの端まで辿り着いた。
「ベッドの調子はどうですか〜」
エマがぽさっと近くに腰掛ける。
「ふ〜か〜ふ〜か〜〜〜〜〜〜」
チュチュが、エマの顔を見た。
「アタシこそ、付いてきちゃってよかったの?ヴァルと、エマの家に行くところだったんでしょ?」
「送ってくれてるだけだよ。それも今回が初めてだからさ、チュチュがいて、きっとホッとしてるよ」
「ああ、そうなんだ」
チュチュの笑顔が、ふにゃっと歪んだ。
「アタシ……、ヴァルにまで気を遣われてるのかと思っちゃった……。可能性なんてないのに、勝手に期待して落ち込んでて…………」
歪んだチュチュの頬に、涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
「そんなんじゃ、ないよ」
エマが、静かにそう言った。
今回からしばらくは、3人でお出かけエピソードです。
次回は新キャラも登場〜。




