65 君が死んだ日(4)
突然始まった翼竜戦は、その日から数十日続いた。
シエロは、相変わらず城壁の上で、第二騎士団と一緒に居た。
遠くを見遣る。
二度ほど、キラキラと輝く翼竜を遠くに眺める事になったけれど、翼竜と対峙することは無かった。
どちらかと言えば、城壁の中、手薄になった町の混乱に乗じて懐を温めようとする不届きものの世話の方が主な仕事になった。
日々、町の壊滅の伝令が伝わる。
死傷者は何人に上るのか、もうわからなくなっていた。
……あの二人が、生きているのか死んでいるのかもわからない。
翼竜が、何処にいるのかも。
シエロは、城壁に座り込み、遠くを見ていた。
そんな怪物を見落とさないよう。
僕らは、この王都に住む何万もの人間の命を一手に請け負ったのだ。
それにしては長閑な。
現実離れした景色が広がっていた。
晴れた日も、風の強い日も。
不思議なことに、雨が降る日や曇った日はなかった。
けれど、それは幸いというには程遠く、どちらかと言えば自然が翼竜の味方をしているとしか思えなかった。
翼竜は、セラストリア王国だけでなく、周辺の国をも蹂躙してまわった。
新人の兵士達は回数の多すぎる見回りに辟易していたし、新人の魔術師達は終わらない雑用に疲れを見せていた。
雰囲気が重くならないよう町の子供達を受け入れては明るい話をさせていたが、兵士達の口数は少なくなるばかりで、知り合いの訃報に肩を落とす者も少なくはなかった。
その日も、嫌になるほど晴れた暖かな日だった。
「シエロさん」
声をかけられて、ふいと頭を上げる。
温かなスープを入れたカップを、新人の魔術師が差し出していた。
「……ありがとう」
春にしては青々とした空を見ながら、ジャガイモの味がするスープをすする。
「伝令!伝令!」
そこへ、一際大きな声の兵士が城壁へ上がってきた。
そこにいた全員の視線がそちらに注目する。
「翼竜の撃退に成功!」
え?
「かなりダメージを負わせたようで、山の向こうに飛んで行ったそうだ。引き続き警戒は必要だが、あれならもう来ないだろうという事だ」
「…………」
いつにないくらいの沈黙の後、周りの声がわっと沸いた。
「お……終わった……?」
終わったんだ。
やっと、戦いが終わったんだ。
翼竜は、巣に帰っていった。
また二百年ほどの時を、自分の巣で過ごすのだろうか。
「第二騎士団はもうそこまで戻ってきているそうです」
誰かが叫ぶのが聞こえた。
「あ…………」
勝ったんだ!
僕らはあの怪物に勝ったんだ!!
シエロは、沸き返る人の波を押しやり、潜り抜けて、城壁の階段を降りて行った。
兄弟子二人に会う為に。
翼竜は光を反射するため、晴れている日の方が都合がいいのです。精霊達は翼竜の為に晴れ続きにしています。
どちらが善だの悪だのという話ではなく、そういう存在なのです。
次回、過去編ラスト〜!




