63 君が死んだ日(2)
その日も、いつもと同じような日だった。
大魔術師の部屋には、大魔術師と弟子たち3人が集って、いつもと同じような研究をしていた。
それほど、いつも通りの日だった。
その日の昼過ぎ、城がいつになく騒がしい事に最初に気付いたのは、ランドルフだった。
「誰か……、叫んでる」
その呟きは決して大きいものではなかったけれど、その部屋にいた全員が顔を上げた。
「…………」
確かに、遠く……、とても遠くの方で、誰かが叫んでいる。
ランドルフが、いつになくしっかりとした足取りで、扉へ向かう。
それに付き従うように、ジークが後に続いた。
扉を開けると、大きな声が、部屋の中に飛び込んできた。
「伝令!伝令!」
扉を開けたまま、二人が飛び出すと、部屋の中まで声が聞こえた。
「殿下!!」
「どうした?」
「翼竜です。翼竜が出ました」
「…………」
その声はハッキリと聞こえた。
その場にいた全員が、声を失った。
大魔術師が立ち上がり、ランドルフ達二人と合流して王の元へと急ぐ。
シエロも、その後へ続いた。
杖を握る手に、ぎゅっと力が入る。
正直、耳を疑った。
確かに翼竜は、あと数十年で降りてくると言われていた。
それだって、どう受け止めていいかわからない話だったのに。
だって、その存在を覚えてる人間なんていない。
誰もまともに見たこともない。
そんな、物語じみた何かなんて、信じていない人も多かった。
……自分は関係ないと、タカを括る人も。
けど、この状況はなんだ。
騒がしく人々は走り回り、そこここで誰かが叫ぶ声が聞こえる。
本当に居たのかという驚きと、まだ夢でもみているんじゃないかという拒絶と。
色々なものがないまぜになり、また杖を持つ手に力が入る。
会議室に入ると、大勢の人間が大きなテーブルの周りに集まっていた。
「父上」
ジークが、王の側近である父に声をかける。
「ああ。翼竜が出た。大陸の端、西の港町だ。町は壊滅だと伝わっている」
「壊滅って……」
「急ぎ、騎士団を送ったが、全てが混乱している。なんせ、予兆も何もなかったからな」
「…………」
テーブルの上に、広げられた地図。
王がそれぞれの部隊に仕事を振り分け、大勢が部屋を出入りする。
「伝令!伝令!」
部屋の外で、また新しい情報を持つ兵が、駆けずり回っている。
……これが戦いなのか。
これが、戦いだっていうのか。
こうしている間にも、本の中で見た怪物が、何処かで人を殺しているかもしれないのか。
頭の中を整理する暇もないまま、事態がどんどん進んでいく。
口を挟む余裕もなく、大魔術師たちは、バラバラの部隊に配属になった。
「どうして……」
杖を握る手に、力が入る。
この物語のボスであり、精霊たちがこぞって持ち上げる存在といえば、やはり翼竜なのです。




