62 君が死んだ日(1)
シエロが大魔術師の弟子になってから、2年が経った。
魔術も以前より出来るようになった。
ちょっとしたいざこざや、ちょっとした成長を経て、大魔術師の弟子達は、だんだんと大人になっていた。
ガチャ。
シエロが大魔術師の部屋の扉を開ける。
大魔術師は不在。
ランドルフはデスクで、何やら書類作業をしていた。
ソファの上には相変わらずジークが寝っ転がり、その側にはなぜかキリアンがいて、ソファの周りをチョロチョロと動き回っている。
「聞けよ!ジーク!オレの!騎士団長様のオレの声を!!」
先日騎士団長に就任したばかりなので、ジークに自慢しにきたんだろう。
当のジークは、素知らぬ顔で魔術書に向かっている。
いつも通り。
ジークも相変わらずなら、キリアンも相変わらずだ。
そこへランドルフがちょこちょことやって来て、
「コンスタン……何やってるのさ……」
と、おどおどと話しかけた。
なんだかんだで、キリアンはランドルフには勝てないので、そんなランドルフにもにへっと笑ってみせる。
けど、ランドルフの気弱な所も相変わらずだった。
ランドルフがおどおどしてしまったので、シエロは仕方がないとばかりの呆れた顔をした。
「コンスタン、君さ、自慢するならもっと他にいるんじゃないの?さっき中庭にオリヴィア嬢が居たよ」
フフン、と言いながら声をかけると、キリアンはとうとう押し黙った。
「しょ、しょうがねぇなぁ」
よくわからない言葉を残して、キリアンが部屋を出て行く。
「全く。何しに来たの、アイツ」
呆れた声を出すと、ジークがそこでやっと顔を上げた。
「……ったく。この間から、顔合わせるとアレだよ」
「よっぽど嬉しかったんだね。……オリヴィア嬢と上手くいったの……」
ジークは、そこで疲れたように頬杖をついた。
相変わらずだった。
毎日が、騒がしく、それでいて案外と平和に過ぎて行く。
気になる事があるとすれば……、ジークに魔術で勝てていない事、だ。
弟子入りしてから2年経った。
確かにジークはすごい魔術師だけど、これほどだなんて。
出会い頭、勝てないと思わされてから、どんな場面でも勝てる自信は削がれるばかりだ。
「ジーク、」
思わず声をかける。
思わず声をかけてしまった自分に、少なからずびっくりした。
けど、それだけ大事な事なんだ。
僕にとっては。
真っ直ぐ、ジークの顔を見た。
「僕とも勝負しよう」
「……ん?」
その真剣さが伝わったのか、ジークはからかうようなことは何も言わなかった。
「僕は、君を追い抜かせるよ」
そして出来るだけ、偉そうに振る舞った。
小さい頃から、天才と言われて育った。
魔術の研究も、練習も、怠ったことなんてない。
けど、この男に、勝てるイメージはまだ持てない。
なぜ?生まれ持った才能?
けど、敗北感と共に、いつからか、目標になった。
尊敬している。
同じ場所に立ちたいと思う。
追い抜かしてやろうと思う。
ジークは、そんなシエロの顔を真っ直ぐに見て、珍しく、面白そうに笑った。
「楽しみにしてるよ」
過去編、ラストエピソードの始まりです。
12歳。シエロくんの過去といえば、これですね。