61 認めてやったわけじゃない(4)
翌日は、とても空気の澄んだ晴れた日だった。
シエロは、ジークが起きる前に起き出して、部屋を抜け出した。
いつまでも他人がいる部屋にいるわけにはいかない。
そう思った。
廊下の窓から、町を見る。
低い建築物が多いこの町では、2階からでも比較的遠くまで町を見る事ができた。
じっくりみると、長閑でいい町だ。
夕食も美味しかった。
昨日と同じように、言葉もなく朝食を食べると、すぐに視察に入る。
今日のほとんどは宿の周囲についてだ。
宿のある町は、小さいながらも豊かさのある綺麗な町だった。
畑が多い。
どうやら川魚が採れるようなので、食事に困らない事が、大魔術師がここに宿を作った理由かもしれないと思えた。
「大魔術師様が、調味料を送ってくださるって聞いたんだけども」
ふと、そばで話していた案内人と料理人との会話が聞こえる。
「いつだったかなぁ」
「胡椒と醤油が必要なんだが」
「丁度いいから今聞いてみるか」
その内容なら、僕でもわかる。
シエロは、そういった予定についても、書類に書いてあったのを思い出していた。
昨日の夜、読んだばかりのものだ。
ジークは丁度、他の確認をしているし。
「あ、僕、」
話しかけた所で、二人は、シエロを一瞥し、ジークの方に向き直った。
「あ…………」
そうだった。
忘れかけていた。
僕は、何処に行っても邪魔者なんだ。
ただでさえ、こんな10歳の子供に質問して、まともな返事が返ってくるなんて思えないだろう。
気を取り直し、確認を始めようとした時、後ろのジークの声が聞こえた。
「ああ、その事なら、シエロに聞いてもらえますか」
「…………」
え?
……まったく、ジークは余計な事を……。
別にいいのに。
そんな気を使わなくていいのに。
本当に、余計なお世話だった。
けど……。
一つ教えれば、またその後も会話ができるようになり、それはそれで楽しかった。
書類は一晩かけてかなり読み込んであったので、それほど困ることもなかった。
一息ついた時、ジークがニッと笑うので、その呑気な顔を睨みつける。
「ほんと……余計なお世話なんだよ」
出来るだけツンとした声を出す。
「ふーん?」
それでもジークが意味ありげな笑みを浮かべるから。
それ以上、何も言えなくなってしまった。
いつもつまらなそうにしてる癖に、魔術も出来て、面倒見もいい。
ジークはそんな奴だった。
「んじゃ、帰るか」
ジークはそう言うと、シエロを振り返ることもなく、馬車へと向かった。
別に、認めてやったわけじゃない。
尊敬してるわけじゃない。
ただ、こんな奴だけど、こんな奴が兄弟子でもいいやと思っただけだ。
だって、こんな奴なら。
こんな、魔術も出来る奴なら。
僕だって、追い抜かしがいがあるというものだ。
さて、次回からの数話は、シエロくん過去編のラストエピソードになります。
シエロくんの過去といえば、そう、アレですね。