59 認めてやったわけじゃない(2)
くるくると辺りを見回す。
一際大きく、目につくのが、部屋の真ん中にあるベッドだ。
どう見ても一人用ではない。
4、5人寝られるほどの大きなベッドだ。
「…………」
二人で沈黙し、変な表情を作る。
「えっと……今日は一人部屋じゃないんですか?」
案内人の方を振り返ると、案内人が複雑な、それでいて申し訳なさそうな顔をした。
「他の部屋は整備しきれておりませんでして……。本日ご用意できたのが、こちらのお部屋のみになります」
「…………」
また二人、沈黙したけれど、先に諦めたのはジークの方だった。
「まあいいか」
え…………。
そんな……。
困惑する。
宿なんかには大人数で泊まる大部屋があるとは聞いたことがあったけれど、実際に誰かと旅行になど行ったことはない。
……他人と同じ部屋だなんて。
とはいえ、ここで文句を言うわけにもいかず、了承するしかなかった。
「フゥ……」
頬杖をついて椅子に座ると、目の前にお茶とお茶菓子が出された。
……饅頭……?
「こちらは、宿泊の皆様にお出ししている温泉饅頭です」
「温泉饅頭?」
声が明るくならないように気をつける。
「温泉水を使用した饅頭です。美味しいですよ」
「へぇ。じゃあもらうよ」
部屋を見回していたジークも、こちらに寄ってきたところだった。
はぐ。
「おいし……!」
衝動でジークの方を向くと、一口で食べきったジークが、ニヤニヤとこっちを見ていたところだった。
「…………なんだよ」
「なんでも」
部屋の中をざっと回る。
「本日、大浴場をご用意しております」
「…………」
まじまじと案内人の顔を見る。
「え?なんだって?」
カン、とシエロの杖の先が音を立てた。
「大きなお風呂ですよ。温泉です」
「…………」
他人と風呂は本当に無理だ。
……そんな無防備な状態で……、何が起こるかわからないじゃないか。
冷や汗をかくシエロに気付いていたのかいないのか、ジークが、
「先、行ってこいよ」
とシエロに声をかけた。
ふっと顔を上げると同時に、自分が非常に情け無い顔になっていることに思い当たる。
……ダメだ。
こんな所で、弱い顔を見せちゃ。
……ジークなんかに。
「じゃあ、行ってくるよ」
出来る限り、偉そうに声を出した。
「はぁ……」
ため息を吐きながら、大浴場へ。
杖を握ったまま、浴槽に入った。
ドボン、と大きな音がする。
「あ〜〜〜〜〜〜」
喚きながら、水面に飛び込む。
他人が怖いわけじゃない。
ただ、嫌なだけだ。
近付くのも。
近付かれるのも。
同じ部屋に。同じ風呂に。
考えただけで、顔が強張っていくのが分かる。
泣きたくなる。
「なんでこんなとこ……」
けど。
こんな広い風呂は、初めてだ。
家にいたときは、部屋についている一人用の風呂に、こぢんまりと収まっていた。
ただ一人、そこでじっとしていた。
風呂とは、そういうものだった。
ただじっと湯に浸かり、暫くすると出る。
それだけ。
入る理由も分からなかった。
それを思い出して、泣きたくなる。
ただ……、
「これだけ広いと……気分はいいな」
シエロくんの杖は、水に負けたりしません!まあ、水の魔術師が持つ杖ですしね。




