53 新しい場所(3)
水の渦が落ち着いた時、シエロの手の中には、手のひら大のクマの氷細工が置かれていた。
「……え」
ジークが、そして、ランドルフが、大魔術師が、驚きに目を見張る。
「ほうほうほう」
大魔術師は面白そうにシエロの方へ近付いてきた。
「水を氷にできるのか……」
ジークが呟いた。
これこそが、シエロが開発した魔術だった。
もし一人で生きていかないといけなくなった時、この氷細工を売ってお金を稼ごうと思ったのだ。
この国には、幸い、水の魔術を扱える人間は多くとも、氷にできる人間は、シエロが知る限りではいない。
スッとした顔で、見下した顔を作る。
「派手だからって、いいものじゃないだろ?繊細さがないとね」
「こいつ……」
ジークが呆れた顔をした。
大魔術師が、関心を持ってそのクマの氷細工をそっと手で触る。
「綺麗なものだな」
そう言われ、ジークに向かってニッと笑うと、ジークが悔しそうな顔をした。
「こんのガキ……」
やっぱり、たいしたことないんだ。この人達は。
「なんだったら、そのレベルに合わせてあげてもいいよ。僕と、対決する?」
ジークの顔を下から見上げると、
「し・な・い」
とジークが大きく口を動かしながら言う。
「じゃあ、こっちからいくよ!」
杖を、構える。
「天上への贄」
シエロが唱えると、杖の上に魔法陣が現れ、弾けるように消える。
地面に水が湧きだすと、キン、という音と共に、ジークの目の前に、天へ向かって尖った氷柱が突き上げた。
「うおっ」
ジークが後ろへ飛び退る。
「ハッ……」
ジークが、吐き捨てるように笑った。
「兄弟子に攻撃しようなんて、生意気なガキだな」
「こんな子供の攻撃が当たるようじゃ、魔術師なんて辞めた方がいいんじゃないの?」
「炎天」
ジークが唱えると、手に持った短剣の前に魔法陣が現れ、弾けるように消える。
差し出した手のひらの先に、大きな炎の柱が出現する。
そのまま、手を握り込むと、炎が氷柱を取り込み、もともとそこに氷柱なんてなかったかのように、蒸発するように氷柱が消えてしまった。
「揺蕩い」
続けて、ジークが静かに唱えた。
ジークの短剣の前に魔法陣が現れ、そして弾けるように消える。
とぷん、と何処かで小さな音がしたかと思うと、ジークとシエロの中心あたりから、炎の色をした波打つ地面が、驚く暇もなくどんどん広がっていく。
それは紛れもない、炎でできた海だ。
シエロの足元を過ぎる。
「あ……つっ!!」
そんな……!こんな速さ、こんな量の炎、対応できない……!
少しでも動けば、炎の海に飲み込まれる。
まさか、本当に、殺しにくるなんて……!
それでも、足を舐めるように近付く炎に、足がぐらつく。
「…………!」
シエロは、バランスを崩し、後ろへと倒れてしまった。
いつもの二人の最初の交流です。シエロくんが10歳、ジークが18歳。




