51 新しい場所(1)
顎を上げて、少年を見下ろす。
結局僕は、異端でしかないんだ。
「先生、僕はこれで、失礼しますね」
先生の方にもそのままの視線を向ける。
「はい。今日は、ごめんなさいね」
その言葉に、そっけなく、
「いいえ」
と返し、後ろを向いて、城へ戻った。
誰だって同じだった。
魔術を学ぶ人達の中でさえも、僕は仲間ではなかった。
異端者を見る目。
興味本位の目。
憐れみの目。
僕だって、そんな人間達に媚びへつらうために生まれてきたんじゃない。
みんな、魔術だって下手なくせに。
話なんて聞いてくれないくせに。
初めから、偏見の目でしか見られることがないんだ。
“貴族”だから。“魔術が上手い”から。
それ以外の僕なんて居ないのに。
じゃあ、僕だからダメだって言うのか。
友達にはなれないって。
仲良くできないって。
勝手に僕の気持ちまで決めつけて。
「…………」
翌日は、朝早い時間に、大魔術師に呼び出された。
それは、城の一室。
大魔術師の作業部屋として与えられている部屋だった。
図書館のように、天井は高く広い部屋で、まずテーブルを囲う大きなソファが目に入る。
シエロを連れて、部屋に入った大魔術師は、「オホン」と一つ咳払いをした。
部屋の奥から小走りで出てきた、茶色の髪を目元まで伸ばしている青年が一人。
そして、ソファの上で沈黙を守っている、長い黒髪を乱雑に纏めた青年が一人。
どちらも10代後半といったところだろうか。
ソファの青年がやおら起き上がる。
けれど、立ち上がるでもなく、ソファの上でつまらなさそうな顔をしている。
もう一人、小走りで走ってきた方の青年もなんだか及び腰だ。
……いくら、上下関係があるとしたって、これは新入りに失礼なんじゃないか。
「二人に聞いてもらいたい。今日から新しく、弟子が入ることになった」
二人と大魔術師の視線が、シエロに注がれた。
「……シエロ・ロサです。よろしく」
「……ああ。よろしく」
ソファの上からのそっけない挨拶。
弟子は二人。
王太子とその側近だと聞いたけれど。
じゃあ、この、ソファの上の態度のでかいやつが王太子ってことか……?
小走りで来た気の弱そうな青年と交互に見比べる。
すると、ソファの上の青年が、
「俺はジークヴァルト・シュバルツ」
と、自己紹介をした。
…………え?
こっちが、シュバルツ伯爵の息子だっていうのか?
気弱そうな方の青年が、おずおずと声を出す。
「僕は、ランドルフ・セラストリアだ。よろしく」
前髪が、目をまるっきり隠してしまっていて表情が読めない。けれど、口角が上がったことで、どうやら微笑んだらしいということがわかった。
……城内でも見かけたことがないと思っていたけれど、これじゃあ王太子なんだかなんなんだかわからないな。
「ここでは、一人にひとつ、デスクが割り当てられるんだ。あなたはこっちだよ」
と、ランドルフがデスクに案内してくれる。
……そんな世話まで焼いてくれるし。
王太子なんだから、それはやっちゃダメだろ……。
正直、呆れる。
国の金を使って、遊んでるだけなんじゃないのか?
大魔術師なんて言っても、どれだけのものかはわからないな。
シエロはデスクに着き、ため息を吐いた。
ここで攻略対象の二人が登場です!
もちろんイケメンですよ。二人とも。