45 シエロ・ロサ(6)
何が悪かったの?
僕は何をしてしまったの。
僕のどこがいけなかったの。
悪いところがあるなら直すから。
誰か教えてよ。
その日から、シエロは誰とも話さなくなった。
自らそう決めたわけじゃない。
誰も、会話する相手が居なかったのだ。
今まで、勉強をすることで褒められてきたから、また勉強をすればいいんじゃないかと、シエロはそう思った。
そう思うしかなかった。
それしか、出来ることがなかった。
もっと魔術を上手くなって。
誰も文句が言えない程になれば、きっとまた、みんなが褒めてくれる。
希望を捨てることは出来なかった。
けれど、淡々と仕事をこなす、何を考えているのかわからないメイド達にも疑心暗鬼になり、メイド達の仕事も最低限だけに留めた。
机に向かう。
魔術の本。
魔術の本。
魔術の本。
これじゃ、本が、デスクの上に広げきれない……。
もう1冊の分厚い本を広げ、途方に暮れた。
ふと、床を見る。
床には、まだスペースが沢山あった。
1冊を広げ、2冊を広げ。
そうこうしているうちに、部屋の床は、広げた魔術本だらけになった。
床に座り込む。
これで、勉強がしやすい。
「…………」
そうして、シエロは、一つの部屋の中に引き篭もった。
時々魔術の道具を買いに、人目を忍んで外に出たくらいだ。
あまり話すこともなく、ただ魔術の研究だけを続けた。
かなりの魔術が使えるようになった。
食事は部屋で、一人済ませた。
入浴は、メイドの方で入らせようとしているようで、毎日必ず準備をしに来た。
掃除は、シエロがいない間に終わらせているようだった。
日常とも言えない時間が、淡々と過ぎていった。
まともに人間と関わり合うのを諦めた。
大人になってから、解ったこともある。
異国の王族とどんな問題となったのか。
父や母が、誰に何と言われたのか。
使用人達が、父や母だけでなく、シエロも気遣った結果、ああなってしまったということも。
病んでしまった母にシエロを会わせる事だけでなく、小さなシエロにキツく当たるようになった母にシエロを会わせる事をも避けたのだ。
シエロが出来る限り、傷付かないように。
しかし、元々、あまり使用人とは交流が無かったせいで、気持ちはすれ違ってしまった。
家族の誰もが、シエロを嫌いになったわけでも、追いやりたいと思ったわけでもなかった。
誰もがシエロを愛し、そして心配していた。
だからといって、周りの人達にそんな気持ちがあったことがわかった所で、虚無を抱えて過ごした時間は戻っては来ない。
捨ててしまった気持ちも。
諦めてしまったものも。
もう取り戻せはしなかった。
シエロは大人になってからも公爵家の息子であることに変わりはなかったけれど、家を出てからは、公爵邸に足を踏み入れることはなかった。
妹だけは、大人になってからも、手紙が届き、時々会いに来ては近況報告をしていった。
きっと、一緒に暮らしたことなど覚えていないだろうに。
妹は、シエロも家族の一員なのだと、伝える事を辞めなかった。
ここでひと段落、ではありますが、まだ次回もシエロくんの過去編、続きます!




