41 シエロ・ロサ(2)
その時だった。
「あら」
婚約者候補の女の子が、シエロの杖を見て言った。
「……そんなものを持っていくんですね」
「うん、これは僕の宝物なんです。これがないと魔術が使えなくて。こんなに透明度が高い上に、大きな宝玉はなかなかないんです。だから、杖も、こんなに大きくなってしまったけど」
「…………」
冷たい、沈黙。
どうしてそんな空気になったのかわからず、場を和ませるためになんとか笑顔を作る。
「本当に、魔術を使うんですね。噂通り」
どんな噂が……と、その言葉に、その言葉が持つ棘に、引っ掛かりを覚えたところで、女の子が、シエロに向かい合って、静かに言う。
「気持ち悪い」
「え…………?」
一瞬、何を言われたのか理解できずに、婚約者候補の顔をぼんやりと眺めた。
聞き間違い?
だって、これから僕と、結婚しようとしているその人が、そんなこと言うはずないから。
けれど、目の前の現実は、あっさりとシエロを裏切った。
「気持ち悪い」
そう言葉にする婚約者候補の顔には、否定でも憎しみでもなく、ただ微笑みだけが浮かぶ。
呆然とするシエロのわきを通り抜け、婚約者候補は先程まで居たテーブルまで戻って行った。
「お父様、お母様」
どうしたの?
何を言うの?
「わたくし、魔術を使う人なんて何をされるか怖くて、結婚出来ません」
テーブルのあたりが、騒つくのが聞こえた。
女の子の名を不安そうに呼ぶ、何人かの声。
宥めるような声。
「この結婚を決めなければ……」
「けれど、こんな遊びの場でまで魔術を使おうとするなんて」
「お茶の席で抜き身の剣を持っているのと変わりません」
「少し落ち着いて」
けれど、そのまま席に座ることもなく、こちらに戻ってくることもなく、婚約者候補の一行は、あっという間に帰って行ってしまった。
「これほど盛大な歓迎をいただきまして、とても光栄でしたわ」
そんな挨拶と、最上の笑顔を残して。
そんな騒ぎの中で、ただシエロは、呆然と見送ることだけしか出来なかった。
だって、魔術を使えるのはすごいことなんだ。
みんな褒めてくれるんだ。
いつかこの国を背負って立つ人間になるんだ。
そのために沢山勉強だってしていて、王城にだって足を運んでいて。
どうして?
どこが悪かったの?
僕は何かしてしまったの?
大量に残ったケーキの山と、なんだか重くなってしまった空気の中で。
痛いくらいに強く、母が僕とブランカの手を引き屋敷に帰っていく。
「大丈夫だよ、母様。あの子だって、突然結婚だなんて言われて、混乱してしまったのかもしれないし」
「そうね」
こちらを向いて笑った母の笑顔は、笑顔というには引きつりすぎた。
顔面蒼白、上の空。
無理に笑うのもやっとなのがわかった。
母は泣きそうなブランカに気付き、その涙を押し込めるように更に手を強く握った。
僕だって泣きたかった。
こうなってしまいましたが、別に性悪な子というわけではないです。
文化の違いとか、年齢的なこととか、まあ色々あるよね。




