42 シエロ・ロサ(3)
その日の食事の時間は、まるで地獄だった。
家を出ている長兄以外は、夕食の時間に食堂に揃っていた。
いつもなら父が、今日はどんなことがあったのか聞いてくれていた。
けれど今日は、そこに居る全員が黙りこくっている。
婚約が決まるはずの、その日の夜の食事は、悲しいことにいつもより豪華だった。
メニューこそいつも通りだけれど、肉の質、野菜の種類、朝から作っていたはずのデザートからはご馳走の雰囲気は消せていない。
こんなことになって、厨房はさぞてんてこ舞いだっただろう。
それを思うと泣きたくなる。
噛めば噛むほど、味のしない肉。
パンを口に入れるのにも、その日は一苦労で。
早く、この時間が終わってくれればいいと、そう思った。
そう。明日になれば、また昨日と同じ日が来るのだから。
父も母も笑っていて、兄も妹もご機嫌で。
そんな日が、また明日になったら来るのだから。
あんなことになってしまったから、今日は我慢だ。
今日だけは。
けれど、翌日も、食事の席は誰も言葉を発するような雰囲気ではなかった。
翌日だけじゃない。
その次の日も。
その次の日も。
その雰囲気が怖くなり、夜眠ることも怖くなった。
夜眠ると、必ず次の日の朝がやって来るから。
「…………」
どんよりと曇った日の朝のことだった。
朝だか夜だかわからないくらい暗い部屋の中で、自分を抑えつけるように魔術書を読んでいた。
コンコン。
部屋の扉が叩かれる。
「……はい」
返事をすると、メイドが入って来る。
「お手紙が、届いております」
そう静かに言って、シエロに手紙を渡してきた。
見覚えのない家紋。
何も言わずにピリピリと封を破る。
「え……?」
手紙は、この間の婚約者候補の家からだった。
そこには、
『婚約を締結する』
と書いてある。
シンプルな、それだけの手紙。
あんな状況で……僕と結婚…………?
どうして……。
どうして、と思いながらも、心の中は雲が晴れるようだった。
きちんと婚約が決まった。
それなら、母様も父様も、また笑顔になってくれるはず。
その日の夕食は、久しぶりに明るい顔で、食堂へ足を運ぶ。
大きな扉が開かれる。
けれど、その日も、誰も一言も話さないままに、食事が始まった。
父様も母様も、まだ婚約が決まったことを知らないのかもしれない。
二人とも、お忙しい方だから。
「ねえ、母様」
「どうしたの?」
明るい顔を作る。
「さっき、婚約が決まったって手紙が来て……」
「そうね」
え…………?
妙な、違和感。
顔を合わせているのに、言葉を交わしているのに、目が合っていない違和感。
母の固まった笑顔。
まるで……、まるで、シエロの向こう側と喋っているような、違和感。
婚約が決まったことを、知っていたの?
じゃあ、どうしてそんな顔してるの?
婚約が決まるのは嫌だったの?
僕は何をしてしまったの?
僕のどこがいけなかったの。
公爵邸の料理人は3人居ます。一人は料理長、一人は見習いで、一人はパティシエです。




