39 初恋の行方
「終わったああああああああああ」
階段を駆け上りながら、叫ぶ。
こんなつもりじゃなかった。言っちゃいけなかった。
一度フラれて、アタシの方が気持ち押し付けてるって、わかってたはずなのに。
先生きっと困ってた。
困ってたのにきっと、いい先生として接しようとしてくれてた。
なのに。
自分が、自分の気持ちを抑えられないからって。
あんな、わがまま、言ってしまうなんて。
このままの状態で、大人になれば、もしかしたら……好きになってくれることだって、あったかもしれないのに。
「絶対なくなっちゃった!!こんなの最悪!!」
涙が止まらない。
「うぁ…………」
涙で前もろくに見えないまま階段を駆け上がる。
すると、後ろから、
「チュチュ……!」
と声をかけられた。
「あっ……」
階段を踏み外す。
後ろへ飛び上がったところで、仰向けのまま声の主の腕の中へ。
チュチュが目をパチパチとしばたたかせ、顔を確認すると、天井を背景に、そこに居たのはメンテだった。
「メン……テ……」
「ごめん。危ないよ、って言おうとしたんだけど、ぼくの声で転ばせちゃったね」
そのメンテのいつも通りの声を聞いて、また、涙がぼろぼろとこぼれた。
「アタシの初恋……終わっちゃったぁ…………」
「…………」
するとメンテは、そのままチュチュの腕を引き摺るように、メンテの部屋まで引っ張って行った。
「その状態じゃ不安だから、一旦こっちに」
そのままずるずると引き摺られ、気づけばチュチュは、メンテの部屋の床に座り込んでいた。
床といっても、生きている木でできた学園内の床は、ほのかに温かい。
チュチュは、シュンとしてメンテの顔を見上げた。
「…………」
おどおどと視線を泳がせた挙句、結局、説明を始める。
「先生に……、そんな顔されると諦められないって……わがまま言っちゃった。嫌いなら嫌いって言って、って。アタシとちゃんと向き合って、って」
ドサっと床に寝転ぶ。
言葉にすると、本当に何を言っているのだかという感じだ。
……そりゃあ、好きじゃないだろう。
フラれてしまったんだから。
けど、それだけじゃ収まらない表情に見えたから、つい。
けど、あの表情も、勘違いなんだよ、きっと。
期待しすぎちゃったから、幻覚を見たんだよ。
メンテは一つため息を吐いて、お風呂場の方へ行くと、水で濡らしたタオルを持って戻ってきた。
チュチュに目を冷やすように渡すと、床に腰を下ろす。
転がるチュチュからは、メンテの顔は見えない位置にあった。
ということは、メンテもチュチュの顔を見ていないということだ。
今は、その方が落ち着いた。
そっとタオルを目元に当てる。
「もうフラれた後だっていうのに。アタシ、自分が嫌になる」
「うん、でも。そんな簡単に諦められるものでもないだろ。それがどんなことであろうと、正面から突き進むチュチュは、ある意味偉いと思うよ」
「ある意味……」
知っている限りでは、メンテは嘘をついたりしない。
正直すぎてダメージを負うこともあるけれど、その分さっぱりしていて話しやすい面もある。
「ありがと。少し、落ち着いた」
自室へ戻ると、当たり前のように、シエログッズに囲まれる。
「うぐぐぅ〜〜〜〜」
シエロのダイカットクッションに顔を埋めた。
「うわああああああああん!!先生大好きーーーーーーー!!!!!」
さて、次回からしばらくはシエロくんのお話です。