表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/110

31 お仕事しましょ(6)

 チュチュが気付くと、泊まっていた宿のベッドの上だった。


 窓の外は明るくて、また朝が来たことがわかった。

 もしかしたら、もうお昼かもしれない暖かさだ。

 横を見ると、椅子に座ったシエロが、杖に寄りかかる形で眠っていた。


「せん……せ……?」


 思わず声をかけると、金色の睫毛が揺らいで、目を開けた。

「やあ、チュチュ」


 また、怒られるだろうか。

 無茶をしてこんなことになってしまって。


「…………」


 じっと、押し黙ってシエロを見ていると、

「今回はがんばったね」

 と声をかけてくれた。


「え?でも、力不足で。こんなことになっちゃって」

「32箇所の魔術を意識するなんてこと、普通はやらないよ。それも、消えてしまえば、命が危ないという状況で」

「……そっか」


 天井を見上げる。

 綺麗な木の天井が見える。

 やっと、落ち着いた気がする。


「もうお昼なんだ。軽い食事を準備するよ。できれば明日には学園に帰ろうかと思うんだけど、帰れるかい?」


 明日、学園に。

 正直、もう少しこのままでいたい。

 シエロがここまで側にいてくれるなんて、滅多にないことだから。

 二人で出掛けることなんて、滅多にないことだから。


 ……きっと、ここまで運んでくれたのも先生なんだろうな。

 もう少し意識を保っていたら、運んでくれるところを覚えていられたのに。


 でも、明日帰れるか、と聞かれると、答えはもちろん、

「うん。大丈夫、帰れるよ」

 これしかない。


 実際、疲れ自体はもうほとんど取れているのだから。


 それからは、シエロが持ってきてくれた温かなコーンスープを飲んで、ゆっくりとした時間を過ごした。

 夜には、普通に夕食を食べることができるようになっていた。

 みんなで食べた忙しない夕食とは違い、楽しさだけで食べることができた。


 目の前に先生がいる……。


 二人で食事を食べる時間は、なかなか特別だ。

 ぽやっとしないように、気を引き締める。


「どうしたの?チュチュ。変な顔になってるけど、まだ調子悪い?」

 町の中でもお洒落な雰囲気を放つ食堂だけれど、シエロの丁寧なナイフ捌きは、その食堂でも浮いてしまうほどの高貴さを放っている。

「ううん。ちゃんとしたご飯久しぶりだから、力入っちゃって」

 照れないように時々真顔になったり妙な笑顔になってるなんて、言えない。


 翌日、二人で幌馬車に乗ったのは、すでに昼過ぎだった。

 もう大丈夫だって言ったのに、こんな時間になったのは、気を使ってくれたに違いなかった。

 早くブランカの無事を確認したいだろうに。


 御者台で、シエロの隣に座る。


「お土産買えなかったな」

 小さく呟いた。

 アタシが倒れちゃったから。

 いつもみんなは、買ってきてくれるのに。

「気にしない」

 そう言いながら、シエロはチュチュの頭を小突く。

「君は、がんばった」


 胸が、きゅっとなる。


 泣きそうになる。


 大好き。


 ……って言いたいんだけど、迷惑かもしれないから我慢、する。


 すっかり潤んだ目で、シエロをじっと見ていると、その視線を感じてシエロが前を向いたまま、困ったようにクスリと笑った。

お仕事エピソードはここまでです。

次回からはまたいつものほのぼのラブコメな感じで行きます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ