21 デートしようよ(5)
や……、やっぱり、デートじゃなかった…………?
え、恋人同士じゃなかったっけ???
もしかして私の思い込み???
どうしよう……。泣きそう……。
そこで、ヴァルが小さく、口を開いた。
「ご、めん…………」
「え…………」
ごめんて……なんで謝るの…………。
ヴァルのことがよく見えなくなって。
空がよく見えなくなって。
木の騒めきだけが聞こえて。
泣かないように、その音だけに集中して。
目の前が真っ白になって行く中、ヴァルが頬に触れたことで現実に返った。
「え?」
すりすりと頬を撫でられ、頭を撫でられる。
「俺、そういう区別したことなくて……」
そう言いながら、ヴァルはなんだか苦い顔をした。
「…………」
「エマと居られれば、場所も目的も、なんだって関係ないから」
……私が、居れば……?
「じゃあ……、最上階で話してる時も、みんなと出掛ける時も、……こうやって二人で出掛ける時も……」
「そ」
言いながらヴァルが、自虐的に笑う。
「一度死んでるからかな。どんな瞬間だって同じように大事で。お前と居られればなんでもいいと思ってしまって。……もっと気遣わないといけないことも、きっとあるのに」
確かめるように、エマに触れていく。
額に。
鼻に。
「そりゃあ、エマと二人きりなら、その方がいいけどさ」
そして、ずるい顔をする。
そんな顔をされたら、私はどこまでも落ちていくしかないのに。
「いいよ。私だって、二人で居たかっただけだし。私だって一緒にいる時間は全部大事だし。別に特別扱いしてほしいわけでも、お洒落してほしいわけでもないから」
エマが微笑むと、ヴァルが抱き締めてきた。
ヴァルの匂い。
包まれる安心感と、包まれる緊張感とをもたらす甘さ。
心臓に悪すぎる。
誰にも咎められることのないこんな場所で。
こんな扱いをされると、私だってヴァルを独り占めしたいと思ってしまうのに。
……ほんと、この人は危険すぎる。
私にしか効かない劇薬みたいだ。
この人が死んでしまえば、うっかり死んでしまうくらい。
それほど、私の愛は重いのだ。
この人が居なくなれば、きっと私はまた死んでしまう。
指一本でも触れられれば、離れられなくなってしまう。
……いつか、ヴァルにとっての私が、そうなったらいい、とまで、思ってしまう。
私が居ないと生きていけなくなっちゃうくらいに、私の事を好きになってしまえばいいのに。
「もっともっと大好きになーれー」
そう言いながら抱き締め返すと、耳元でクスクスと笑い声が聞こえた。
「俺が?もっと?」
少し離れ、その顔を眺める。
「そう、もっと」
ふむ……と少し悩んだ顔をしたヴァルが、微笑んだ。
「いいよ」
この二人、きっといつまでもこの調子なんでしょうね。
次回からはまたチュチュとシエロくんのお話です。