20 デートしようよ(4)
馬が草原を走る。
エマとヴァルを乗せた馬は、町へ出るのとは反対方向、シュバルツの屋敷の方角へ走っていた。
空ばかりが見える景色。
風を切る音。
顔に当たる風は涼しくて、火照った頬を冷ますのにちょうどよかった。
次第にシュバルツの屋敷が見え、そして通り過ぎていった。
どこまで来たのか、山が見え、木々が生い茂る場所が見えた。
馬は、林の中へ入っていく。
怖くは、ない。
木々の間から陽が差し、花が咲く。
馬は、速度を落とし、カポカポと歩く。
相変わらず、ヴァルのホールド加減はそのままだ。
「綺麗なところだね」
「だろ?」
ヴァルはどことなく得意そうだ。
お気に入りの場所に連れてきてくれたのかもしれない。
程なくして、目の前がチカチカと輝くのが見えた。
「水?」
「ああ」
目の前に現れたのは、小さな泉だった。
透き通る水。
シュバルツは綺麗なものが多いと、父が言っていたっけ。
エマは、泉の縁にしゃがみこんだ。
「触ってもいい?」
「ああ。落ちるなよ」
ヴァルは、馬に泉の水を飲ませている。
湧水、なのかな。
水面は微かに波打っており、キラキラと陽の光に反射し輝いた。
「あ、けっこう冷たい」
ぴしゃぴしゃと触れる水は、暖かな空気に反してとても冷たい。
ブーツを脱いで裸足になると、爪先に水を触れさせる。
水が、パシャパシャと弾ける。
「冷たーーーーーい!」
「おい、本当に落ちるなよ」
「はぁああああああああ!!!!!」
“はぁい”と返事をしようとした、その矢先だった。
「おいっ」
石の上で足を滑らせる。
落ちる……!
ぎゅっと目を瞑った時。
ぐっと腕を引かれる。
「…………!!」
地面に倒れ込むエマの代わりに、腕を引いたヴァルが泉に落ちていく。
「ヴァル……!」
バッシャーン!!
激しい音を立てて、ヴァルが水の中へ落ちた。
幸い、泉のその辺りはそれほど深くなく、ヴァルがびしょびしょになるだけで済んだ。
「冷てぇ……」
「ふっ、ははっ」
笑いながら、ザブザブと泉の中に入り込み、ヴァルを助け起こす。
「お前が入ってきてどうするんだよ……。俺の苦労を……」
「うん、ありがとう」
言いながら、どうしても、そんな姿のヴァルを見るのは初めてなので、笑いがこぼれてしまう。
腕を引き、ヴァルが立つと、ヴァルがつけたマントから水がぼたぼたと滴った。
ザボ……ザボ……、という音をたてながら、なんとかヴァルが岸に辿り着く。
ヴァルがマントを近くの木にかけるのを見届けてから、エマは水の中で遊び始めた。
「冷たいけど、少しなら遊べそう!」
「それに倣って、ヴァルもバチャバチャと水の中に入ってきた。
二人、水を蹴飛ばしながら、しばらくそこで遊んでいた。
馬は草を喰み、ぶるぶると鼻を震わせる。
しばらく遊んだあと、草地に二人、腰を下ろした。
「じゃあ、エマ、火の方な」
「わ、わかった」
左手を突き出し、集中。
「炎」
エマが唱えると、左手に着けた腕輪の前に魔法陣が現れ、弾けるように消える。
左手前方に、小さな、といってもマッチの炎よりは大きな火の塊が現れた。
そこへ重ねるように、ヴァルが、
「ワール・ウィンド」
と唱える。
ヴァルが持つ短剣の前に魔法陣が現れ、弾けるように消える。
すると、エマの炎を取り巻くように、そよそよとした風が巻き起こった。
火で温められた空気が、さやさやと周りに振りまかれる。
「あったかーい」
ちょっと緩めのドライヤーといった感じ。
「もうちょっと大きな火が出ればよかったんだけど」
「いや、数分もつだろ?かなり頑張ってるよ」
それでも、意外と身体も服も温まる。
「今日はたくさん遊んじゃったね」
「たまにはこういうのもいいな」
マントの様子を見に行くヴァルの後を、ちょこちょこと付いて行く。
「ねぇ、ヴァル」
「……ん?」
エマが予想外に真面目な顔をしているので、ヴァルもそれにつられ、真面目な顔になった。
「これってさ、」
きゅっと、ヴァルの袖を掴んだ。
「デートってことで……、いいんだよね?」
「へ…………?」
その瞬間、ヴァルは、素っ頓狂な声を上げて固まった。
本編が終わっても、もちろん仲良しですよ!




