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第42章

 あの後、エドワード殿下もトマス教皇猊下にお会いされ、無事に私との結婚に際しての協力を取り付けることに成功したらしい。

 だが、どうもかなり高い代償をエドワード殿下は支払う羽目になったようで、私が手紙で聞いてもその内容を教えて下さらない。

 キャロライン皇貴妃殿下にはエドワード殿下は伝えられたらしいが、キャロライン皇貴妃殿下も私にはエドワードから秘密にするように言われたから、と言って、教えて下さらなかった。

 余程高い代償なのだろう。


 そうこうする内に、年末に無事に女の子をキャサリン皇女殿下は出産された。

 またも女の子だったことに、私は内心で安堵した。

 やはり、大公家継承者の実母にも私はなりたいからだ。


 そして、年が明けると、今度はキャロライン皇貴妃殿下がエドマンド皇子を出産された。

 トマス皇太子だけでは不安があったが、二人目の男の子ができて一安心という空気が宮中に流れた。

 もっとも、無事に成長されないと意味がない。

 無事に成長するようにと言うお祈りが今度は行われるようになった。


「エドマンド様を、またもマーガレット皇后の養子にする?」

 私達キャロライン皇貴妃殿下付きの宮中女官は思わず悲鳴のような声をあげていた。

「ええ、その方が兄弟仲良く育つと思うの」

 キャロライン皇貴妃殿下は微笑みながら答えられた。

「お二人目はご自身で育てられてもいいのでは?」

 古参の宮中女官の1人が声を上げたが、キャロライン皇貴妃殿下は頭を振られて言った。

「マーガレット皇后陛下はお子がおできにならなくて内心で苦しまれている。せめてもの気遣いよ」

「確かにそうですが」

 先程の宮中女官も肯かざるをえなかった。


「本当にそう思われているのですか?」

 私はどうにも疑問を覚えて、キャロライン皇貴妃殿下に尋ねた。

 私がエドワード殿下の第二夫人候補になって以来、キャロライン皇貴妃殿下は二人きりの時は義妹として私を扱って下さるので、私も少し無遠慮とは思ったが、思い切って尋ねることにした。

「本当はね、エドマンドを夫ジョンの息子として順当に育てるため」

 キャロライン皇貴妃殿下は達観した表情を浮かべて、私に小声で言った。

「私も夫も、お互いを子どもを作る道具としか見ていない。そんな中で育ったら、エドマンドが歪む。素直にエドマンドを育てるためには、マーガレット皇后の養子にエドマンドをするのが一番なの」

「そんな」

 私はキャロライン皇貴妃殿下の独白を聞いて絶句した。

 原作では、お二人はとても仲の良い夫婦で、マーガレット皇后が嫉妬したのに。


「子どもが出来たからと言って、必ずしも仲のいい夫婦とは限らないわ。私がなぜ、ジョン皇帝にうとまれるのかは分からない。もっとも、それを理由にジョン皇帝をうとんでしまう私も私なのかも」

 キャロライン皇貴妃殿下は少し遠い目をして、半分独り言を言った後で続けた。

「ジョン皇帝は、私の背後に何か怖いモノが見えるのでしょうね。私の憶測では、アン叔母さまの翳が私から見えているのでしょう。ジョン皇帝にとっては、アン叔母さまに対して自分や父ジェームズが求婚したことから、帝室が破局を迎え、「帝都大乱」が起こったという想いがある。私に全く責任は無いのだけど」

 いつの間にか、キャロライン皇貴妃殿下は涙を浮かべていた。


 私は原作の描写を思い起こした。

 そういえば、アン先代大公妃とキャロライン皇貴妃殿下は実の母子だけあって、生き写しと言っていい程に似ているという描写があった。

 ジョン皇帝は、アン先代大公妃の翳をキャロライン皇貴妃殿下に見ているのか。

「帝都大乱」から10年以上が経つのに、私も含めてその翳は未だに落ちてくる。

 私は物思いに暫く耽ってしまった。

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