第41章
「キャサリン様に加え、キャロライン様もご出産とは真にめでたい限り、教会を挙げて御祈りを捧げましょうぞ」
「ありがとうございます」
トマス教皇猊下は、私の記憶の限りでは、原作では顔を出していない。
そのためにどんな人物かと私は思っていたが、修道院長様の仲介により、初めて顔を見た限りでは、表面上は学識豊かで人間味溢れる人物のようだった。
「さて、裏の話をさせてもらいましょうか」
トマス教皇猊下は、微笑みながら言った。
やはり表面の顔は嘘だったか、私は観念して話すことにした。
「なるほど、エドワード殿下と結婚を考えておられる」
「はい、しかし、皇帝陛下も、大公ご夫妻も、私の兄も、更にマイトラント伯爵も反対です。マイトラント伯爵に至っては、自分の娘をエドワード殿下の第二夫人と考えているようです」
「見事なまでに反対者が揃っておられますな」
トマス教皇猊下は、笑いながら言われた。
「教皇の私でも対処は無理そうだ」
「そんな」
私は絶望的な声を上げた。
教会に味方してもらえなくては、どうにもならない。
「話は最後までお聞きください。無理だとは、私は言っておりません。無理そうだ、と言ったのです」
トマス教皇猊下の次の一言に、私は安堵のため息を吐いた。
「しかし、教会にもそれなりの見返りが無いと、私としても動きづらい」
確かにそうだ。
教会はそれなりの大組織なのだ。
決して、教皇猊下単独で動いているわけではない。
私は暗黒面を発動させることにした。
「私がエドワード殿下の第二夫人になれた暁には、帝国中のボークラール一族に教会の荘園を保護するように本宗家の一員として命じましょう」
「ほう、これはこれは大きな見返りだ。しかし、あなたが命じることに、ボークラール一族は本当に従われるのですか」
「それは、私からは申し上げられませんわ」
私はわざと笑って言った。
トマス教皇猊下も、私の真意を覚ったのだろう、笑いを浮かべながら言った。
「確かに、ダグラス殿がおられるのに、あなたから話せることではありませんな」
そう、兄ダグラスは、私にとっては、今や恋の障害にして、大公家への反逆を企んでいる可能性が高い人物になっている。
私の最愛の人エドワード殿下の為にも、私の味方に転じ、大公家に大人しく従わないならば、最終手段を講じるまでだ。
「エドワード殿下にも、ご意向を確認しましょう。その上で、この話を進めさせていただきましょう」
トマス教皇猊下は言われた。
これまた、教会側にしてみれば、当然のことだ。
私がエドワード殿下と結婚したい余り、嘘を吐いている可能性もあり得るからだ。
そして、本当ならば、更なる見返りを教会側はエドワード殿下に求めるつもりか。
だが、仕方ない、現状では私やエドワード殿下の方が立場が弱い。
しかし、多少ははったりを効かせないと。
「それで構いませんわ」
私は嫣然と微笑んだ。
空元気と見破られるのがオチだろうが、少しでも虚勢を張らないと、まとまる話もまとまらなくなる。
それにしても、私に似合わない役回りをする羽目になったものだ。
こういった悪役然とした演技は、皮肉なことに実は敵のフローレンス嬢の方が得意だろう。
私は内心で思い切り嘆いた。
「今のお話が真実ならば、教会は味方します。何しろ、困った弱い者の味方ですからな。教会は」
トマス教皇は断言した。
その言葉を聞いた瞬間に、それは嘘でしょう、「帝都大乱」の時も強い方の味方に教会は付いたでしょうに、と私は思わず言いたくなった。
忘れようと努めていた私の父の事が頭を過ぎったからだ、だが、私はぐっと我慢した。
今、ここで教会は絶対に敵に回せない。
「よろしくお願いします」
私は大人しく頭を下げるしかなかった。




