第37章
第5部の始まりです
エドワード殿下とキャロライン皇貴妃殿下の3人で密談した翌日、私は表向きはキャロライン皇貴妃殿下から頼まれた別の用事で、マーガレット皇后陛下を訪ねた。
本当の目的は別にある。
フローレンス・マイトラント伯爵嬢を私が見極めることだ。
キャロライン皇貴妃殿下によるとこの1月に宮中女官に出仕したばかり、私と同様の女騎士とのことだが、どんな容姿や性格なのか、私にはさっぱり分からない。
せめて、原作中に出ていれば、と私は少しだけ思ったが、更に考えてみると、原作中だと単なる子爵家の娘、私と同様にモブキャラに過ぎない存在として描かれるだけだろう。
仮に出ていても、よくてフローレンスとか、マイトラント子爵家令嬢とか、と書かれて名前が分かっておしまいの描写だろう。
そんな描写で、容姿はまだ分かるが、性格なんか、分かるわけがない。
この世界のマーガレット皇后とキャロライン皇貴妃は義理の従姉妹(マーガレット皇后はアン先代大公妃の養女、キャロライン皇貴妃はアン先代大公妃の実姉メアリ現大公妃の養女)であり、幼い頃から姉妹同然に育ってこられた。
原作だと犬猿の仲だったが、この世界ではそのためもあり、本当に仲が良い。
私をマーガレット皇后は暖かく迎えられ、この1月から宮中女官になられた方に挨拶をしたいという私の申し出を疑いもせずに認めて下さった。
「フローレンス・マイトラントです。どうか、よろしくお願いします」
「アリス・ボークラールです。キャロライン皇貴妃付きです。こちらこそ、よろしく」
私の方が、宮中女官になった方が先なので、フローレンスの方が先に頭を下げた。
それにしても、何で16歳になってから、宮中女官になったのだろう。
本音は、エドワード殿下狙いだろうが、表向きの理由がある筈だ。
そうしないと周囲が怪しむ。
15歳になったらすぐに宮中女官になるのが通例だからだ。
「一昨年、大病をしまして、昨年の今頃は寝たり起きたりでしたの。ようやく元気になりましたので、あらためて宮中女官になりました」
「そうでしたの」
私の疑問を察したのだろう、フローレンスの方から口を開いた。
この娘は、平然と嘘がつける性格だ、と私は判断した。
バラ色の健康そのものといった顔色をしており、体も16歳にしては十二分に発育している。
一昨年、大病をしてしまい、回復後もしばらく寝たり起きたりの生活をした人間が、幾ら十代とはいえ、ここまで回復するものか。
私の前世の医療技術をしてもとても無理だろう、この世界の中世並みの医療技術では絶対無理だ。
もっとも、自分で自分の嘘を信じ込んでしまう性格なのかもしれないが。
それにしても、エドワード殿下が美女好みだったら、まず落とせるだろうという美貌の持ち主だ。
出るべきところは出ており、私の目測だが80台半ばのEカップの持ち主で、安産型の体形をしている。
私は、容姿に関しては平均より上といったところ、ぎりぎり貧乳呼ばわりされないくらいの体形は持っているが、フローレンスと比較されては、どうにもならない。
えーい、この体形は孤児院の質素な食生活のせいだ、と私は内心で八つ当たりをした。
「あの、他に何か御用でしょうか」
「いえ、単に挨拶をして、お顔を覚えようと思っただけです。名前と顔が一致しないのは失礼ですから」
私は取りあえず誤魔化した。
「そうですわね」
お互いに笑いあって別れたが、自分もそうだったが、フローレンスの目も全く笑っていなかった。
どうやら、私は彼女にとって敵と既に認定されていたらしい。
そもそもが、ボークラール家とマイトラント家は、色々な意味で長年の宿敵関係だ。
私は、彼女に会って、敵愾心が燃え盛るのを内心で覚えた。




