幕間ーエドワード3
キャロライン姉さんに、急に呼ばれたので都合をつけて訪れると、腹心の侍女と3人で密談をしたいと言われた。
本当は血を分けた姉さんなのだが、血筋の上では表向き単なる従兄の娘だ。
キャロライン姉さんと2人きりで密談するわけには行かない。
自分がキャロライン姉さんに誘われて、別室に移動すると、中にはアリスがいた。
アリスは凍ったような冷たい目をしている。
あんなアリスの目は、初めて見た、一体何があったのか、と思っているとアリスから口を開いた。
「エドワード殿下、フローレンス・マイトラントという宮中女官に覚えはありますか?」
「ああ、マーガレット皇后付きの宮中女官だね。マイトラント伯爵からもよろしくと頼まれた」
「そうですか。まだ、アプローチを掛けていなかった」
アリスは笑みを浮かべた。
だが、いつもの花開くような暖かい笑みではない、見る人に背筋を冷たくさせる笑いだ。
キャロライン姉さんが続けて口を開いた。
「その子は、あなたの第二夫人候補よ。メアリ母さんが教えてくれたわ」
「ええ、知らなかった」
私は本当に知らなかった。
アリスが更に口を開いた。
「エドワード殿下、私を愛しておられますか」
「もちろんだよ」
私は答えた。
実際に私は彼女を愛している。
だが、今のような君じゃない、と咽喉元まで出かかったが、アリスの目がそれを許さなかった。
敵となれば、血を分けた肉親と言えど容赦なく命を奪ったボークラール一族の目を紛れもなく今の彼女はしていた。
今、下手なことを言うと、アリスは私の命を素手で奪うのではないか?
それなりに武芸で身を鍛えている自分だ、武芸を学んでいないアリスなど一瞬で制圧できるはずなのに、アリスに命を奪われる未来しか見えない。
キャロライン姉さんが、アリスのフォローに入った。
「アリスはね。腹を決めたのよ。あなたとの愛を貫きたいと。でもね、皇帝陛下も、大公家も、更にマイトラント伯爵までアリスの敵よ。文字通り、周り全てが敵ね。マイトラント伯爵なんか、下手をするとアリスの命を奪うことまで考えるでしょうね。何しろ、宿敵ともいえるボークラール本宗家の娘よ、アリスは。エドワードの第二夫人にアリスがなったら、マイトラント伯爵はアリスを殺してもおかしくない」
「確かに」
皇帝や大公家なら、命の危険はないだろう。
だが、マイトラント伯爵は別だ。
さすがに自分に手は出さないだろうが、配下の騎士に命じて、アリスを密殺してもおかしくない。
後は実際の下手人の騎士も消して、素知らぬ顔をするだろう。
アリスと自分が愛を貫くなら、自分も命を掛けねばならないということか。
「アリス、命がけで君を護るよ」
私はそう言った、アリスがそこまでの覚悟を固めたのだ。
自分もそれに応えてあげねば。
彼女がその道を選んだのだが、自分もその道を選ぶ際に手を引いてしまった。
その言葉を聞いたアリスの笑いに冷たさが消え、暖かみが戻った。
よかった、アリスにはその笑みが似合う。
「ともかく、アリスが自衛できるようにならないと。幸いなことにボークラール一族は完全に絶えた訳ではない。ボークラール一族から頼りになりそうなのを選んで、アリスの警護を行わないと」
私は声を上げた。
本来なら軍事貴族筆頭のマイトラント伯爵家に頼むことなのだが、はっきり言って、そんなことをしたらアリスを殺してくださいと頼むようなものだ。
警護の者が加害者に変わりかねない。
「まあね。他にもいろいろ考えることがあるわね」
キャロライン姉さんも声を上げた。
アリスも加わり、3人の密談は長い時間が掛かることになった。
それにしても、アリスがキャサリンとの仲を深めるように勧めるとは。
私は密談が終わった後で頭を振った。
次話から第5部に入ります




