間章
私は、キャロライン皇貴妃殿下のお話を聞いて、半分、呆然とする思いに駆られていた。
私とエドワード殿下の恋路にここまでの障害があったとは。
「どうする。メアリ母さんが教えてくれたわ。マイトラント伯爵が、自分の姪にして養女を弟エドワードの第二夫人にしたいと考えているって。彼女は、フローレンス・マイトラントという名前で、マーガレット皇后の宮中女官として出仕しているとのことよ。もう、弟エドワードにアプローチを掛けているかも。あなたが、エドワードとの恋を貫くというのなら、マイトラント伯爵は最悪の場合、あなたを排除するための手段を選ばないでしょうね。あなたとエドワードの恋は、皇帝も反対。大公家も反対。あなたのお兄様も反対でしょう。そこにマイトラント伯爵まで加わったら」
キャロライン皇貴妃殿下は、私と二人きりの場で、そこまで話した後、私をじっと見据えて、私の返答を待っていた。
私は半分途方に暮れる想いに駆られた。
マイトラント伯爵は、今や軍事貴族筆頭と言える立場にある。
下手をすると並みの公爵よりも陰の力は上かもしれない。
今のマイトラント伯爵が一声かければ、帝国の騎士、数千が集まってくるだろう。
大公家が今の権勢を維持しているのも、マイトラント伯爵の力が陰である。
マイトラント伯爵が大公家に忠誠を誓っているために、反大公家の動きは抑止されているのだ。
だが、その言葉を聞くうちに、私の血がたぎってくるのを私は覚えた。
確かにマイトラント伯爵は強敵だ。
しかし、私の血を舐めてもらっては困る。
私は、ボークラール本宗家の娘なのだ。
この世界で覚せいして、十年余りの歳月を過ごす内に、私は自然と私の家の歴史を覚えた。
私の家は、自らに敵対するというのなら、身内、それも兄弟同士でも容赦せずに刃を向けて、命を奪い合った家なのだ。
その家の歴史を思えば、身内で馴れ合っているマイトラント伯爵の一族は甘い、甘すぎる。
敵ならば容赦なく命を奪う苛烈さ、そういった側面が軍事貴族には求められるのが、彼らには全く分かっていない。
私は完全に腹を据えた。
「キャロライン皇貴妃殿下、幾つかお願いがあります」
私はキャロライン皇貴妃殿下を見返しながら、言葉を発した。
「何かしら」
キャロライン皇貴妃殿下は首を傾げている。
「エドワード殿下に「挨拶」をしたいのですが」
「どんな「挨拶」?」
「私の一族を近衛軍の一員に取り立てていただけないでしょうか」
「その「挨拶」の見返りは?」
「後々の話になりますが、ボークラール本宗家当主の座」
私とキャロライン皇貴妃殿下は会話した。
「ボークラール本宗家当主は、あなたの兄ダグラスでしょう?」
「ええ。しかし、私の夢を阻むというのなら、兄と言えど」
キャロライン皇貴妃殿下の問いかけに、私は自分でも背筋が冷たくなるような声を出した。
「他には?」
「エドワード殿下に、キャサリン皇女殿下と仲良くなさるようにお勧めください」
「エドワードとキャサリンが仲良くなってもいいの?」
「第二夫人を目指そうとする者、愛する人と第一夫人が仲良くなるように動くべきでは?できましたら、第二子、第三子とキャサリン皇女殿下がエドワード殿下のお子を産んでいただければ」
キャロライン皇貴妃殿下に、私は相変わらず冷たい声を出した。
キャロライン皇貴妃殿下は、私の言葉に肯いた。
「フローレンスのエドワードへのアプローチ封じのためね。確かにキャサリンが妊娠していては、フローレンスはエドワードに積極的にアプローチできないわね」
私は肯いた。
「そこまで覚悟を固めているというのなら、私はあなたとエドワードの恋路を応援するわ」
キャロライン皇貴妃殿下は言ってくれた。




