幕間ーキャロライン3
メアリ「伯母さん」が去っていくのを見送りながら、私は考えを巡らせた。
アリスとエドワードに警告を発した方がいいが、どうするのが最善だろうか。
マーガレット皇后陛下に、娘のフローレンスをマイトラント伯爵が、宮中女官として仕えさせるとは、私の予想外だった。
フローレンスという名前に私は覚えがある。
私の乳母ジュリエットの姪で、父を早く亡くし、マイトラント伯爵の養女になった女性の筈だ。
マイトラント伯爵家にしてみれば、掌中の珠のような存在だろう。
そのフローレンスをエドワードの婿にする。
確かに大公家にとっても悪くは無い話だ。
軍事貴族筆頭のマイトラント伯爵家は極めて大事な存在だからだ。
今、大公家が帝国の政治を事実上握っているのは、軍事貴族筆頭のマイトラント伯爵家が大公家に忠誠を誓っているのが大きい。
マイトラント伯爵家は、対峙していたボークラール子爵(本宗)家が「帝都大乱」で没落した結果、現在の地位を手に入れた。
今や「マイトラント伯爵家の血を承けし者以外は、軍事貴族の本流に非ず」という威勢をマイトラント伯爵家は誇っている。
だが、将来的にはどうだろう?
このまま行くと大公家はマイトラント伯爵家の傀儡に堕す可能性は否定できない。
「兵は力次第、力は金次第、金は兵次第」という金言がある。
現在のマイトラント伯爵家は、軍事貴族筆頭として、帝国の兵を事実上握っており、財力も大公家を別格とすれば、貴族の中でも一、二を争う存在だ。
ここで、エドワードの第二夫人にフローレンスを迎え、フローレンスが大公家の跡取り息子を産めば。
私は、そこまで考えを進め、背筋が寒くなる思いがした。
大公家のためには、アリスとエドワードの結婚を進めるのが妥当だ。
アリスとて、軍事貴族の娘なのだ。
それも、ボークラール本宗家の娘。
当主が一声かければ、騎士1万を集めることも夢ではない、と謳われたボークラール本宗家。
アリスの兄ダグラスを消し、アリスの婿にエドワードがなれば、必然的にボークラール本宗家は大公家と一体化される。
ボークラール本宗家と一体化した大公家は、あらためて軍事貴族としても筆頭の地位を確立し、マイトラント伯爵家の傀儡に堕す心配をせずともよくなるだろう。
問題は、エドワードやアリスにそこまでの覚悟があるかどうかだ。
さすがにアリスの兄ダグラスを消すのは公言できないが、マイトラント伯爵家に刃向う勇気があるのかどうかが、2人への試金石だ。
2人がマイトラント伯爵家には刃向えないというようでは、どうにもならない。
まずは、アリスに対して意向を確認しよう。
ああ見えて、アリスは意外と芯が強い。
そうでなければ、兄ダグラスが地方に下ることが決まった時、帝都で1人きりになる寂しさから、兄ダグラスと共にアリスは地方へ下っていたろう。
つい最近も、1年、表向きはエドワードと別れてほとぼりを冷ますように、という私の提案もアリスはつらくとも受け入れた。
それに、私は更に考えを巡らせた。
実の兄弟と言えど、敵に回れば、容赦なく刃を向け、命を奪う武闘派がボークラール一族の特質だ。
アリスもその血を承けているのだ。
第二夫人の地位を狙う恋敵には、同様の態度を執る可能性がある。
どこまでボークラール一族の血をアリスは強く承けているのか、私の内心が楽しく思えてきた。
そして。
アリスが、マイトラント伯爵家に刃向うというのなら、エドワードもアリスに背を押されて同様にマイトラント伯爵家の意向に素直に従うまい。
そうなったら、帝都に残るボークラール一族をアリスの下に結集させよう。
そうなれば。
私は自分の考えを推し進める内に、自分の内心が喜びに沸き立ってくることが分かった。




