幕間ーメアリ
「まさか、夫と手を組んだとは思わなかったわ」
私の目の前で、娘にして姪のキャロラインが睨みながら、言っていた。
私は涼しい顔をして、お茶の香りを楽しみつつ、わざととぼけた。
「何の事かしら」
「アリスとエドワードの事よ。キャサリン皇女の妊娠の事はともかく、2人が愛人関係にあるという噂をわざと流していたのが、「伯母さん」とは思わなかった」
「すぐに気が付くと思っていたのに、年明けになるなんて、意外と気が付かないものね」
「敵と手を組むと思わなかった」
「あら、昨日の宿敵は今日の親友、その親友は明日の宿敵かも、と教えたはずよ。更に言うと大公家の家訓は、天使が敵に回るなら、勝つために悪魔とも手を組む。ジョンと手を組むのも利害が共通するなら当然の事よ」
私は、キャロラインを諭した。
キャロラインは渋い顔をして口をつぐんだ。
しばらく、私達の間に静かな時が流れた。
私は手ずから、お茶のお代わりをしつつ、キャロラインに事情を説明した。
「アリスとエドワードがお互いに結婚したいと、恋に熱を上げているのは知っているわ。でもね、恋に恋しているだけでは、と私は心配なの。大公家にとって、第二夫人の結婚と言えども、政略を完全には無視できない。恋だけで結婚はできないの」
「それは分からないでもないわ」
渋々と言った口調で、キャロラインは認めた。
「それにね」
私は手札を明かすことにした。
「マイトラント伯爵家がアリスとエドワードの交際に大反対なのよ」
「マイトラント伯爵家が」
私の一言に、キャロラインが驚愕した。
「どうして、私の乳母ジュリエットの実家のマイトラント伯爵家が」
自分の味方と思っていたマイトラント伯爵家が反対とは思わなかったのだろう、キャロラインの声が明らかに動揺して途中で途切れた。
「リチャードの第一夫人をほのめかしたけど、ダメだった。軍事貴族筆頭となったマイトラント伯爵家の婿としてエドワードは目を付けられているわ。第二夫人でもいいとのことよ。エドワードの武芸の腕、更に次期大公、エドワードを是非とも婿にとジュリエットの夫ロバートまで言ってきたわ」
私は微笑みながら言った後で、言葉を継いだ。
「どうする。マイトラント伯爵家に味方する?」
キャロラインは、暫く考え込んだ後で断言した。
「私はエドワードに味方します」
「そう」
私はしばらくお茶の香りを楽しむふりをした。
「そこまでの覚悟があるのなら、もう一つ、情報をあげるわ。マイトラント伯爵家は、エドワードの同い年のフローレンスという娘をエドワードの第二夫人に考えているみたい。マーガレット皇后の宮中女官として彼女は出仕しているわ。良く覚えておきなさい」
「分かりました」
私の言葉にキャロラインは肯いた。
「それじゃね。アリスとエドワードを結ばせたいなら、政治的利益を提示しなさい」
私は立ち上がり、キャロラインに別れを告げた。
キャロラインは私を睨んで見送っている。
今回の一件で、娘にして姪の恨みを私はかなり買ったようだ。
私は自宅に戻る馬車の中で思った。
アリスか、前世ではエドワードと元皇帝ジェームズと二人共通の愛人をしているアバズレ女だという噂がネットではあった。
作者が、漫画の後書きで怒って、アリスはそんなふしだらな女ではありません、と断言したが、作者の嘘だとネットが炎上までした。
この世界では、アリスはエドワードと本当に結ばれるかも、キャロラインがアリスとエドワードが結ばれることに実は政治的利益が大いにあることに気が付けばいいのだが。
私は、そこまで考えが至るに及び、微笑まざるを得なかった。
その前に夫チャールズが難問なのだけどね、私は更に考え、微笑みがより広がるのを覚えた。




