第32章
園遊会で、春と同様にエドワード殿下は素晴らしい笛の音を披露され、私は今回は聞くことができたが、キャサリン皇女の妊娠のことや、先程のエドワード殿下とジョン皇帝陛下との会話とのことで、頭の中が完全に一杯になり、笛の音に感嘆するどころではなかった。
自分の頭の片隅で分かってはいた。
自分の身の上が、所詮は日陰の者であることが。
でも、まさか、こんなことが起こるなんて。
ジョン皇帝陛下が、エドワード殿下を訓戒されるのは当然のことだ。
キャロライン皇貴妃殿下やエドワード殿下が、15歳で結婚しているので、つい忘れがちになるが、本来から言えば、帝国で結婚できるのは18歳になってからだ。
お二人が15歳で結婚しているのは、皇帝の勅許によるものだ。
エドワード殿下が私と関係を持とうとすることは、二重、三重の意味で今は良くない。
確かにキャサリン皇女が妊娠されて大変な時に、夫のエドワード殿下が愛人を外に作られた、という噂が周囲に流れては、キャサリン皇女はお心を痛められるだろう。
召人ならいいのか、とジョン皇帝陛下とエドワード殿下の会話から思われそうだが、召人の場合、キャサリン皇女と同居されているので、家庭内の話で収まってしまうし、以前からそういう関係にあったと取り繕うことも出来る。
愛人だと外にいるので、話が家庭内では収まらなくなってしまう。
そもそも18歳を待たず、15歳で結婚している時点で、特例を認められているのに、他にエドワード殿下が愛人を作った時点で下手をすると大騒動になりかねない。
エドワード殿下と同い年の公達が、結婚前に宮中女官等と愛人関係(恋人関係というべきか)を結ぶのが黙認されるのは、独身だからだ。
エドワード殿下は、そういう点でも異なっている。
第二夫人を持ったり、愛人を他に持ったりしてもいい世界では、と思われそうだが、エドワード殿下は若すぎるのだ。
大公家の跡取りとして、結婚して1年も経たないのに愛人を外でも作るなんて、特権を振りかざしているとか、遊び過ぎだとか、周囲の嫉視をエドワード殿下は買いかねない。
これが、例えば、エドワード殿下が20歳を過ぎていて、第一夫人もそれなりの歳になった後で、第二夫人を迎えるとか、愛人が出来たとかいうのなら、周囲の反応も変わるだろうが。
ジョン皇帝陛下としては、自分の姉妹であるキャサリン皇女を大事に想い、また自分の甥姪ができることから、エドワード殿下を訓戒されたのだろう。
誰もそれを非難するどころか、当然の事と考える。
私もそれに反論するどころか、頭を下げざるを得ない。
しかし、エドワード殿下も、何故にキャサリン皇女の妊娠を、私に伝えなかったのだろう。
キャロライン皇貴妃殿下の耳にも入っていなかったようだ。
もし、入られていたら、キャロライン皇貴妃殿下の事だ、すぐに騒がれていたろう。
それにしても、私とエドワード殿下が愛人関係等、いつの間にそんな噂が広まってしまったのだろう?
私達の関係は、未だに清いままなのに?
周囲の宮中女官や侍女の噂が思いもよらない方向にねじ曲がってしまったのだろうか。
そして、それがジョン皇帝陛下のお耳にまで届いている、とはどういうことだろうか。
私の内心は荒れ狂った。
園遊会が無事に終わり、参列者それぞれが自邸に戻られ、私も本来の所に帰った。
本当は、園遊会の合間にエドワード殿下に私は声を掛けたかったが、あのようなエドワード殿下とジョン皇帝陛下との会話があっては、どうにもならない。
私は、簡単な片づけを済ませた後、寝床にもぐりこみ、懸命に眠ろうとしたが、キャサリン皇女殿下の妊娠や、園遊会での出来事を考えるたびに目がさえ、朝まで眠れなかった。




