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第20章

 エドワード殿下を見送り、あらためて贈り物の仕分けを行おうとすると、周囲の目が冷たくなっていることに気づいた。

 仕方ない、今回の事で、私がエドワード殿下のお気に入り、という噂がさらに広まるだろう。


 そうは言っても、キャロライン皇貴妃殿下の監督の目が光っていて、私に対する公然たるいじめが無いのが救いだ。

 キャロライン皇貴妃殿下は、そういったいじめを断固として許さない。

 以前にある伯爵家出身の宮中女官で女伯爵に叙せられていた方が、男爵家出身の侍女に陰でいじめをしていたのが発覚した際のキャロライン皇貴妃殿下の処理は、いろいろな意味で語り草になっている。

 その宮中女官は即座に辞職させられ、爵位も剥奪されてしまった。

 父親の伯爵が取り成そうとしたが、少々の女性同士のいじめくらい、とつい言ってしまったことで、キャロライン皇貴妃の怒りを更にあおってしまった。

 そのために父親も参議を辞める羽目になった。

 更にその宮中女官には婚約者がいたのだが、キャロライン皇貴妃が怒っているとのことで、その婚約も破棄されてしまい、その宮中女官はそれを恥じて独身のまま、修道院に入る羽目になった。

 チャールズ現大公の長女とはいえ、秋霜烈日、キャロライン皇貴妃が怒った際の凄まじさが分かる。


 そういえば、キャロライン皇貴妃付きの古参の宮中女官(古参といってもキャロライン皇貴妃殿下が入内したのは3年前だから、まだ3年目だけど)が、結婚するので6月一杯で辞職するとのことだった。

 7月に臨時に宮中女官の任命があるのだろうが、誰が宮中女官になるのだろう。

 私は幾ら何でも早いだろうし。

 そんなことを思っていると、キャロライン皇貴妃付きの宮中女官長に私は呼ばれた。


「何事でしょうか?」

「キャロライン皇貴妃の推薦で、あなたを7月から宮中女官にすることが内定しました。そのつもりでいなさい」

「ありがとうございます」

 宮中女官長のお言葉に、私は思いきり頭を下げた。

 それにしても何故だろう、他にも単なる侍女はいるのに。


「あなたが庶民の娘と思われているので、それを解消するために、宮中女官にするとのことです」

 私の心を見透かしたかのように、宮中女官長は言葉をつないだ。

 そうか、そういうことか。


 帝国は身分制社会なので、宮中で働けるのは爵位を持った貴族か、その子弟だけだ。

 侍女と言えど、そう言った点は変わりがない。

 その点、私はどうかと言うと。


 一応、ボークラール子爵本宗家の娘とされてはいるが、細かいことを言うと違うのだ。

「帝都大乱」の際に、私の父は亡くなり、戦後、爵位をはく奪され、庶民に落されてしまったからだ。

 私の兄、ダグラスが男爵位を持っているので、一応、貴族の妹ということにはなるのだが、兄は爵位を授けられた後、すぐに地方に下り、土着してしまったので、兄が爵位を持っていることを知らない人が多い。

 だから、庶民の娘なのに、何故、あの人は宮中に仕えているのか、という陰口があるのだろう。

 全く兄は何故、幾ら望まれたからと言って、地方に土着してしまったのか。

 私は少し兄を恨みたくなった。


「あなたは、女騎士に叙爵されて、宮中女官になります。基本的な仕事は変わらないので、職務に引き続き励むように」

「分かりました」

 私は、返事をしながら思いを巡らせた。

 女騎士という名称だが、実際には男爵と同格だ。

 数百年前に、宮中女官に爵位が授けられるようになった際、伯爵や子爵といった他の爵位はその前に女という名称を付けることになったのだが、女男爵はどうもおかしい、という声があり、女騎士になった。

 兄ダグラスと同格の立場に私はなる。

 これからも精一杯頑張らねば、私はあらためて決意した。 

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