第19章
第3部の始まりです。
春の園遊会が終わり、夏が近づくにつれ、挨拶と称して、キャロライン皇貴妃殿下のところに贈り物が多々届くようになった。
キャロライン皇貴妃殿下付きの宮中女官と私的な侍女は、それを整理するのに時間を多々費やす有様。
原作で知っていたこととはいえ、きちんとした帳簿すら中々ないこの世界では整理が本当に大変だ。
「これは◯◯男爵家からの贈り物、絹の反物だけど、色の趣味があまり良くないわね」
「こちらは◯◯男爵家からですわ。軍事貴族のせいか、馬を贈って来られています」
「確かに高い物だけど、皇貴妃殿下に馬を贈る?」
「エドワード殿下に取り入りたいのでは」
「そういうことか」
私の周りでは、贈り物に容赦のない突込みが入っている。
何でこんなことになっているのか?というと。
7月に州長官等、地方官僚の任命が行われるので、今、無職の貴族達が、自分を任命してもらおうと大公家の方々に贈り物合戦を行うからだ。
地方官僚は見下されがちだが、裏の収入が結構有り、無職の貴族達には垂涎の的。
「帝都大乱」以前は、帝室の方々にも贈り物が多々あったが、「帝都大乱」以降は、帝室の方々への贈り物は全くと言っていいほど無くなったそう。
原作だと、帝室と大公家が勢力を二分していたから、帝室の方々への贈り物も多々あった。
そういえば、私のキャラは、原作でもアン准皇后陛下への贈り物を整理していたな、とそんなことをつい思っていると、いきなりエドワード殿下が見えられた。
「馬の贈り物があると聞いて見に来たのだけど、どこかな」
私が、私が、という自薦の声が挙がるが、エドワード殿下は無視されて、私に声を掛けられた。
「案内をお願いできるかな」
ええっ、また、嫉視の嵐を浴びてしまう。
下手に並ぶと目立つので、案内を口実に前へ立ち、少し早歩きで私は進むが、エドワード殿下は平然と私のすぐ後ろを付いてこられている。
「どうして、私を」
「君を気に入ったから」
私の問いかけに、エドワード殿下が軽く応えられた。
私は心臓が一瞬、止まるか、と思った。
「というのは、冗談で、あんな自薦の嵐の中、君だけ声を上げていなかったからさ。自薦に応えて、選ぶと後が厄介だからね」
「そう、そうですね」
そう言う理由か、私は思わず落ち込んだ。
「ところで、馬を見分けることは、君はできるの」
「すみませんが、私はできません」
私は頭を下げた。
本当ならできたはず、原作で、アン准皇后陛下が乗る馬車の馬を私が見定めるシーンがあったから、と内心で私は思って気づいた。
原作通りなら、私はボークラール子爵家の娘として順調に育ったはず。
軍事貴族の娘として、馬を近くで見る機会が多々あり、自然とできるようになっていたのだ。
「それじゃ、ボークラール子爵家の娘として恥だな。教えてあげようか」
「いいのですか」
私は天に上るような心地になった。
「今日だけね」
そうですよねえ、私の気分は急降下した。
「ここにつないであります」
私が馬をつないである場所に案内すると、エドワード殿下は馬に見入られ、馬の所々に触られた。
「ふむ、この馬は、乗馬用のいい馬だな。この馬は、乗馬用には少しダメだな。馬車向きの馬だな。馬寮(帝国軍の軍馬を統括する役所)にそのように指示しよう。最も、馬寮の専門家には別の意見があるかもしれないが」
エドワード殿下は、そう鑑別された後、私に馬の見分け方を教えてくれた。
すごい、私には馬の見分け方がさっきまで分からなかったのに、エドワード殿下の教え方がうまいので分かった気がする
「後は、何頭も見ることだよ」
「はい、頑張ります」
私は勢いよく返事をした。
「それじゃね」
エドワード殿下が、本来の職場へ向かわれるのを私は見送った。




